ゼルダ短編

心因性の神聖

*百合っぽい姫様は、もうずいぶん見たことのない笑顔で編み物をなさっていた。薄く開けた窓から吹き抜ける穏やかな風が、時折編み終えた糸を揺らすので、そのつど姫様は子どもを寝かしつけるみたいな優雅な手つきで糸をなだめる。ただそれだけの仕草が、姫様…

Respawn

たかがゲームで泣くなんて、ばかみたいだと思われるかもしれないけれど、わたしは『時の勇者』がかわいそうで仕方なくて、画面のまえでぼろぼろ泣いてしまった。 今まで頑張ってきた冒険のすべてがなかったことになって、一生懸命助けたゼルダ姫との出会…

始まりは些細

「ねえリンク」 「な、なに?」テーブルに頬杖ついて、じいっと僕のことを見つめていたが突然口を開いたものだから、僕は少したじろいだ。彼女の癖なのだが今だに慣れない。というのは、彼女はなんと他の世界(ニホン、っていったかな)からやって来たら…

生まれなかったうさぎ

「やあ、また会ったねりんく」 「やあ」「こうしてまたきみと会えるなんて、夢にも思わなかったよ」「ぼくもそう思うよ」「さて、どうしてきみはここにきたんだい?」「きみに言いたいことがあって」「なあに?」「ごめんね、って、言いたかった」「それは、…

恋人のいない夜

カチ コチ カチ コチいくら待っても、あいつが帰ってくる気配はない。太陽は既に山際、薄紫の空が濃紺へ変わる時間になるというのに。一体どこをほっつき歩いてるんだ。俺がこんなに心配してるっていう――いや、心配なんかしてない。ただちょっと……そう…

ムーンライト・シング

夜、ふと目を覚ましたら、カーテンの隙間から光が漏れていた。あまりにそれがまぶしいものだったので、こんな夜更けに外でなにかあるのだろうかと不思議に思いながら、カーテンを開けた。そして、息を呑んだ。それは月の光だった。でもただの光じゃない。満月…

夢より現実

めぐる「え、あ、あれ?」わたしはポケットの中を一生懸命探った。けれど期待した、あるはずの手ごたえはない。手さげかばんのほうに入れたのかも、とかばんの中を探したけれど、やっぱり目的のものはなかった。うそ、どこかで落とした?あんな大事なものを?…

DEIR PAIDER

じゃあ、お話をしよう。ここじゃない、どこか遠い国のお話。昨日のことだったかもしれないし、はるか昔のことかもしれない。そう、とても曖昧なんだ。まるで夢のなかのようにね。でもそこは重要じゃない。大切なのは、ここからさ。一人の少年がいた。馬を一匹…

わたしが人魚になった日

「きみ、そこで何してるの?」振り向いた先には、金髪碧眼の少年が立っていた。わたしは視線を海に戻してから答えた。「海を見ているの」「それだけ?」「それだけ」他になにをしているように見えるというのだろう。少年はわたしの隣に当然のように座って、同…

お化けがこわい!

※会話のみ「ねーちょっと聞いてよ、こないだ怖いことがあったのよ」「なんだよ」「夜に一人でさ……」「待った。やっぱり聞かねえ」「えーなんでよ?あ、もしかして怖い話苦手?お化けとかそういうの」「べっべつに苦手じゃねえし!」「ムキになるあたりが怪…

Water Garden

「きみって旅人なの?」通りを歩いていたら、頭上から声が降ってきた。女の人の声だった。細くてきれいな声をしてて、一瞬聞きほれたけど、あわてて声の主を探した。すぐにその人は見つかった。そばの家の開け放した出窓から、ひじをついてこちらを見ていた。…

雨に遊ばれて

城下町に買い出しに行こうと思い平原を歩いていたとき、急に雨に降られた。家を出たときは天気がよかったから傘は持っていなかった。仕方ないから、手近な木のしたで雨宿りすることにした。ざああ……雨足はどんどん強くなる。これじゃいつ帰れるか分からない…