時の勇者

Respawn

たかがゲームで泣くなんて、ばかみたいだと思われるかもしれないけれど、わたしは『時の勇者』がかわいそうで仕方なくて、画面のまえでぼろぼろ泣いてしまった。 今まで頑張ってきた冒険のすべてがなかったことになって、一生懸命助けたゼルダ姫との出会…

始まりは些細

「ねえリンク」 「な、なに?」テーブルに頬杖ついて、じいっと僕のことを見つめていたが突然口を開いたものだから、僕は少したじろいだ。彼女の癖なのだが今だに慣れない。というのは、彼女はなんと他の世界(ニホン、っていったかな)からやって来たら…

夢より現実

めぐる「え、あ、あれ?」わたしはポケットの中を一生懸命探った。けれど期待した、あるはずの手ごたえはない。手さげかばんのほうに入れたのかも、とかばんの中を探したけれど、やっぱり目的のものはなかった。うそ、どこかで落とした?あんな大事なものを?…

Water Garden

「きみって旅人なの?」通りを歩いていたら、頭上から声が降ってきた。女の人の声だった。細くてきれいな声をしてて、一瞬聞きほれたけど、あわてて声の主を探した。すぐにその人は見つかった。そばの家の開け放した出窓から、ひじをついてこちらを見ていた。…

FOLLOW YOUR DREAMS

その子と会ったのは、村からほど近い森の中だった。わたしは川に水を汲みにきていて、その子は顔を洗っていた。緑色の帽子と服を着ていて、まるで森の一部のようになじんでいて。木々の間から差し込む太陽の光が、その子の金髪をてらして、きらきら輝いていた…

人形たちの永い午睡

うだるような夏の暑さとは裏腹に、その日はしとしとと雨が降っていて、涼しい日だった。仕事もないので、わたしはソファに横になりウトウトしていた。ここのところずっと暑かったから、夜寝付けなかったんだ。今日は久しぶりにゆっくり寝られそう。もうちょっ…

青い空に

青空のような人。それが、最初の印象。その人は城下町を走りまわっていて、いつも忙しそうにしていた。背中に立派な剣と盾を背負っていたから、旅人なんだってすぐ気が付いた。時折立ち止まって、町の人に話を聞いては笑顔を振りまく。端正な顔をしているから…

寂夜

明かりを消す。窓から差し込む月の光だけが、わたしの部屋をてらした。冷たい布団に潜り込み、体をぎゅっと丸める。「おやすみなさい」返ってくる言葉は、ないけれど。今はいない同居人に向けて。彼、リンクは、今どうしてるだろうか。月明かりの下で、眠って…

ドジな子

がちゃん。派手な音を立てて、壷が割れてしまった。「はドジだなー」「う、うるさいな」あわてて屈み、破片を拾おうとすると、リンクに制されてしまった。危ないから、とわたしをのけてさっさと破片を拾い集めてしまう。もう、子供みたいな扱いして!「昔から…

もっと見せてよ

「……?」「ん、なにリンク?」わたしは料理する手を止めないまま、返事をした。「髪の毛。上げてるから驚いたよ」「ああ、ちょっと邪魔になってきたからね。で、何か用事?ごめん今ちょっと手が離せないんだ」「そっか。じゃあ後でいいよ」……とは言ったも…

離れてやらない

「ねーリンク。いい加減離れてよー」「んー……」さっきからこうして、リンクがわたしの背中にひっついたまま離れようとしない。「ね、もうそろそろご飯作らないといけないから」「後でいいだろ」「リンクー……」何を言っても、動く気配がない。わたしは困り…