引き継ぎ本丸ととろろ蕎麦

引き継ぎ本丸と
とろろ蕎麦

  • 蓮華草の四日

    蓮華草の四日 引き継ぎ本丸、と聞いて、良い印象を持つ人はまだ少ないだろう。 時の政府による審神者制度発足当時のことだ。圧倒的な数の遡行軍に対抗するためにとにかくこちらも数を増やす必要があった。つまりろくな審査もないまま審神者を増やすことにな…

  • 小手毬の十八日

    小手毬の十八日 前職は、大きくも小さくもない企業の事務員だった。慢性的に人手不足な職場だったため、「これ事務がやることか?」みたいな仕事も振られることが多々あり、おかげで大抵のことは一人で出来るようになってしまった。そのためか、この本丸を引…

  • 桔梗の二十二日

    桔梗の二十二日 私が教えたドッジボールは短刀と新選組仲間を中心として瞬く間に広まり、時に混ざったり、男士同士の試合を観戦したりして、この本丸における日常の一部になるのにそう時間はかからなかった。聞くところによると前任の審神者は体が弱く病気が…

  • 引き継ぎ本丸の浦島虎徹

    引き継ぎ本丸の浦島虎徹 主さんが変わる。 そう聞いたとき、俺は泣かなかった。そりゃ、すっごく悲しくて辛くて、出来ることならもっと一緒にいたかったけど、それ以上に、大好きな主さんが苦しい思いをしなくてすむ、命が助かるっていう安心のほうが勝って…

  • 引き継ぎ本丸のへし切長谷部

    引き継ぎ本丸のへし切長谷部 俺は皆のように『先代』『当代』とは呼べなかった。 俺にとっての主は顕現してくれたあの方で、今の彼女のことを主とは、言えない。無論、頭では分かっている。審神者を辞めなければ主は死んでしまう。その主が守った本丸を支え…

  • 引き継ぎ本丸の三日月宗近

    引き継ぎ本丸の三日月宗近 うららかな午後の日差しを受ける縁側。新緑はそよ風を受けてさらさらとなびき、遠くでは小鳥の囀りも聞こえる。なんと穏やかな空気だろう。 そんな中で私はめちゃくちゃガチガチに緊張しているわけだが。 何故かと言うと隣に、あ…

  • 向日葵の三十日

    向日葵の三十日 梅雨が明け、蝉の鳴き声が賑やかになる季節となった。懸念されていた暑さは湿気がなくなると意外にそうでもなく、扇風機を回していれば客間でも十分過ごせることが分かった。よく考えれば現代のコンクリートジャングルとは違いこれだけの木々…

  • 石蕗の十一日

    石蕗の十一日 ついに、と言うべきか。 ようやく、と言うべきか。 私は端末が受信した一通のメールを前に、深々と溜め息をついた。 このことは本丸を引き継ぐことになった時から再三言われていたことだし、日々を過ごしていても私の頭から離れることはなか…

  • 山茶花の二十六日

    山茶花の二十六日 地面を舞う枯れ葉の数も減り、風景から色が失われて行きつつある時分。迫る年末に向けて本丸はにわかに忙しさを増していた。普段の出陣や遠征に加え、本丸内の大掃除や、年末年始は閉まる万屋街へ必需品の買い出し等、やることは山積みだ。…

  • 桜の八日

     主の行き先は分かっていた。確証があったわけではないが、彼女が行くとしたらそこしか考えられない。まるで何かに導かれるように、おれの足は止まらず走り続ける。幾度も辿った道。ある時は気晴らしだと、またある時は皆と祭りだと。主とともに紡いだ思い出…