ぷよぷよ

長編

短編

  • 余裕がない

    「りすくま先輩って、難しいこと考えてるよね。愛についてとか、すごく高尚でかっこいいなあ」「……うん★」「それにいい声してるよね。低くて落ち着いてて、聞いてて安心するよ」「あっあのさ★」「どうしたの佐々木」「ボクも先輩ほどじゃないけど勉強でき…

  • ホワイト・アウト

    「佐々木くんってさあ、」同じ委員会の女の子と、二人で教室に残って仕事をしていたときだった。「なんだい?」その子とはあまり話したことがないから、ずいぶん唐突だなと思った。「佐々木くん、いつも楽しそうにしてるけど、それって本当?」……ずいぶん、…

  • 醜いわたし

    「サタン様。今日も大敗ですね」頭にでっかいたんこぶをこしらえて城に戻ってきた涙目のサタン様に向かって、私は言う。サタン様はハンカチで涙を拭いながら(まるでその仕草は女子)喚き散らした。「なぜ!なぜアルルは私に振り向いてくれないのだ!こんなに…

  • ほの甘いキモチ

    「アヤさんこんにちは」図書館に行くと、いつも通りアヤさんが座って読書していた。でもいつもと違うところが一つ。声をかけても返事がないということ。「アヤさん?どうしたの?」「……」アヤさんはいつも険しい顔をしているけど、今日はより一層険しい顔を…

  • あやしい関係

    本は好きだが置く場所が家にない、お金もそんなに持ってないということで、図書館を利用するのはわたしにとってごく当たり前の日常だった。いつからだったか。その日常が少し変化したのは。夕暮れ時だったのは覚えている。窓から陽の光が射し込んでいて、部屋…

  • 共時性増幅度

    *Synchronicity夢主「ずいぶん強くなったね、私が初めて召喚したときよりずっと」私が目で見ても分かるほど、こいつの魔力は格段に強くなっている。褒められて気を良くしたらしいこいつは、得意気に鼻で笑う。「本来のチカラとは程遠いが……ま…

  • くらやみの底

    「見るな」はっきりとした、悲しみの声がする。薄い暗がりから聞こえるその声に聞き覚えはないが、わたしには誰が発したものかすぐに分かった。「アヤさん」『それ』はびくりと肩を震わせた。いや、その場所が肩かどうかは定かではない。しかし、確かに『それ…

  • 共時性成長期

    *Synchronicity夢主「ついにクルークも、ここまできたね」「ふん!このくらいできて当然さ」大きな成長を遂げたあとでも、クルークはいつも通りだ。そういえば、この島で初めてクルークに出会ったときもこんな態度だった。横柄で、偉そうで、で…

  • コック姿のクルーク

    「わ、美味しそうなチキンサンド!どうしたのこれ?」「……よ」「え?なに?」「……作ったんだよ」「え、クルークが?本当に?」「わっ悪いか!ボクだって料理くらいできるさ!」「そうは言ってないけど……。でも、どうして急に?」「……り、理由なんてな…

  • Signal.

    国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。という、ある小説の一文を思い出した。別にわたくしは、トンネルを抜けたわけでも雪国にやってきたわけでもないが、今の心情を的確に表現するならばそうなった。――果たして此処は、何処だろう。その問いかけに答…

  • SENPAI

    「が、海外で流行っているらしいですよ。りすくま先輩」「ほう?海外には日本でいう先輩後輩という概念はないと聞いていたのだが……どのように使われているのかね」「主にオタクの間で、『大好きなのに気持ちに気づいてもらえない人』を指す言葉だそうです」…

  • Echos

    「時に」声をかけると、それまで窓の外を見ていた彼女が振り返った。「なあに?」「君は、永遠というものを信じるかね?」彼女はきょとんとした表情を見せて、小首を傾げた。「どうしてそんなこと、聞くの?」「質問を質問で返すのは、あまり好ましくないよ」…

  • 瓦解する愛

    「愛、それは無限の可能性……まさしく宇宙」このりすくま先輩は愛らしい見た目とは裏腹に男前なテノールボイスを有している不思議な人(?)だ。「そう、宇宙のように広がるわたくしの愛を感じないか」ついでに言ってることもよくわからない。「なんで、回り…

  • 星空パレードダンス

     ようやく完成する頃には、外はすっかり真っ暗になっていた。「できた……」 教室のなかは魔導で生み出した星空でいっぱいになっていて、教卓や机、そしてわたしも宙に浮いているように見える。万年赤点のわたしが、よくここまでやれたものだと涙がでそうに…

  • やがて消えゆく温度について

    *ふつうにいかがわしい どうしてこうなったんだろうなぁ。 うすぼんやりした頭の片隅で考える。お腹の底にうず巻く熱が、大きくわたしの中心を揺すぶっていてもそんなことを思い浮かべてしまうのだから、わたしはまだどこか冷静なのだろう。それともとっく…

  • 魅惑の視線

    恋をするって空から魔法が降ってくるようだ、と誰かが言ってたけれど。「本当にその通りなんだなあ……」誰もいない教室で、窓の外を頬杖ついて眺めながら独りごちた。外は夕方に差し掛かるころ、男子サッカー部が活動している。もうすぐ終わるのだろう、グラ…

  • 堂々巡り

    プリサイス博物館の図書室で、泣いている女が一人いる。 声はあげず、時々鼻をすする音だけが、室内に響いている。外は天気が悪いからか、利用者は女の他に誰もいない。「どうして私じゃないんだろうねえ」その言葉は私に向けられたものではない。「あいつ…

  • 雨がくれた距離

    私はカーテンの裾を握りしめながら、無慈悲に振りしきる雨を睨みつけていた。二階の窓から見える景色は、灰色に濁った雲と勢いよく地面を打つ雨で、陰鬱な気分をさらに落としこんでいく。 今日この日をどれほど待ちわびたと思っているのか。昨日は早起きす…

  • 冬の陽

    薄赤い太陽が、その姿を街並み際に寄せて沈みつつある冬空。 私は白い息をつきながら、コンビニに向かっていた。特に何か理由があったわけじゃないが、下校中、このまま家に帰るのはなんとなく勿体無い気がしたので、思いつきでただ寄ってみた。横断歩道を…

  • ルナティック

    赤い月が昇る。蝙蝠が飛び回る。風で木が揺れ、ざわざわと葉音を立てる。その中を、ボクは一心不乱に走っていた。運動することなんか大嫌いだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。一刻も早くここから離れなければならない。水を飲む暇も汗を拭う暇も…

  • 記憶の夢

    「くっそーまた負けた!」「勝っちゃった★」「一体いつになったら、私はまぐろくんに勝てるようになるんだろ……」「いやいや、ちゃんどんどん強くなってるから、ボクも必死、なんだよ★」「嘘だぁ全然勝てないのに」「そ?んなことないよ★さっきだって、反…

  •  傷 

    「いてっ」その声で振り返ると、指先を見つめて顔をしかめるちゃん。ボクには彼女がなにをしているのかがすぐ分かった。「ダメだよ、ささくれ引っ張っちゃ★」とがめるように、ボクはちゃんの手を取った。親指の爪の付け根が、血で痛々しいことになっている。…

  • ボクの私の勝負事情

    強者だけが登ることを許された塔が、ここプワープアイランドに存在する。……というか、ほほうどりが勝手に作ったとかなんだとか。 そんなことはどうでもいい。今重要なのは、目の前の敵を倒して、さらなる高みを目指す。それだけだ。「さすがに、今のはこた…

  • 転化する可能性

    あれだけ熱烈に愛の告白をしていた彼女が、めっきり姿をみせなくなった。 「先輩、最近を見ませんね」放課後の部室で実験中、りんごくんですら気になったようで、顎に手をやって首を傾げた。「そうだな……」「先輩はその方がいいですか?」はっきり明…

  • 万象流域

    万象流転物事には、万事一つの流れが存在する。朝がくれば夜に向かうように、流れに沿って物事は進んでゆき、決して逆らうことはない。我々もその流れの一つであるがゆえ、抗うことなどできはしない。「難しいこと言ってるけど」机に頬杖をついて、はさも退屈…

  • 呼吸を忘れる魚

    かなかなかな。 蜩が鳴き始める夕暮れ、夏特有の分厚い雲が流れて、薄紫色の空があらわになる。かなかなかな。ボクらは二人で立っていた。その、こわいくらいきれいな薄紫色の空を見上げながら、学校から少し離れたバス停にいた。ボクらの他に待ち人はいな…

  • 夏バテのせんぱい

    「こんにちうわ暑っ!」 部室のドアを開けて、思わず叫んでしまった。今日は特に暑い日だと授業をうけながら思っていたが、物理部は教室とは比べものにならないほど蒸し暑かった。確かにここは日当たりはいいけど、窓の向かいはなにもないから…

  • 勉強家のクルーク

    「クルークって、ほんと勉強好きだね」 テスト前でもないのに、居残って勉強するのはクルークくらいだろう。ちなみに私はいままでアコール先生の手伝いをしており、やっと終わったので教室に荷物を取りに戻ってきたところである。クルークは、読んでい…

  • クリア

    「あのさ、****」 「なんだ」「どこかの国の、昔話を思い出したんだ」「……」「その国ではね、死んだら魂が――」「どうでもいい」「よくないんだよ。ちゃんと聞いて。……魂がね、生まれ変わるんだって」「馬鹿な」「そうかもしれない。でも、信…

  • キミにおける熱量

    じわじわと照りつける日差し。 彩度の高い青空。アスファルトに発生する逃げ水。ついに耐えられなくなった私は、電柱に手をついて足を止めてしまう。「大ッ嫌いだおまえなんか……!」「えっ」「え?」盛大な独り言のはずが後ろから返事があった。驚い…

  • 雨に唄う花

    「アヤさん!」 いきなりやってきたは、ずいと私の前に花を突きつけた。こやつにしてみれば差し出したつもりなのだろうが、花についた雫が私に飛ぶくらい勢いがよすぎた。「……なんだ、それは」顔についた雫を払いながら尋ねると、は顔を輝かせて言った。…

  • キスの日

    「ぬわあ~疲れた~」 今日一日の授業を終え、私は机のうえに倒れこんだ。ようやく期末テストが終わったので、疲労感がどっと押し寄せる。「おつかれさま、ちゃん★」顔を横に向けて見上げれば、まぐろくんが立っていた。さして疲れたふうでもなく、いつも…

  • だいきらい

    「ぐっもーにんちゃん★」 「ああうん素晴らしい朝だね天気はいいし鳥は囀るし風は爽やかだしね佐々木さえいなければの話だけど」「一呼吸でそれだけ言えるなんて、ちゃんってやっぱりすごーい★」「嫌味言ってるんだよ私はァ!」知ってるよ?と返されて、…

  • 大好きです

    「やっほークルーク!」 「うわっ!!……ぎゃふん!」私はクルークをぶん殴って気絶させた。仮にも級友にこんなことをするのはとーっても忍びないのだけれど、こうでもしないとあの方に会えないから仕方がない。ないったらない。「……お前は!毎度毎度…

  • ねむねむ

    眠たい。非常に眠たい。 やはりお昼ご飯をお腹いっぱい食べたからだろうか。それともこの暖かい陽気のせいか。どちらでもいいがこの眠気を抱えたまま部活なんてする気がおきないので、私は物理部部室に唯一設置されているソファに沈みこんでい…

  • 追いかけっこ哀歌

    ボクの前で、とうとうとあいつのことを語るは嫌いだ。「いやあ、まぐろくんってほんっとすごい人だよねえ。何でもできて性格もよし。完璧とはまさにこの事だね」最初は他愛ない会話だった。教室に戻るとが残って勉強していたから、なんとなく話しかけてみた。…

  • 平行線と境界線

    たまたま封印を解いたのがクルークだったからって。 これはあんまりだと思うんだ。「どうした?」私の眼前で嫌らしい笑みを浮かべるクルーク……じゃなく、クルークを乗っ取った別のなにか。「女というのは、こうされるのが好きなんだろう…