ドクターからメタルソニックを探してこいと言われた。探して、というよりはメンテナンスしてこいっていう意味なんだろうけど、とにかく私はメタルソニックを探して基地の中を歩き回っていた。メカニックとして(無理やり)ドクターの基地に置いてもらってるのはいいが、任されるのは雑用ばかりだ。いつになったら一人で機械を作らせてもらえるんだろう。ま、作ったってどうせソニックたちにすぐ壊されちゃうんだろうけどね。彼らになんの怨みはないけれど、それだけがちょっぴりフクザツ。ドクターについてればあれやこれや色々作れると思ったんだけどな、あの人頭だけは天才だから困る。
そんなことを考えながら歩いていると、空中庭園に行き当たった。ここは基地の10階ど真ん中に作った円形の庭で、芝生も花壇もあるが、当初悪趣味な像が立っていたために私が猛抗議し、おかげでドクターから唯一、好きにしていいとも言われている場所だ。メカも好きだが花も好きな私は、暇を見つけてはここを手入れしていた。
そこに、見慣れた影を見つける。
「メタル。ここにいたんだね」
声をかけると、足を投げ出して座っていたメタルは顔をこちらに向けて、そしてすぐ視線を戻す。動く気配がないので、私も並んで座った。ドクターの用事は、まあ、今すぐじゃなくていいだろう。
珍しい、というか、この場所でメタルを見るのは初めてじゃないだろうか。メタルはソニックにしか興味がないと聞いていたし、実際私もそう思っていた。なのに今、青い芝生の上に青いからだを預けて空を見上げている。機械と自然。アンバランスなはずの光景が、なぜだかとても美しく見えて、私はぼうっとメタルを見ていた。すると、メタルがすいと腕を上げた。
「……チョウ?」
突き出した指先に、一羽のチョウが止まった。そういえば、この庭でチョウを見るのも初めてだ。以前は荒れていたこともあって、虫のたぐいは一切見たことがない。私の手入れがよかったのか、と少しばかり感動していると、メタルがこちらを見た。そして、少し首をかしげてみせる。言葉は一切喋らなかったが、なんとなく「これはなんというチョウか」と尋ねているのだろうと思った。だけど、残念ながら私は虫に詳しくない。
「アゲハチョウだと思う、けど……なにアゲハかまでは、」
そこで、言葉を切った。
名前の分からないチョウ。名前を模されたメタル。
私は、2つの存在がだぶって見えた。
「あ、ごめ、そういうつもりじゃなくて、」
瞬間、チョウがふわりと飛び立って、開いていた天窓を通り抜けて青い空に消えていく。メタルソニックはチョウを見送ってから、くるっとこちらを向いた。私は思わず目をぎゅっと閉じたが、やってきたのは優しい感触。そっと目を開けると、ゆるゆると私の頭に触れているメタルと目があう。やっぱり言葉は喋らなかったが、私には、彼がなんと言っているのか分かるような気がした。