知らぬ存ぜぬ虚無の味

 強く、揺さぶられる。その瞬間わたしの喉から短い悲鳴があがり、それを見たフレディさんは嬉しそうに目を細めた。
 わたしの体のあちこちは、フレディさんが与えてくれた熱ですっかりぐずぐずになってしまっていて、彼とわたしの境目なんかとっくになくなってしまっているんじゃないかという錯覚をした。けれどもわたしの中心を揺さぶられてしまうと、やっぱりそこに感覚というのは残っているので、けもののような息を吐いてフレディさんの肩に噛みついてみたりもする。「痛ぇなぁ」なんて笑っているけど痛くないのは分かってた。わたしが痕をつけられないのを彼は知っている。
 フレディさんだって、わたしに痕はのこさない。こんなふうに、どろどろに溶かして甘やかして、わたしのぜんぶに触れていても、起きてしまったらぜんぶ無かったことにしてしまう。ぜんぶ、夢にしてしまうんだ。

「未登録名前」

 やさしく髪をなでてわたしを呼ぶ。肩から離れると、唇をすくって息をまぜた。このまま食べてくれればいいのに、なんて思うけれど、フレディさんはわたしを食べてはくれなくて、かわりに口のなかをていねいになぞっていく。なぞられている間、この、背中がぞわぞわする感じがすきなのに、これも目が覚めたらきっとなくなってしまうのがさみしかった。あんまりさみしくて、鼻の奥がつんとして、ぽろぽろと涙をこぼしていると、フレディさんは唇をわたしの目尻にあてて吸いとった。最初からなにもなかったみたいに、きれいに拭いとられてゆく。

「フレディ、さん」

「どうした?」

 そのやわく、優しい声といったら。わたしが何と言おうか迷っていると、フレディさんがまた大きく動きだしたので、とうとうわたしは、今日もなにも言えなかったのだ。