「未登録苗字先輩!今帰りっすか?」
昇降口で靴を取ろうとしたとき、横から声がかかった。振り向けば、ジャージでラケットバッグを担いだ赤也が立っている。
「うん。赤也はこれから部活?」
「そっす。その前に、先輩が見えたんで声かけちゃいました」
にっと笑う赤也につられて、私も笑みを返した。こういうところがとても可愛く思う後輩だ。
三年になって真田と柳生と同じクラスになってから、立海テニス部とは何かと関わることが増えた。クラスや下級生の部員が二人を呼び出してほしいと頼まれるうち徐々に交流が増え、今ではすっかり親しくなった。赤也もそのうちの一人で、後輩の中では一番仲が良いんじゃないだろうか。まあ、赤也なら私以外にも仲の良い先輩は沢山いるだろうけれど。
「わざわざありがとね。赤也も部活がんばって――あれ」
「どうかしたんすか?」
靴に手を伸ばして、紙が置いてあるのに気づく。手にとってみると、それは封筒だった。表には男子のものらしき太い字で宛名、私の名前が書いてある。しかし差出人の名前は書いていない。中身には書いてあるのだろうか。
手紙をもらうような出来事に心当たりがない。男子であればなおさらだ。首を傾げていると、赤也が覗き込んで顔をしかめた。
「ソレ、もしかしてラブレターっすか?」
「え、うーん……わからない、かな?」
声のトーンを下げてきた赤也に気後れする。普段は可愛い後輩だが、怒ると迫力が倍増どころではなくなる。どこに怒るポイントがあったのか分からずオロオロしていると、
「あ!」
さっと持っていた手紙を奪われてしまった。
「返してほしけりゃ、俺が部活終わるまで待っててくださいよ!絶対!」
急に嬉しそうにして、赤也は駆け出してしまう。その足に追いつけるはずもなく、私はその場に立ち尽くす。と言うか絶対って拒否権ないような。
でも、赤也が楽しそうならいいかな、なんて思う自分もいた。
(この立場で、いいわけない!)