君の音色

君の音色

今日はおうちの用事で、リンクくんのところに行けなかった。
でもせめて挨拶はしたくて、夕方、宿屋のほうに行ってみた。
けれどリンクくんはいなかった。わたしはがっかりしながら、家に――

――どこからか、笛の音色が聞こえる。

聞いたことない曲。誰が吹いてるんだろう。それにしても上手だなあ。
わたしは音色に誘われるまま、歩き出した。
ついた場所は、公園だった。
真っ赤な夕焼けに向かって、誰かが笛を吹いている。
あれは、リンクくん。
わたしが近づくと、リンクくんはこちらを振り向いた。

「やあ、未登録名前」

「リンクくん、今の――」

あなたが吹いていたの、と聞こうとしたけど、どうしてか、声がつまった。
だって、またあの「きれいな」顔をしている。
その顔をされると、わたし、どうしていいか分からなくなる。
わたしが言葉を詰まらせていると、リンクくんはわたしが言いたいことを分かってくれたみたいで、

「あ、今のね。このオカリナで吹いてたんだ」

青いオカリナを見せてくれた。
ぴかぴかに磨かれているけど、使い込まれたようにちょっと傷のあるオカリナ。

「オカリナ、上手だね」

ようやくわたしは声が出せるようになって、そう言った。

「ありがとう」

リンクくんがはにかむ。

「ねえ、もう一度吹いてみて。もっと聞きたいな」

「いいよ」

そう言って、リンクくんはいくつか曲を吹いてくれた。
どれも知らない曲だったけど、それがかえってわたしの興味をひいた。
リンクくんは、わたしの知らないこと、たくさん知ってる。
話そうとはしないけど、きっと長いこと旅をしてるんだろうな。
この曲も、その時に覚えたのかな。
旅先で出会った色んな人に、色んな曲を教えてもらって……。
それはリンクくんにとって大切な思い出なんだろう。

「これでおしまい」

聞き入っていたわたしは、リンクくんの声ではっとする。
そして拍手した。

「すごいなあリンクくん!ほんとうに上手」

「それほどでもないよ」

少し照れたように、リンクくんが頬をかいた。
あれ、なんだか。
リンクくんがこんなふうに照れたりするのを見るの、初めてだ。

「リンクくん、可愛い」

冗談めかしていうと、ますます照れてしまったように顔を紅潮させた。

「茶化さないでよ。恥ずかしい」

「あはは、ごめんごめん」

でもやっぱり可愛い、とわたしは思った。

その時、一羽のカラスが鳴いた。
しまった、もう帰らなきゃ。

「ごめん、そろそろ帰らなきゃ」

「そっか」

また、だ。
またリンクくんが、「きれいに」笑った。
いたたまれなくなって、わたしは駆け足でその場を離れてから、

「また、あーしーた!」

と手を振った。
リンクくんが振りかえしてくれたのを見てから、急いで家に帰った。