ぶわ、と顔があつくなる。
「、ごめん」
そう言って私は、目の前でぽかんとしている長曽祢さんに背を向けて、足早にその場を去った。
秘めておくつもりだった。
誰にも言うつもりもなかった。
ずっとずっと胸の奥底で、大事に仕舞っておくつもりだった。
どうして言ってしまったんだ。
夢を見た。恋焦がれているあのひとが、私に向かって『好きだ』と言ってくれた。嬉しくて、嬉しすぎて涙が出てきたのをあのひとは優しく拭ってくれた。長曽祢さん。うちの本丸に顕現してから、初めて見たときから、今でもずっと好きなひと。
幸せな夢だった。だけど同時に、ひどい罪悪感も覚えた。あっちは私のことを主としてしか見ていない。そもそもそんなに接点もない。当たり前だ、部下への恋心なんて迷惑でしかないから自分から遠ざけた。
なのにどうして、ああ、今日に限って。
目が覚めて、幸福を噛み締めて、部屋を出たら長曽祢さんに会って。まだ寝ぼけてたに違いない、「好き、私も」なんて。
彼の顔を見ただろう。いきなりそんなことを言われて、唖然としていた。金色の瞳が見開かれ、真っ直ぐ私を射抜くみたいに。
どうしよう、どうしよう!
がむしゃらに歩き続けた先は廊下の行き止まり。納戸がひとつあるだけだ。いっそここに閉じこもってしまおうか、そんなことさえ考えながら納戸に手を付いて深くため息を吐いた。
「待ってくれ」
頭上から降ってくるのは。いつも遠くで聞いていたあの声。凛々しくて、でも優しくもあって。やんちゃな弟も血気の多い新選組も、ひと声でおさまってしまうほど、落ち着いた声。
「……まさかと思うが、ここに隠れる気じゃないよな」
とん、と納戸にかかる手がもう一つ。私の隣に並ぶそれは、一回りも二回りも大きくて、性別の違いをありありと浮き彫りにした。
「あ、あの」
「……違うよな?」
どうしてだろう。
いつも凛々しい声が。逞しい腕が。
なんだか弱々しく見える。
「か、隠れません」
「そう、か」
やっとの思いで答えると、彼は本当に安堵したように息を吐いた。
「隠れないなら、聞いてくれるか」
心臓が跳ねる。断罪される囚人のような心地になり、ぎゅっと目を閉じた。
――そのとき私の手の上から、ひどく熱いものがそうっと重なった。
「好き、というのは。おれが想像しているもので間違いないだろうか」
ひどく熱くて、それでいて、少し震えていた。
ゆっくりと目を開けて、それから長曽祢さんを見上げた。彼は、まるで迷子の子どものように眉を寄せて、今にも泣き出しそうにも見えた。
「……長曽祢さんが想像してる、って、どういう『好き』ですか」
ほんの少し。ほんの少しだけ、踏み込んでも許される気がして。
「……あんたは存外、意地が悪いんだな」
手をついていないほうの手で、長曽祢さんは後ろ頭をがりがりとかく。気まずそうにしている様子が、さっきの私と逆になっていて、なんだかおかしくなる。
「そういう長曽祢さんは、少し子どもっぽいです」
「……こういうおれは、嫌いか」
私はついに耐えきれず、ふふっと笑ってこう言った。
「好きですよ。ずっと、ずっと前から。私は――」
夢の続きはもう見ない。ここから先は――