終局の果

 ガツン。

 ハッチの蓋を蹴り閉めると、地面に亀裂が走り燃えるような光を伴って儀式場に広がっていった。唯一の希望を封じられた女の表情からみるみる血の気が失せていく。それでもまだ逃げられると思っているのか、じりじりと少しずつ後ずさっていくのが滑稽で、そして腹立たしかった。
 喉に込み上げる異物感を拭うように唾を吐き出すと、女の身体がびくりと震えて動きが止まる。

「ふざけるなよ」

 一歩、右足を踏み出す。
 遅れて左足を引きずって、女に迫った。女は顔を蒼白にしたまま俺を見上げている。

「もう遅ぇんだ」

 女の視線が揺らぐ。それを許すまいと俺は女の顎を掴んだ。無理やり上げさせた瞳は、今にも涙が溢れそうなほど充血している。
 ふざけるな。
 ふざけるなよ。
 今更何を言う。この枯れた身体にはもうどうすることもできないほどの火が焚べられているというのに。これを元に戻すなど、なかったことになど今更如何して出来ようか。
 女が、何か言いたげに唇を開く。そこに食らいついた。逃げ惑う舌を追って、身の内に燻る熱をこれでもかと押し付ける。次第に女の足腰がふらつき、俺にしがみつくのを視界の隅で見てほくそ笑んだ。
 そうだ。そうやって、俺なしではいられない身体になればいい。お前がいなくては碌に呼吸もできない俺と同じように。
 後戻りなんか出来やしない。一度でも知ってしまった。与えられた熱は体の内側をドロドロに溶かしている。それらは女と混ざり合って、とっくに輪郭など無くなった。それならば、行き着く先は一つきりだ。

「なあ。一緒に地獄に堕ちようぜ、未登録名前」

 堕落の介入が終わるまで、あと僅か。