ひかりの手のひら

 デスティニーアイランドは、私にとって不変の象徴だった。同じような毎日を同じように過ごして、なんとなく毎日を生きるような、そんな場所だった。
 私はそれが好きだった。変化することは疲れることで、慣れないものに触れるのはたまらなく恐ろしい。波だって、凪がいいに決まっている。心は波に似ていると思う。誰だって荒れ果てた海を泳ぎたくない。まあ、私は泳げないのだけれど。

「っおーーい!!」

 びくりと肩を震わせた。威勢のいい大きな声。茶色いつんつん頭を大きく揺らして、空色の瞳の少年が私に駆け寄ってきた。

「未登録名前姉!」

「ソラ、いつも元気だね」

 同じ島に住む少年、ソラは、3つ違いの私のことを「未登録名前姉」と呼ぶ。いつ頃からだったかは覚えていないけれど、ソラがそう呼んでからは島のみんなも「未登録名前姉」と言うようになった。

「未登録名前姉は、また本読んでるのか?今度はどんな本?」

「ある勇者のお話。神さまから授かった不思議な宝石と、運命を誓い合った仲間たちと冒険する物語だよ」

「へーっ、面白そう!今度読んで聞かせてよ」

「いいけど、たまには自分で読んでみたらいいのに」

「へへ、未登録名前姉が上手に読んでくれるからさー」

「調子のいいこと言って。ところで、なにか用事?」

「あっそうそう!向こうの浜でワッカたちとボール遊びするけど、未登録名前姉も来る?」

「……私は、」

 ソラは、すごく優しい子だから。私みたいな、いつも隅で本を読んでいるような日陰者にも声をかけてくれる。けれど、私は運動も得意じゃないし、お喋りも苦手で、島の子どもたちのなかでは一番年上だから。私がいるとみんなに気を遣わせてしまうと、ずっとそう感じている。
 どうしてソラが私を気にかけてくれるのか、分からない。
 私は、ソラが、今日も声をかけてくれることを期待して外で本を読んでいるような、そんな浅ましい人間なのに。

「なっ!一緒に遊ぼう!」

 差し出された手を、どうしたって振り払うことができない。

「……うん」

「よっしゃ!急げ、みんな待ってる!」

 今日も私は、平凡な毎日に差し込む一筋の光を求めて走る。