ソニック短編

右と左を駆ける熱

 仮面から覗く唯一の瞳は、彩度の高い黄色。全身は白と黒で構成されているからか、そこだけが毒々しいまでに鮮やかな色をしているのが、たまらなく美しいと思った。 手を伸ばして、途中で止めた。がちゃりと鳴った手錠と鉄格子が、彼から温度を貰うことを阻…

ピンヒールと少女

 長いピンヒールが似合うねと言われた。 足がきれいだからよく映えるだろう、そう言ったのは付き合いたての恋人だった。何かのきっかけでそういう話になって、そしてそのまま近くの靴屋に入った。色とりどり、形もさまざまな靴たち。今まで選ばなかったもの…

真夏の驟雨も悪くない

 お店から外に出ると雲行きがあやしく、今にも降り出しそうな気配をみせていた。急いで帰ろうと走り出したところでぽつりぽつりと降り出してしまったので、仕方なく近くの軒先を借りることにした。シャッターが閉まっていたので少し申し訳ない気持ちになりな…

彼はヒーロー

 わたしには、好きなひとがいます。「こんにちは。ビッグ君、かえる君」 ミスティックルーインの端っこ、ビッグ君のおうちを訪ねれば、彼とそのおともだちはいつものように川べりで釣り糸を垂らしていた。ビッグ君はわたしの声にかたほうだけ耳を立てて、大…

寂しがりの応酬

 暇だ。暇すぎる。暇が売れたら大儲けできるくらい暇だ。「シャドウー。ねーシャドウー」「うるさい、気が散る」 さっきから何度も呼びかけているが、シャドウはローテーブルの上に広げたノートパソコンから目を離さずに同じ返事しかしてくれない。観念した…

桜の下に死体を埋める

 虚空に手を伸ばし、強く握り込むと目の前の巨木は紙クズのようにひしゃげて折れた。舞い上がる土煙と火の粉の中、俺は真っ直ぐ標的に向かって歩き出す。 一瞬、土煙が揺らいだ。 俺は胸のファントムルビーに触れ、走り寄る標的の空間を歪める。相手は足を…

かえりみち

 買い物を終えて駐輪場に向かうと、意外な姿を見かけて荷物を落としそうになった。「ソニック……!?」「よっ」 私の自転車の荷台に座って、青いハリネズミがご機嫌に片手を上げた。 夕暮れの下を自転車で走る。雲が出てきて少し風もあり、スピードを出せ…

イージー・ゴーイング

「しまったなあ」 の家に遊びに来ていて、そろそろ帰ろうかと思っていたところにの呟きが溢れる。セリフの割に緊迫感のない口調だったので大したことではなさそうだが、一応尋ねてみた。「どうしたんだよ?」「牛乳切らしてたの忘れてた」 些細も些細だった…

遠い雷

 今日は午後から雨が降るとかで、街の人影はまばらだった。オレも濡れるのは嫌いだけど、街中を思い切り走るには今しかない。そう思い、いつも人でいっぱいのエメラルドコーストに向かって駆け出した。 案の定、灰色の雲を抱える空の下で海岸を散歩している…

レジスタンスとクリスマス

「輪つなぎ出来たぜー!」「お疲れシルバー!ソレそのままそっちの壁に!」「あっぼくがやるよー!とべるし!」「テイルス!エミーたちどうだった?」「料理はあとちょっとかかるって!」「了解!じゃあシルバー手伝ってあげて!テイルスはモミの木の飾り準備…

ソニックのバースデー

「うわああー終わったああぁぁ……」力なく叫ぶなり、ノートパソコンを閉じた彼女は机の上に倒れこむ。「おいおい、頑張りすぎだって。そんなに期日ギリギリな作業だったのか?」数日前から机にかじりついて、今だって終わったのは日付が変わる直前だ。そんな…

雨、夜、音

 さらさら……と窓の外で音がした。カーテンを開ければそれは、ついに降り出した雨だと気付く。昼過ぎから雲行きが怪しいとは思っていたが夕方になっても降る気配がなかったので、家に帰る頃にはすっかり忘れてしまっていた。 徐々に雨脚が強くなっていく。…