「それ、Cの4じゃない?」
チェス盤を前に考えていると、隣に座る音と少女の声がした。見なくても分かるが、僕は苦笑して彼女に向く。
「考える楽しみを奪わないでくれよ」
「ごめん、ごめん。でも、ずいぶん長いことそうしていたから」
「まあね」
言いつつ、僕は彼女の言葉通りに駒を動かした。これならどうシミュレートしても不利にはならない。あいつが起きた時が、また少し楽しみになった。
「ほんとうに仲がいいのね、君たちは」
チェス盤を見つめながら、彼女は言う。
「まあ、双子だからな」
「そういうわりには、ちっとも似てないから、不思議」
不思議なのは、きみのほうだ。僕らは、活動を長く共にしているコリエル・メンバーでさえ、未だにどちらが起きているのか聞いてくるというのに、彼女は僕らをひと目で判断してしまう。不思議なちからでも、持っているのかとさえ疑ってしまうほどに。
ありのまま伝えると、彼女はとてもおかしなことを聞いたかのようにくすくす笑った。
「不思議なやつは、きらい?」
「そうは言ってない」
「私はね、すきよ」
彼女の視線は、チェス盤から動かない。
「……知っているよ」
「あ、ひどい。またはぐらかしてる」
「それしか言いようがないんだ」
「そんなの、」
声は、僕が瞼を下ろしたことで途切れた。彼女は行き場のなくなった吐息を吸い込み、深呼吸するように吐き出した。
交代の時間。それきり彼女がどうしたか、『僕』にはもう知りえない。
知っているともさ。きみが僕を好きだってことくらい。それに、あいつがきみを好きだってことも知っている。僕がきみを大事に思っていて、それと同じくらい、あいつが大切だということさえ。
螺旋。メビウス。恒久。浮かぶのは残酷な言葉ばかり。いっそ、引き裂いてしまいたい。それか、どろどろに溶けあって、何もかもぐちゃぐちゃにして分からなくしてやりたい。
だけどもそんな心は、きっと誰にも伝わらないし、伝えようとも、思わないんだよ。
(無限に続く事象の地平)