人形たちの永い午睡

うだるような夏の暑さとは裏腹に、その日はしとしとと雨が降っていて、涼しい日だった。
仕事もないので、わたしはソファに横になりウトウトしていた。
ここのところずっと暑かったから、夜寝付けなかったんだ。
今日は久しぶりにゆっくり寝られそう。
もうちょっとで意識を手放す、そんな時、玄関のドアが開く音がした。
鍵はしっかりかけていたから、おそらく合鍵を持っているリンクだろう。
旅の途中、ふらりとやってきてはご飯を食べにくることがよくあるのだ。
足音はわたしの傍まで来て、音の主は小さく「……未登録名前?」と呼びかけた。その声は間違いない、リンク。
でも、ごめんなさい。
今日はひどく眠いから、寝かせてほしい。
起きないでいると、リンクが屈み込んだ気配がした。わたしが本当に寝てるかどうか、見ているのか。
ややあって、

ちゅ

「!?」

頬に柔らかい感触。
わたしは驚き跳ね起きた。リンクはにっこり笑っている。

「やっぱり起きてた」

「……気付いてたの」

キスされた頬を抑えながら言う。
心臓はばくばくと音を立てていた。リンクの顔をまともに見られなくて、視線があちこちに泳ぐ。

「キスくらいでそんなに照れなくても」

「だっていきなりだったから!」

「何度もしてるのに。可愛いなあ未登録名前は」

可愛い、なんて言われて、かあっと顔が赤くなってしまう。眠気は完全に吹き飛んでいた。

「もう、なにか作ればいいんでしょ。何がいいの?」

諦めて起き上がろうとすると、なぜかリンクに制されてしまう。

「未登録名前見てたら、僕も眠くなっちゃった。一緒に寝よ」

「はあ?何言って……うわあ!」

リンクがわたしを抱きしめて横になる。
狭いソファが、ギシギシと音を立てた。

「ちょ、リンク」

「起きたら、夕飯を食べようね。おやすみ」

そう言って目を閉じたリンクは、すぐに寝息をたてはじめた。よほど疲れていたのかもしれない。冒険の旅に、休みなんてないから。
仕方ないなあ。と胸中で独りごちて、わたしも目を閉じた。
雨はまだ降っている。静かで優しく、わたしたちの午睡を包み込んでいた。

Title:ZABADAK