ぎりぎり、と頭が痛む。割れそうなほどの痛みに息を吐くとマスクの内側が熱くなった。テレビから流れてくる町の浮かれた様子も、もう僕の耳には届かない。
体を動かせば寝そべったソファが悲鳴を上げた。まるで人の喉をきゅうと締め上げるときみたい。人の喉。掠れる息。動く目玉。腫れ上がる頬。
「……マイケル?」
がたん。その声に僕は上体を持ち上げた。両手にカボチャを抱えた未登録名前が、ぱちぱち瞬きをしながら僕を見る。
「どうかしたの?」
こてんと首を傾げる姿は、いつもだったら、可愛い可愛いってぎゅうと抱きしめたくなるけれど、今日の僕には、霞んで見えた。
カボチャのオレンジ色が目に刺さる。まだ何の細工もしてないのに、あの薄気味悪い笑顔が貼り付いてるように感じた。
未登録名前と出会って、ようやく僕は自分の場所を見つけたと思った。彼女の存在は失ったものを取り戻せる、そんなふうに思わせた。それなのに、それなのに、
「マイケル、本当にどうし、」
近づいてきた未登録名前の腕を引き、強引にソファに押し倒す。落としたカボチャが床を転がり、タンスの角にぶつかって止まった。
僕は、包丁を片手に、未登録名前をじっと見つめている。未登録名前は驚きに満ちた瞳で僕を見上げていた。
こんなときにまで、怖がらないなんて、きみは、どれだけ僕を信じているのだろう。
僕の中の黒いものが、こんなにも、殺してしまえと叫んでいるのに。
「マイケル」
でも、それは違った。
「私ね、マイケルに殺されてしまうなら、いいと思っているの」
未登録名前はそっと腕を伸ばして、僕の右手に優しく触れた。強く握りすぎて温度が分からなくなっていた僕の手が、暖かさを得てほんの少し揺らいだ。
彼女の瞳は揺るがない。じっと僕を、僕のマスクの奥を、真っ直ぐに見つめている。
その言葉に返す返事は、――
(その先は、ブギーマンだけが知っている)