紅い双眸が揺れている。
「貴様、今なんと」
胸ぐらを掴んで、今にも殴りかかってきそうな気迫でいるのにまるで泣きそうな顔をするものだから、わたしは思わず笑ってしまった。
「茶化すな。そんな場合か」
「あなたが言ったんだよ」
「何を、」
「『我がタマシイの在処となり得るか』」
長い沈黙。
掴まれた襟首がさらに握り込まれて少し苦しい。けれど、目の前の魔物のほうがよっぽど苦しい顔をしている。
不意に耳をついた。誰かと話をしているなかで、わたしのことを言っているのだと気づいた。
足を止めて考えて、話し声が途切れるころにようやく出したこたえは、「嬉しかった」。ただそれだけだった。
「わたしは嬉しいよ。あなたの在処になれるなら、喜んでからだをあげるよ」
「お前のからだなど」
「いらなくはないでしょう?タマシイで動き回るのは窮屈だってなんども話してたのに」
「違う!!」
瞬きをした。
滅多に声を荒げることのない彼が、こんなふうに大きな声で、唇を震わせている。
わたしには、その理由がぜんぜん分からない。
「違う、確かに私はそう言った、だが」
二つの紅い瞳が徐々に伏せられてしまったので、わたしはその先を知る術をなくしてしまった。
今もまだ、あのとき彼が何て言おうとしたのか分からないままでいる。