朝からドクターはどこかへ出掛けていったようなので、私は滅多にない完全休日を庭園で過ごすことにした。曇り空なのは少し残念だけど、そろそろ新しい植物を植えようかなとも思っていたので、私は雑誌や手製のお菓子なんかを持って庭園のベンチに腰掛けた。
しかし、新しいものといっても何を植えようか。最近は色んな花があるからすごく迷うなぁ。彩りを考えると、青系の花が合うかなとは思うけど、あまり派手なのは主張しすぎて調和がとれないかな……。
「あ、メタル?」
聞き覚えのある足音に顔を上げれば、メタルが私の持つ雑誌を見つめていた。
「新しい花、植えようと思って。……メタルだったら、何がいいと思う?」
メタルにもよく見えるように雑誌を広げると、覗き込んだ彼はじっとページを見つめ、少しして捲る、というのを数回繰り返した。考え込むようなそぶりだったので、難しいことを聞いたかなという申し訳なさと、真剣に考えてくれていることへの嬉しさが混じり合う。
そうやってしばらく二人で雑誌を見ていると、不意にメタルが指差した。
「……これは、アジサイ?」
異国の花で、小さな花が密集して咲く低木だ。花というか、花に見えるところは実は萼(がく)で、本当は真ん中の小さなツブが――ってのは今はいいとして。
「メタルは、これがいい?」
尋ねると、コクリと頷きが返ってきた。
「そっか。メタルが選んでくれたから、これにするよ」
笑顔で返すと、メタルはアイセンサーを瞬かせる。
それにしても、アジサイかぁ。アジサイ……あ、そういえば。
「アジサイ、庭に植えると結婚遅れるとかって聞いたなぁ」
瞬間、ガッと片腕を掴まれる。驚いていると、メタルがぶんぶん首を振っていた。
「あ、ごめん!深い意味はないんだ。思い出したから言っただけで……心配ありがとう」
しかし、首を振るのはやめたがメタルは依然として腕を離さない。視線はやや落ち、人であればなにかを言い淀んでいるような仕草だ。
さすがにこれだけでは何と言いたいのか分からない。私は、少しずつメタルに問いかけることにした。
「結婚遅れるって、心配した?」
小さく頷く。
それもあるけど、もっと違うことで反応した、ってことかな。
「それじゃあ……私が結婚する予定があるのか気になった?」
長めの沈黙ののち、大きく頷いた。
「あはは、ないない。大体好きな人もいないし」
そう言うと、メタルはようやく私を見た。
「ドクターのとこでまだまだやりたいことあるし、ここにいるみんなが好きだから、出てったりしないよ」
メタルは何度かアイセンサーを瞬かせたあと、私の腕を離した。小さく頭を振る様子は、なんだか謝っているように見える。
「いいよ、気にしないで。そんな風に思ってもらえるの、嬉しいし。……そだ、早速アジサイ買ってこようよ。そんで一緒に植えよう」
手を差し出すと、メタルはほんの少しだけ迷ってから手を繋いだのだった。