拝啓、母君様。
私はいま絶体の危機に瀕しています。
「……ぬるい」
私が淹れた紅茶を一口飲んで、そいつは眉をひそめた。
「……すいません」
「正しくは『すみません』だ」
「…………スミマセン」
召喚したのは私。召喚されたのはこいつ。
だけどいつの間にか私があごで使われることになってしまった。……いや、私は使役って姿勢は好まないから、召喚されたものが人間だろうと魔物だろうと変わらない態度をとっていた。そこにつけこまれ、なめられた結果がコレなんだけど。
やはり軽い気持ちで召喚なんてするんじゃなかった。はっきりいってこいつは、私の手に余る。余りまくる。今更後悔したって遅いがせずにはいられない。
ところで後ろからこっそり見てる君たち。私の仲間なら助けてくれたまえ。なんか笑ってるやつもいるし。薄情もの。
「――で?」
そいつの鋭い言い方に、私はびくりと肩を震わせる。
で、ってなんだ。ああ紅茶?いれなおせってこと?そうかぬるいって言われたもんね仕方ない。
と、自分の順応っぷりに嫌気が差してきたころ、そいつは続きを言った。
「お前は、私の退屈を晴らしてくれるのだろうな?」
封印のきろくには、紅い魔物が眠っている。気の遠くのなるほど長い時間、封印され続けている魔物が。
「――少しは晴れるんじゃない。少なからず、出てきてくれたらいいなーと思って召喚したんだから」
そうでなきゃ、魔導石を使ったハイリスク・ハイリターンな召喚なんてやらない。
私の言葉に、魔物はくつくつと笑った。
「いいだろう。付き合ってやる」
「ありがとーございます」
ひとまずこれで、反逆される心配はなくなったわけだ。油断はできないけど。
それにしても。
これからどうなるかを考えると、楽しみ半分、不安半分といった複雑な気持ちにならざるをえなかった。敬具。
(これからよろしくお願いします)