わたしは言われたとおり、家のドアを開けたり物を動かしたりして、蟲のいる(らしい)場所まで誘導した。
リンクが見えない蟲めがけて飛び掛っていったりする姿はちょっと怖いけど、我慢する。
そういえば、気になっていたんだけど。
「リンクって、どうして足かせついてるの?ちぎれてるけど」
歩くとジャラジャラ鳴ってて邪魔じゃないのかなあ。まあ外せなさそうだけど。
リンクの代わりにミドナが答えた。
「こいつドジ踏んで、敵に捕まってたことがあるのさ」
「大変だったんだね」
「まっワタシが救い出してやったんだけどな」
「そうなの?」
リンクを見ると、心なしか何か言いたそうにしている、ような。
「あ、あとひとつ気になったんだけど」
「なんだ」
「リンクって、狼なのにピアスしてるんだね」
小さめの、青いピアス。
人間がつけるものを、どうしてリンクがしてるんだろう。
ミドナはくっくっと笑ってから、
「それは教えられないな。なあリンク?」
「ガウ!」
「ふーん……?まあいいけど」
なにか事情があるのかもしれない。
あれは特別製のピアスで、実はリンクの能力を制限してるものだ、とかさ。
まさかね。
「コッチからも質問していいか?」
「ん、なあに?」
「オマエ、家はどこだよ」
あ、そうきたか。確かに今までまわった家でわたしの家って紹介はしなかったから、不思議に思うのは当然かも。
「あーわたしね。普段は教会でお世話になってる」
「つうことは、親がいないのか」
「いるけど、いないっていうか」
「なんだそりゃ」
うーん、話すこと自体はいいんだけど、面倒くさい。
でも向こうも事情を話してもらったことだし、わたしのことも話しておかないと公平じゃないかな。
「わたしね、この世界の人間じゃないんだ」
「は?」
ミドナがすっとんきょうな声をあげた。リンクも驚いているのか、目を見張っている。
「ある日突然、気がついたらここに倒れてたんだ。1年くらい前かなー。はじめはわたしも信じられなかったけど、レナード牧師に話を聞いてたら信じるしかなくて」
あの時は、ほんとうに大変だったと思う。
思う、ってのは、わたしが泣きまくって叫びまくったせいでよく覚えてなくて、きっと周りのみんなが大変だったんだろうなっていうこと。
今ではすっかり馴染んでるし、不便もないけど。
ただ、やっぱりちょっとは、寂しい気持ちもあるけど。
少しだけうつむいていたら、リンクが鼻先でつついてきた。
なぐさめてくれるのかな。優しい子だ。
「ありがと。わたしは大丈夫」
「ガウ」
「なんか……悪かった」
ミドナがばつの悪そうな顔をしている。
なんだか似合わない。わたしは噴出してしまった。
「笑うなよ!人が謝ってんだぞ!」
「あは、ごめんごめん。でも、ミドナはいつもどおりがいいよ」
ミドナはすっかり怒ってしまって、オマエには金輪際謝らない!とそっぽを向いてしまった。
それがおかしくて、また笑ってしまった。
寂しい気持ちが、ほんの少し和らいだ。
そっぽを向いていたミドナだったけど、なにか思いついたようにこちらを振り向いた。
「とすると、だ。オマエは別の世界から来たから、この世界の影響を受けないでいられるってことか」
「そうなの?」
「そうとしか考えられないぜ。でも異世界から来たなんて例が他にないから本当かどうか分からないけどな」
でもまあ、それならつじつまが合うし。
きっとそういうことなんだろう。
「ガウ」
「おっ蟲が近いのか。未登録名前、行くぞ」
「うん!」