<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?><rss version="2.0"
	xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/"
	xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/"
	xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
	xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
	xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/"
	xmlns:slash="http://purl.org/rss/1.0/modules/slash/"
	>

<channel>
	<title>テニス短編 &#8211; 揺れる</title>
	<atom:link href="https://swingswing.echo.jp/work_type/%E3%83%86%E3%83%8B%E3%82%B9%E7%9F%AD%E7%B7%A8/feed/" rel="self" type="application/rss+xml" />
	<link>https://swingswing.echo.jp</link>
	<description>Un official text site.</description>
	<lastBuildDate>Wed, 01 Feb 2023 10:09:32 +0000</lastBuildDate>
	<language>ja</language>
	<sy:updatePeriod>
	hourly	</sy:updatePeriod>
	<sy:updateFrequency>
	1	</sy:updateFrequency>
	

<image>
	<url>https://swingswing.echo.jp/wp-content/uploads/2023/02/cropped-揺れるロゴ-1-32x32.png</url>
	<title>テニス短編 &#8211; 揺れる</title>
	<link>https://swingswing.echo.jp</link>
	<width>32</width>
	<height>32</height>
</image> 
<site xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">214212483</site>	<item>
		<title>後輩の脅威</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e5%be%8c%e8%bc%a9%e3%81%ae%e8%84%85%e5%a8%81/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 01 Feb 2023 10:09:32 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=1040</guid>

					<description><![CDATA[「先輩！今帰りっすか？」 　昇降口で靴を取ろうとしたとき、横から声がかかった。振り向けば、ジャージでラケットバッグを担いだ赤也が立っている。 「うん。赤也はこれから部活？」 「そっす。その前に、先輩が見えたんで声かけちゃ...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e5%be%8c%e8%bc%a9%e3%81%ae%e8%84%85%e5%a8%81/" title="続きを読む後輩の脅威">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「未登録苗字先輩！今帰りっすか？」</p>
<p>　昇降口で靴を取ろうとしたとき、横から声がかかった。振り向けば、ジャージでラケットバッグを担いだ赤也が立っている。</p>
<p>「うん。赤也はこれから部活？」</p>
<p>「そっす。その前に、先輩が見えたんで声かけちゃいました」</p>
<p>　にっと笑う赤也につられて、私も笑みを返した。こういうところがとても可愛く思う後輩だ。<br />
　三年になって真田と柳生と同じクラスになってから、立海テニス部とは何かと関わることが増えた。クラスや下級生の部員が二人を呼び出してほしいと頼まれるうち徐々に交流が増え、今ではすっかり親しくなった。赤也もそのうちの一人で、後輩の中では一番仲が良いんじゃないだろうか。まあ、赤也なら私以外にも仲の良い先輩は沢山いるだろうけれど。</p>
<p>「わざわざありがとね。赤也も部活がんばって――あれ」</p>
<p>「どうかしたんすか？」</p>
<p>　靴に手を伸ばして、紙が置いてあるのに気づく。手にとってみると、それは封筒だった。表には男子のものらしき太い字で宛名、私の名前が書いてある。しかし差出人の名前は書いていない。中身には書いてあるのだろうか。<br />
　手紙をもらうような出来事に心当たりがない。男子であればなおさらだ。首を傾げていると、赤也が覗き込んで顔をしかめた。</p>
<p>「ソレ、もしかしてラブレターっすか？」</p>
<p>「え、うーん……わからない、かな？」</p>
<p>　声のトーンを下げてきた赤也に気後れする。普段は可愛い後輩だが、怒ると迫力が倍増どころではなくなる。どこに怒るポイントがあったのか分からずオロオロしていると、</p>
<p>「あ！」</p>
<p>　さっと持っていた手紙を奪われてしまった。</p>
<p>「返してほしけりゃ、俺が部活終わるまで待っててくださいよ！絶対！」</p>
<p>　急に嬉しそうにして、赤也は駆け出してしまう。その足に追いつけるはずもなく、私はその場に立ち尽くす。と言うか絶対って拒否権ないような。<br />
　でも、赤也が楽しそうならいいかな、なんて思う自分もいた。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>（この立場で、いいわけない！）</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">1040</post-id>	</item>
		<item>
		<title>いつかの朝日で会いましょう</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%84%e3%81%a4%e3%81%8b%e3%81%ae%e6%9c%9d%e6%97%a5%e3%81%a7%e4%bc%9a%e3%81%84%e3%81%be%e3%81%97%e3%82%87%e3%81%86/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 09:06:58 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=493</guid>

					<description><![CDATA[「は？」 　かの、厳粛と恐れられ威風堂々を体で表してきたような男、真田弦一郎の、これまでにただの一度も聞いたことのない声に幸村は思わず目を丸くした。 「は、って……の誕生日に何あげたのって聞いたんだよ」 　完全に足を止め...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%84%e3%81%a4%e3%81%8b%e3%81%ae%e6%9c%9d%e6%97%a5%e3%81%a7%e4%bc%9a%e3%81%84%e3%81%be%e3%81%97%e3%82%87%e3%81%86/" title="続きを読むいつかの朝日で会いましょう">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「は？」</p>
<p>　かの、厳粛と恐れられ威風堂々を体で表してきたような男、真田弦一郎の、これまでにただの一度も聞いたことのない声に幸村は思わず目を丸くした。</p>
<p>「は、って……未登録苗字の誕生日に何あげたのって聞いたんだよ」</p>
<p>　完全に足を止めてしまった真田の様子を見て、心中でため息をついた。もちろん学校に遅刻するなどという心配ではない。ある予想がすでに立てられてしまったからだ。</p>
<p>「一応聞くが、いつだった」</p>
<p>　ああやはり――<br />
　今度こそ目に見える形でため息をついた。</p>
<p>「……昨日。練習が終わった後レギュラー陣みんなでファミレスに行ってお祝いしたんだ」</p>
<p>「何故それを――！」</p>
<p>「言わなかったかって、弦一郎は家の用事があるって帰っただろ。まぁ、こちらも急に決まったことだけれど」</p>
<p>「……」</p>
<p>「俺は助けないからね、自分で何とかしてくれよ。未登録苗字も、言われたからって祝われたくはないだろうしさ」</p>
<p>　そう言い残し、幸村は足早に学校へ向かった。</p>
<p>　未登録苗字真依は立海テニス部のマネージャーである。その快活さと優しさで部員を励まし、行き届いた配慮で1年生だった頃から部全体を陰で支えてきた。<br />
　彼女の性格からして、誕生日を忘れたからといって怒るような女子ではない。むしろ、他を気遣って自分からは言い出さない。だからこそ、普段の礼を誕生日のお祝いという形で返したいというのが真田の意思であった。</p>
<p>（しかし……どうすれば良いものか。何か用意すると言っても、今からでは買いに行く時間もない。早くとも下校後か、いやそれでは未登録苗字に迷惑が）</p>
<p>「さなだー！」</p>
<p>　びくりと肩が跳ね上がる。声の主は、今まさに渦中にある未登録苗字のものだったからだ。</p>
<p>「おはよ！珍しいね、この時間にここ通ってるの」</p>
<p>「あ、ああ、今日は朝練もないからな」</p>
<p>「それは知ってるよー」</p>
<p>　わたしマネージャーだもん、と笑う未登録苗字とは反対に真田の表情は硬い。<br />
　きっと彼女のことだ、自分が誕生日を忘れていたことを知りながら、それでも何でもないふうに装って話しかけているに違いない。<br />
　寂しいと、思っていないはずがないのに。</p>
<p>「すまん、未登録苗字」</p>
<p>「え、どしたの急に」</p>
<p>　真田は体ごと未登録苗字へ向け、頭を傾ける。</p>
<p>「昨日はお前の誕生日だったというのに、俺は忘れて何もできなかった。本当にすまない」</p>
<p>　すると未登録苗字は一瞬の間を置いたあと、慌てたように手を振った。</p>
<p>「いいって！気にしてないよ！真田が忙しいの知ってるし、わたしも全然言わなかったから……」</p>
<p>　ふと未登録苗字の持つ鞄に視線が向く。そこには、昨日までなかったはずのマスコットが付いていた。覚えがある、確か、丸井が最近気に入っているとかいうキャラクターのもの。</p>
<p>「今からでも、俺に何かさせてもらえないだろうか」</p>
<p>　その言葉は自然と口をついていた。</p>
<p>「今からでも、って……」</p>
<p>「俺に出来ることであれば、何でもしよう。ゆっくりでいい、お前の望みを聞かせてくれないか」</p>
<p>　己が、何に対して焦っているのか分からなかった。忘れてしまったことへの申し訳なさ故か、それとも黙っていられたことへの苛立ちか。いずれにしろ鍛錬の足りない思考だと唾棄しつつも、今の真田にとって大事だと思うのは、何よりも未登録苗字の意思だった。<br />
　未登録苗字は暫し逡巡したのち、うつむきがちになって片手を差し出した。</p>
<p>「……学校まで、手をつなぎたい、です」</p>
<p>　ぽそぽそと紡がれる言葉。向けられた小さな手。合わずに彷徨う視線。<br />
　真田はその柔らかな手を取った。</p>
<p>「こ、こんなことでいいのか？」</p>
<p>「……こんなこと、がいいの！」</p>
<p>　真田には未登録苗字の意図が分からない。だが、嬉しそうに歩いている彼女を見ていると自分の迷いも霧散していく感覚がした。<br />
　来年こそはみんなと祝えることができたら、とふと考えたとき、何故か散ったはずの焦燥感が蘇る気がして、真田は蓋をするように未登録苗字の手を硬く握り返した。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">493</post-id>	</item>
		<item>
		<title>あの日の陰よ安らかに</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%82%e3%81%ae%e6%97%a5%e3%81%ae%e9%99%b0%e3%82%88%e5%ae%89%e3%82%89%e3%81%8b%e3%81%ab/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 09:05:42 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=491</guid>

					<description><![CDATA[「バカッ」 　1階への階段を降り切ろうというところで女子とすれ違う。その子は片手で顔を覆いながら、ものすごい勢いで駆け上がっていった。後に残されたのは甘い香水の香りと、 「……やっぱ仁王か」 「プリ」 　階段の横、倉庫み...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%82%e3%81%ae%e6%97%a5%e3%81%ae%e9%99%b0%e3%82%88%e5%ae%89%e3%82%89%e3%81%8b%e3%81%ab/" title="続きを読むあの日の陰よ安らかに">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「バカッ」</p>
<p>　1階への階段を降り切ろうというところで女子とすれ違う。その子は片手で顔を覆いながら、ものすごい勢いで駆け上がっていった。後に残されたのは甘い香水の香りと、</p>
<p>「……やっぱ仁王か」</p>
<p>「プリ」</p>
<p>　階段の横、倉庫みたいになってるスペースで壁に背を預ける仁王がいた。状況からして、また女の子を振ったに違いない。</p>
<p>「んな長続きしないならやめときゃいいのに。懲りない女子も女子だけど」</p>
<p>「彼氏もおらん未登録名前ちゃんには分からん世界じゃけえの」</p>
<p>「余計なお世話だわ！」</p>
<p>　仁王とは、3年になって初めて同じクラスになった。正直言って詐欺師なんて言われてるヤツと関わりたくはなかったが、話してみるとこれが意外なほど面白く、今では同じテニス部の丸井を交えて軽口を飛ばす間柄である。人は見かけによらないものだ。</p>
<p>「気にしとるんなら、作ればええに。俺とか」</p>
<p>「目の前でポイ捨てする奴が言うセリフか」</p>
<p>「未登録名前ちゃんなら捨てんよ？」</p>
<p>「何度目だ仁王」</p>
<p>　男が小首傾げたってひとっつも可愛くないし何十回同じセリフ言えば気がすむんだ。それに対して私の答えはひとつきりと決まっている。</p>
<p>「私はね、移り気は嫌いなの」</p>
<p>　例えまだ付き合ってないとしても、過去に浮気だのしてるようなヤツは信用出来ない。ポイ捨てなんか以ての外。<br />
　付き合ったら、私だけ見ててほしい。私はきっと欲張りだから、私がそうするように相手にも求めてしまう。自分で分かる。重たい、束縛、我儘だ。<br />
　だから仁王の彼女なんかなれない。自由であるのが仁王だからだ。</p>
<p>「未登録名前子」</p>
<p>　じゃあと立ち去ろうとして、腕を掴まれる。いつもと違う真摯な声に驚いて見上げれば、仁王はじっと私を見つめている。</p>
<p>「俺は、捨てん」</p>
<p>　その瞳には色がない。</p>
<p>「未登録名前なら、絶対に」</p>
<p>　緩まない手。震えているようにも見える唇。その一つ一つを確かめて、詰まりかけた息を大きく吸う。</p>
<p>「……どんどんヘタになるね、その詐欺」</p>
<p>「プピーナ。つまらんのう」</p>
<p>「つまってたまるか、そんなネタが」</p>
<p>「ならどんなネタならいいかの」</p>
<p>「振るな。そもそも振るな」</p>
<p>「未登録名前ちゃんが焦ったところみたーい」</p>
<p>「うぜえ！」</p>
<p>　スパーンと仁王の腕を振り払い、私は小走りで逃げ去る。</p>
<p>「じゃあね！次の彼女は泣かさないでよ！」</p>
<p>　返事を待たず、私は走った。鼓動が早いのは急いでいるからだと言い聞かせ、見えないふりをした。<br />
　次の彼女。自分の言葉が、痛かった。</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　ずる、と壁にもたれて座りこむ。触れた手のひらがやけに熱く、逃したくないばかりに顔に当てた。<br />
　こんなにも心から欲しいと思える女に出会うとは誰が予想できただろう。胸の奥が焦げ付いて、喉がヒリヒリと焼けそうだ。だが覆水は返らない。自分で掘った穴だ。それなのに俺の心臓は早鐘を打つばかりで、見て見ぬ振りも出来ないほど、痛みを増していくだけだった。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">491</post-id>	</item>
		<item>
		<title>少女漫画のインサイド</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e5%b0%91%e5%a5%b3%e6%bc%ab%e7%94%bb%e3%81%ae%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%89/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 09:04:13 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=489</guid>

					<description><![CDATA[&#8212;前回のつづき 　何がどうしてこうなった。ひたすらタオルや飲み物を配り歩き、進行を確認しながらふと思う。 　やたら長い車がうちの前に止まったのがつい数時間前の朝。その中からまごうことなき跡部様のお姿が参上し、...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e5%b0%91%e5%a5%b3%e6%bc%ab%e7%94%bb%e3%81%ae%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%89/" title="続きを読む少女漫画のインサイド">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>&#8212;前回のつづき</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　何がどうしてこうなった。ひたすらタオルや飲み物を配り歩き、進行を確認しながらふと思う。<br />
　やたら長い車がうちの前に止まったのがつい数時間前の朝。その中からまごうことなき跡部様のお姿が参上し、呆然とする私に眉をひそめて「メール入れただろ」と言い放った。慌てて確認すれば、確かに昨日11時過ぎに『7:00に迎えに行く』と簡潔に書かれていた。だが、私の携帯の設定で11時から8時の間は就寝モードで通知音が鳴らないようにしてあるから気づかなかったというわけだ。で、それをそのまま説明したらチョップを食らった。思わず「これが伝家の宝刀、空手チョップ……」と呟いたらもういっぺん今度は強めに食らった。そんな怒らんでも。<br />
　そんなこんなで、休日だというのに他校との練習試合、裏方雑務をやらされる羽目になったのだ。</p>
<p>「それでも手伝ってくれる未登録苗字ちゃんは偉いねぇ」</p>
<p>　設営されたテントの下、並んで業務をこなす滝先輩が言う。ちゃんと話すのは今日が初めてだったが、指示を仰いでいるうちにだいぶ打ち解けたように思う。滝先輩も物静かな人なので気が合ったのかもしれない。</p>
<p>「任された以上はキッチリがモットーなので」</p>
<p>「さすが生徒会書記。やるねー」</p>
<p>「生徒会というか、性分みたいなもんですかね。半端は好きじゃないんです」</p>
<p>「そっかそっか。だから跡部も未登録苗字ちゃんには気を許してるんだね」</p>
<p>　……はい？<br />
　今しがたとんでもない発言が滝先輩から飛び出した気がするんですが。聞き返そうとしたのだが、巻き上がる氷帝コールに掻き消えた。コートに跡部様と対戦相手が入ったところで、熱気のこもったコールに跡部様は悠々と片手を上げて応じている。まさしく王たる立ち居振る舞い。<br />
　――眩しい。<br />
　私の性格は自他共に認めるほど古風で冷静で、周囲のギャラリーのように熱を上げて叫ぶことなんておよそない。かと言って跡部様のように注目を浴びて尚堂々としていられるほどの胆力もない。<br />
　ここにあるのは私に足りないものだらけだ。そう思ったら、目の前の光景が、遠い異国のもののように現実味を失った。</p>
<p>「わっ！」</p>
<p>　いざ試合が始まろうというところ、ガチャンという音と共に背後で誰かが叫んだ。振り返ると一年生がタンクを倒してしまったようで、机にドリンクが滴っていた。私は手早く乾いたタオルを掴み、吸わせながら拭いていった。 「手際いいねー」と滝先輩に褒められたが先輩の方が十分手が早いです。<br />
　手洗い場にて、零した一年生と並んでタオルを洗う。結構な量になったので、これでは跡部様の試合は見られないなと思ったが、同じ氷帝なんだから機会はいくらでもあるか。と言っても今まで見たことなかったわ。失敬失敬。</p>
<p>「先輩あの、ほんとすいません」</p>
<p>　洗いながら、一年生の男の子が眉尻を下げる。</p>
<p>「大丈夫だよ。すぐ拭いたし、一番うるさく言うであろう部長も試合だったから見てないしね」</p>
<p>　だから心配ないよと笑いかければ、男の子はちょっとだけ視線を逸らす。</p>
<p>「……落ち着いてますよね、未登録苗字先輩って」</p>
<p>　羨ましい……違うな。尊敬？もちょっと違うか。なんとも言えない声色で、その子は濡れたままのタオルを握りしめている。なんて声をかけていいのか分からない。私まで洗いかけのタオルを握っていたまま、その子を見つめていた。</p>
<p>「あの、俺。未登録苗字先輩のこと前から知ってました」</p>
<p>「え、」</p>
<p>「部長と、生徒会のことで話してるの何回か見てて……ずっと気になってて」</p>
<p>　え、ちょ、ちょっと待って。なんだこの流れ。</p>
<p>「今日は、カッコ悪いとこ見せちゃって、全然そんな時じゃないんですけど、好きなんです。未登録苗字先輩が」</p>
<p>　まるで少女漫画みたいな、シチュエーション。<br />
　混乱した私はぽかりと口を開けたままその男子を見つめるしかできなかった。</p>
<p>「よかったらその、俺と」</p>
<p>「おいお前ら」</p>
<p>　閃光のように鋭い声が割って入った。姿を確認するまでもない、跡部様だった。試合を終えたばかりなのだろう、額に汗を浮かべて荒い息で肩を上下させている。跡部様はつかつか歩み寄ると、震え上がる男子部員に「テメェはあっちの片付けを手伝え」と命令し、男子が去っていったあとを見送ると深くため息をついた。</p>
<p>「ったく……どこ行ったかと思ったら、テメェは何しに来たんだ。告白なんかされやがって」</p>
<p>　それは私のせいでは、とか、彼の告白を『なんか』はキツくないか、とか、なんで跡部様が怒り気味なんだ、とか色々ツッコミは思い浮かんだのだが、それよりも私の頭を占拠してやまないのは。</p>
<p>「は、はじめて、告白された……！」</p>
<p>「あぁ？」</p>
<p>「跡部、さま、私っ、生まれて初めて告白されてしまいましたどうしましょう」</p>
<p>「な、」</p>
<p>「私なんかのことを好きになってくれる男子がいたのですね……！しかもずっと気になっていただなんてそんな言葉少女漫画でしかありえないと思っていましたし自分が言われても別になあとすら思っていましたがなかなかどうして嬉しいものですね……！」</p>
<p>　どうしよう。どうしよう。嬉しすぎて興奮してつい早口になってしまった。顔中に集まる熱が冷めやらず、両手で頬を包むも当然ながら冷めるでもなくますます熱くなる。</p>
<p>「……初めて、ね」</p>
<p>　跡部様が呆れたように呟いたところではっとする。そうだ、今日はテニス部の手伝いでここにいるんだった。これ以上私情で業務を滞らせる訳にはいかない。さっき跡部様にも注意されたというのにこいつはうっかりだ。</p>
<p>「そいつは俺がもらう予定だったんだが」</p>
<p>　……はい？<br />
　今しがた跡部様からとんでもない発言が……ってこれデジャヴすぎるぞ。一体全体どうしたんだ今日は。<br />
　目を白黒させていれば、跡部様は私のネクタイを優しく握り、それをしなやかな動きで口元に持っていっ…えええ？</p>
<p>「初めての恋人の座は、俺様に寄越しな。未登録名前」</p>
<p>　やや上目遣いで、アイスブルーの瞳が私を射抜く。<br />
　少女漫画みたいな展開が起こったと思ったら、今度は少女漫画以上の展開が私を襲った模様。<br />
　逸らせない。でも、なんと答えれば。迷っているうちに、跡部様はふっと笑ってネクタイを離した。</p>
<p>「返事は今すぐじゃなくていい。落ち着いたら言え」</p>
<p>「え、で、でも」</p>
<p>「どうせ答えなんか一個しかねえだろ？」</p>
<p>　最強の捨てゼリフを吐いて、我らが王様は満足気に去って行きました。<br />
　――案外、少女漫画もばかにできない。私は強く思ったのだった。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>（そして今後の展開も、きっとそんな風になる）</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">489</post-id>	</item>
		<item>
		<title>少女漫画のアウトサイド</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e5%b0%91%e5%a5%b3%e6%bc%ab%e7%94%bb%e3%81%ae%e3%82%a2%e3%82%a6%e3%83%88%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%89/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:39:35 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=487</guid>

					<description><![CDATA[「ないわー」 　思わず口にした瞬間、ガチャッと生徒会室のドアが開き、入ってきたのは我らが王様、跡部景吾様だった。 「……何がねえんだよ。アーン？」 　案の定誤解した跡部様は、思い切り私を睨みつけた。美人が怖い顔すると迫力...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e5%b0%91%e5%a5%b3%e6%bc%ab%e7%94%bb%e3%81%ae%e3%82%a2%e3%82%a6%e3%83%88%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%89/" title="続きを読む少女漫画のアウトサイド">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「ないわー」</p>
<p>　思わず口にした瞬間、ガチャッと生徒会室のドアが開き、入ってきたのは我らが王様、跡部景吾様だった。</p>
<p>「……何がねえんだよ。アーン？」</p>
<p>　案の定誤解した跡部様は、思い切り私を睨みつけた。美人が怖い顔すると迫力倍増だから勘弁してほしい。</p>
<p>「いや跡部様のことではなくてですね。この漫画に対して思わず口にしてしまいました」</p>
<p>「んだよ、勘違いさせんじゃねえ」</p>
<p>「はぁ、こりゃまた失礼しました」</p>
<p>　曲解したのはそっちじゃないか、という言葉は今後の人間関係を円滑にするために飲み込むが「言い方が古いんだよ未登録名前は」と吐き捨てられた。だが跡部様の麗しいお顔に刻まれていたシワは程なく緩み、ハッと笑いながら定位置である豪華な生徒会長の机についた。ちなみに私は二年の書記なので普通のデスクである。今は昼休みなので自由にしていたわけだ。</p>
<p>「で、何がねえんだ」</p>
<p>「この少女漫画の展開です。友達が、『超泣けるから！絶対読め！』って強引に押し付けてきたんですが……路上で不良に絡まれた女の子が、イケメンで頭が良くて性格もばっちりな男の子に助けてもらって恋するんですよ。現実じゃありえなくないです？」</p>
<p>　そう言って跡部様に漫画の表紙を見せるように掲げると、せっかく取れたシワがまた刻まれた。</p>
<p>「普通はねえな」</p>
<p>「ですよねー」</p>
<p>「だが、普通にないから漫画なんじゃねえの。女はそういうの好きだろ」</p>
<p>　その発言にはぎょっとした。</p>
<p>「え、跡部様興味しんしん丸ですね」</p>
<p>「テメェはいちいち言い方が古い。……空想でくらい夢見たっていいんじゃねえかって思っただけだ」</p>
<p>「意外ですね。てっきり『そんなモン読んでる暇あったら俺様に酔いな』ぐらい言うのかと思――痛ァ！」</p>
<p>　すっ飛んできたメモ束が見事額に命中し、私は漫画を取り落としてしまう。借り物なんだけど。やっぱり声マネしたのが気に食わなかったんだろうか。意外な発言を連発したのでつい調子に乗ってしまった。しまったしまった島倉千代子。</p>
<p>「ああでも島倉千代子は故人だしなァ……」</p>
<p>「……古い上に意味も不明か」</p>
<p>　落ちた漫画を拾おうと屈めば、頭上から心底呆れたような声が降ってきた。そんな独り言にまでツッコミ入れられても困るというか、跡部様は律儀だな。そういう所が王様たる所以なんだろう。<br />
　漫画を拾い上げてホコリを払っていると、跡部様がじっと見つめていた。そんなに気になるのかこの漫画、と思っていると、</p>
<p>「未登録名前は」</p>
<p>「はい？」</p>
<p>「どういう場面だったら色恋が始まると思うんだ？」</p>
<p>「私ですか？うーん……あいにく一目惚れを信じないタチで」</p>
<p>「ハッ、だろうな」</p>
<p>「むむ。ドキっとする瞬間くらいはありますよ。例えば、自分に出来ないことが出来る人なんか見た時なんかグッときます。スポーツとか」</p>
<p>「……ほお」</p>
<p>　含みのある相槌を打たれ、どういうことか尋ねようとしたのだが、間の悪いことに予鈴がなってしまいそれ以上の会話はなかった。<br />
　後日、跡部様から練習試合を見に来いとわざわざ自宅まで車を横付けしてきたのだから私は度肝を抜かれるこことなる。なぜ。<br />
　</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">487</post-id>	</item>
		<item>
		<title>ヘビに微笑まれたカエル</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%83%98%e3%83%93%e3%81%ab%e5%be%ae%e7%ac%91%e3%81%be%e3%82%8c%e3%81%9f%e3%82%ab%e3%82%a8%e3%83%ab/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:37:52 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=485</guid>

					<description><![CDATA[「……何やってんだ」 「あ、海堂君」 　背後からかかるドスの効いた声に振り返ると、ランニングウェアを着た海堂君が怪訝そうに立っていた。 　海堂君とは家も近所で学校も同じなので（さすがにクラスは違うけど）、会えば挨拶するく...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e3%83%98%e3%83%93%e3%81%ab%e5%be%ae%e7%ac%91%e3%81%be%e3%82%8c%e3%81%9f%e3%82%ab%e3%82%a8%e3%83%ab/" title="続きを読むヘビに微笑まれたカエル">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「……何やってんだ未登録苗字」</p>
<p>「あ、海堂君」</p>
<p>　背後からかかるドスの効いた声に振り返ると、ランニングウェアを着た海堂君が怪訝そうに立っていた。<br />
　海堂君とは家も近所で学校も同じなので（さすがにクラスは違うけど）、会えば挨拶するくらいの仲だ。逆を言えばそれ以上会話することはなく、今この瞬間は大変珍しいと言える。まあ夕方に路上の側溝をじっと見つめながらしゃがんでいる顔見知りがいたら、私でも声かけるかもしれない。っていうか普通かけるな、そんな不審者。</p>
<p>「……で、何やってんだ」</p>
<p>「えーと、そ、それは」</p>
<p>　急に自分が恥ずかしいことをしていたと意識し、誤魔化すようにぱたぱたと手を振った。</p>
<p>「大したことじゃないよ、気にしないで……ああごめん本ッ当大したことじゃないんだけどね！！？」</p>
<p>　会話を終わらせようとしたことが分かったらしく、海堂君の眉間にどんどんシワが寄っていくのを見て、観念した私は正直に告白した。</p>
<p>「ここに……携帯ストラップ、落としちゃって。紐、切れかけてたみたいで……」</p>
<p>　沈黙。<br />
　海堂君のほうを見ずに言ったから彼が今どういう表情をしてるか分からないけど、きっと呆れているに違いない。たかがストラップを側溝に落としたくらいで何を、って。そりゃ、たかがストラップだよ。特別な思い出があるわけでもないし、ただ可愛いから気に入ってた、それだけのもの。でも、自分の不注意で手の届かない場所にやってしまったのだから、へこまずにはいられないんだ。<br />
　たっぷりの沈黙のあと、海堂君はこう言った。</p>
<p>「……そこ、どけ」</p>
<p>「はい？」</p>
<p>「どけ」</p>
<p>　ぎろりと睨まれ恐怖した私は、カエルのようにぴょいと後ずさった。一体どうしたんだと思っていると、海堂君はおもむろに側溝の蓋を持ち上げた。</p>
<p>「どええええ！？」</p>
<p>「うるせえ！」</p>
<p>「あっハイ」</p>
<p>　海堂君は片手で蓋を持ち上げ、空いた手で汚水を探った。</p>
<p>「あああ、そんなしていただかなくても本当大したもんじゃないし手汚れちゃうからほんと大丈夫だから！！」</p>
<p>「うるせえっつってんだろ！……これか？」</p>
<p>　海堂君がつまみ上げたのは、小さな猫のマスコットがついたストラップ。泥にまみれていたけれど、確かに私が落としたものだ。</p>
<p>「そっそれだ！ありがとう海堂く、」</p>
<p>「バカ、そのまま受け取ろうとすんな」</p>
<p>　手を差し出すが、逆に海堂君は手を引っ込めてしまう。何がダメだったんだろうか。戸惑っていると、フシュゥと息をついた海堂君は側溝の蓋をきれいに戻し、それからポケットから取り出したハンカチでストラップをくるんで水気を取って自分の手も拭く。<br />
　……あ、そういうことか。私の手が、汚れるから。ハンカチも常備とは、なんてマメな性格だろう。<br />
　水気が取れると、差し出したままの私の手にストラップを乗せた。</p>
<p>「おら」</p>
<p>「わ、あ、ありがと」</p>
<p>「もう落とすんじゃねえぞ」</p>
<p>「かっ海堂君！」</p>
<p>　そのまま走り去りそうな海堂君だったが、私の声で足を止めた。また眉間にシワが寄っているが、もう、あまり気にならなくなっていた。</p>
<p>「優しいんだね、海堂君。今まであんまり話したことなかったから、意外だったよ」</p>
<p>「……何が言いてぇ」</p>
<p>「あーいや、ばかにしてるんじゃないんだよ！近所で学校も同じなのに、海堂君のこと全然知らなかったの、もったいなかったなって思って」</p>
<p>「……もったいない？」</p>
<p>「だって、よく知らない私のこと助けてくれたじゃない。そのくらいいい人と近所なのにーって。ね、これからは話しかけに行ってもいいかな」</p>
<p>　海堂君は、視線を少しだけずらして。</p>
<p>「……好きにしろ」</p>
<p>　かすかに、笑った。</p>
<p>「ありがとう！」</p>
<p>　私の手の中にあるストラップはすっかり汚れてしまったけれど、どんな新品よりも輝いて見えた。</p>
<div style="height:80px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>（おはよう海堂君！）<br />
（ああ、おは……！？）<br />
（よーマムシ！なんだお前、ついに彼女出来たのかぁ？）<br />
（うるせえ！そんなんじゃねえ！）<br />
（マムシってなに？あだ名？私も呼んでいい？）<br />
（いいわけあるかバカ！）<br />
（えーひどい！バカは合ってるけど）<br />
（そこは否定しとけよ！）</p>
<p>（……マジでこいつら、いつの間に知り合ったんだ？気ぃ合いすぎだろ）</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">485</post-id>	</item>
		<item>
		<title>風を受ける羽</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e9%a2%a8%e3%82%92%e5%8f%97%e3%81%91%e3%82%8b%e7%be%bd/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:36:03 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=483</guid>

					<description><![CDATA[　今日は朝からついていなかった。目覚ましが鳴らなかったおかげで電車を逃し、学校についたら遅刻で叱られ、階段を登っている途中で転んで膝を擦りむき、友達とは些細なことで喧嘩をし、帰り際には運悪く先生に頼まれごとをしてこの時間...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e9%a2%a8%e3%82%92%e5%8f%97%e3%81%91%e3%82%8b%e7%be%bd/" title="続きを読む風を受ける羽">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>　今日は朝からついていなかった。目覚ましが鳴らなかったおかげで電車を逃し、学校についたら遅刻で叱られ、階段を登っている途中で転んで膝を擦りむき、友達とは些細なことで喧嘩をし、帰り際には運悪く先生に頼まれごとをしてこの時間まで居残りだ。ざっと思い返しても良いことが全く思いつかず、私は深いため息を零した。<br />
　太陽は半分くらい姿を覆い、辺りは夜にさしかかろうとしている。住宅街の細い道路では人の姿もあまりなく、気落ちした私の心をさらに煽った。おまけに午後から風も強くなってまだ止まず、やたら目にゴミが入ってひどく痛い。本当に今日はついていないらしい。じわじわ溢れる涙は、ゴミだけのせいじゃないと分かっている。<br />
　仕方ないのでハンカチで拭おうとカバンから出したが、その瞬間、ひときわ強い風が吹いた。</p>
<p>　ふわりと舞うハンカチ。<br />
　あれは、お母さんに貰ったんだった。<br />
　以前お気に入りのハンカチを無くしたから。<br />
　だけど、もう手が届かない。<br />
　あんなに高く。</p>
<p>　涙が溢れたその時、背後から足音がした。勢いよく走る音。びっくりして振り返ると、音の主は地を踏みしめて飛んだ。<br />
　まるでスローモション映像。小柄な子が、空中高く飛び上がっていた。赤い髪が夕陽を受けてキラキラと輝き、大きな瞳は楽しげに見開かれている。その高さは、私の身長――おそらくその子自身の身長ですらゆうに超えている。<br />
　羽。私には、その子の背中に羽が見えた。</p>
<p>「はいよ、コレ」</p>
<p>　きれいに着地したその子は、私にハンカチを差し出した。背丈や顔立ちから女の子と思っていたが、声は男の子のものだった。一気に照れくさいような恥ずかしい気分になって、ハンカチをこわごわと受け取った。</p>
<p>「あ、ありがとう。……すごいね、君。あんなに高く」</p>
<p>　だけど、もうダメだと思っていたから本当に嬉しくて、私はハンカチを両手で抱きしめる。その様子を見ていた男の子は手を頭の後ろにやって、にかっと笑った。</p>
<p>「あれぐらい、ちょろいちょろい。俺は羽生えてっからな！」</p>
<p>　きっと、冗談のつもりで言ったんだろう。だけど私には、本当に羽が生えてるように見えたし、それくらい鮮烈なイメージが脳裏に焼き付いた。だから、冗談では返せなかった。</p>
<p>「確かに、あの瞬間、羽が見えたよ」</p>
<p>　すると、男の子は目をパチクリと瞬かせたあと、ずいと私に詰め寄った。</p>
<p>「ほっほんとか！？やっぱ俺、羽生えてるよな！？」</p>
<p>「え？う、うん」</p>
<p>　掴みかかるような勢いで言われ、戸惑いつつも頷くと、男の子は頰をかく。</p>
<p>「こう言うとさ……あいつら、友達がさ、みんな笑うんだよ。見えないのにあるわけねえって。そんな風に言ってくれたの、あんたが初めてだ」</p>
<p>　ありがとな、と男の子は太陽みたいな笑顔を見せてくれた。その煌めきに、さっきまで沈んでいた私の心はすっかり浮上していた。</p>
<p>「私は信じるよ。君の羽。かっこよかったもん」</p>
<p>「そ、そうか？へへっ、ちょっと照れくさいな」</p>
<p>　その時、ピリリと電子音が響いた。携帯の着信みたいだけれど私のじゃない、そう思っていると、男の子が慌てた様子でズボンのポケットに入れていたらしい携帯を取り出し、画面を見て眉をしかめた。</p>
<p>「あー……待ち合わせてるやつだ。早く来いって……」</p>
<p>「えっ、じゃあ早く行かないと。ごめんね、時間とらせて……」</p>
<p>「いや全然！むしろ楽しかったぜ！」</p>
<p>「そう？」</p>
<p>「おう！」</p>
<p>　男の子は携帯をしまうと、さっと駆け出しながら手を振った。</p>
<p>「じゃーな！羽、信じてくれてありがとな！」</p>
<p>　返事をしようとしたが、やっぱり運動神経がいいからか、あっという間に姿が遠のく。<br />
　あの男の子自身が、一陣の風みたいだった。ほんの少し話しただけなのに、こんなにも強く印象付けられている。幾分穏やかになった風を受けながらそんなことをぼんやり思った。</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　次の日は、好調だった。朝は目覚ましより早く起きられてゆっくり朝ごはんを食べ、電車では座席に座ることができ、少し早くついた教室では喧嘩した友達がいて、仲直りすることができた。昨日の運が全て今日にまわってきたみたいだった。だから、私はあえて遅くに学校を出た。同じ時間にあそこを通れば、またあの男の子に会えるような気がして。そうしたら、きちんとお礼をしたいと強く思った。<br />
　細い道路に差し掛かり、きょろきょろと辺りを見回すが、あの男の子の姿は見えない。わざとゆっくり歩いてみても人の気配はまるでなく、やがて道路は大きな国道にぶつかる。ここの横断歩道を超えたらすぐに家だ。そこまでついてはいなかったんだな、と少し気落ちしながら信号を待った。</p>
<p>「あー、どこに行ったんだろ」</p>
<p>　人混みに紛れて。<br />
　聞き覚えのある声。</p>
<p>「いつも通ってるんは、違う道かもしれへんな」</p>
<p>「んなっ！それじゃどうしようもねえぞ！俺だっていつもあの道通らねえのに！」</p>
<p>「なんで名前くらい聞かへんかったん」</p>
<p>「侑士が急かすから聞きそびれたんだろ！」</p>
<p>「人のせいにしなや」</p>
<p>「くそくそ、せっかく羽褒めてもらったってのに……あーあ、また会いてえな」</p>
<p>「あっあの！」</p>
<p>　信号が変わって、周囲の人たちは一斉に動きだす。けれど、私たちは動かなかった。<br />
　赤い髪の男の子は、私を見つめてぽかんと口を開けていた。あんなに格好よかった昨日とは打って変わったその表情に、じわじわと愛おしさが混みあげる。</p>
<p>「私、未登録苗字未登録名前って言うの。君は？」</p>
<p>　男の子はまだ呆然としていたが、隣にいたメガネの男の子が背中を小突くと慌てた様子で頭を振った。</p>
<p>「おっ俺は向日、岳人！」</p>
<p>「向日君ね」</p>
<p>「いっいや。岳人でいい」</p>
<p>「そう？」</p>
<p>「……おう！」</p>
<p>　それから、羽のある男の子、岳人君が少しだけ回り道をしながら帰るようになったのは、また別のお話。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">483</post-id>	</item>
		<item>
		<title>アブソリュートゼロ</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%82%a2%e3%83%96%e3%82%bd%e3%83%aa%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%83%88%e3%82%bc%e3%83%ad/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:34:14 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=481</guid>

					<description><![CDATA[「仁王君、あのさ」 帰り道、不意に立ち止まった。その瞬間に俺は、ああまたかと思った。長くて三ヶ月、短くて一日。そのいずれも、今まで付き合ってきた女はこんな風に立ち止まって別れ話を切り出してきた。付き合ってなお女遊びをやめ...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e3%82%a2%e3%83%96%e3%82%bd%e3%83%aa%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%83%88%e3%82%bc%e3%83%ad/" title="続きを読むアブソリュートゼロ">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「仁王君、あのさ」</p>
<p>帰り道、不意に立ち止まった未登録名前。その瞬間に俺は、ああまたかと思った。長くて三ヶ月、短くて一日。そのいずれも、今まで付き合ってきた女はこんな風に立ち止まって別れ話を切り出してきた。付き合ってなお女遊びをやめず、ろくに構いもしない俺に嫌気が差すらしい。俺としては彼女ヅラして逐一連絡をせがむほうがよほど鬱陶しい。<br />
しかし、この未登録苗字未登録名前という女は、良くも悪くも空気のような女だった。俺がどれだけ遊んでいても文句は言わず、何度約束をすっぽかしても「そんなこともあるよね」と返す。学校でさえ会話することがあまりなく、会っても無言で隣にいる。俺の方がなぜ告白してきたんだと言いたくなるくらいに、未登録名前は空気のように振る舞った。<br />
正直に言えばその空気感がとても楽で、だからこそ三ヶ月ももったのだと思う。だがそれももう終わりだ。まあいい加減飽きてきたところだし、次は誰に声をかけてやろうか。わざわざ声をかけずとも、勝手に寄ってくる奴は大勢いるが。だから、こいつに切られたとしても、何とも思わない。ああ、何とも。</p>
<p>「仁王君ってさ」</p>
<p>別れ話だと思い込んでいたせいか、続く言葉に目を見開く。まだ背中を向けたままでよかった。</p>
<p>「薄氷だよね」</p>
<p>「……何の話じゃ」</p>
<p>苛立ちを隠さない声にも、未登録名前は全く怯む様子がない。</p>
<p>「うすーい氷で出来てるよね。唇合わせても体重ねても、氷一枚分くらいの距離を感じるよ」</p>
<p>「そこはガラスじゃないんか」</p>
<p>「モース硬度でいえばガラスは5で氷は6なんだよ。ガラスよりもっと手強そうだもの」</p>
<p>「……氷のそれは-70℃のときじゃ。0℃で1.5程度にしかならん」</p>
<p>なぜこんな話をしているのか。未登録名前は理科に強かったか？と思い返したところで、そんな基本的なことさえ知らないほどに未登録名前との関わりが薄かったことに気づいた。<br />
俺は、彼女のことを何も知らない。</p>
<p>「ならそれで正解だよ。仁王自身も薄氷で出来てる。絶対零度だよね。何ものにも揺さぶられないから。付き合って確信できた。そういう人もいるんだね」</p>
<p>「俺は、」</p>
<p>「じゃあ、さよなら」</p>
<p>「っ――！！」</p>
<p>振り返っても、未登録名前と視線は合わない。未登録名前はすでにこちらに背を向けていた。<br />
いつからだ。女遊びをやめたのは。いつからだ。約束を守るようになったのは。学校ではあいつを探して、無言でいる居心地の良さを感じるようになったのは。<br />
いつからか俺は、彼女を名前で呼ぶようになっていた。</p>
<p>（彼女がいう薄氷の意味が、恐ろしいほど理解出来た）</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">481</post-id>	</item>
		<item>
		<title>天然下克上</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e5%a4%a9%e7%84%b6%e4%b8%8b%e5%85%8b%e4%b8%8a/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:32:09 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=479</guid>

					<description><![CDATA[「あっ日吉君いたー。跡部君がこれ渡してってー」 　昼休み、購買から戻る途中に何ともイラつく話し方で呼び止められた。わざと一拍置いて振り返る。水瀬透子先輩がニコニコしながらプリントを差し出していた。内心で舌打ちしながら受け...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e5%a4%a9%e7%84%b6%e4%b8%8b%e5%85%8b%e4%b8%8a/" title="続きを読む天然下克上">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「あっ日吉君いたー。跡部君がこれ渡してってー」</p>
<p>　昼休み、購買から戻る途中に何ともイラつく話し方で呼び止められた。わざと一拍置いて振り返る。水瀬透子先輩がニコニコしながらプリントを差し出していた。内心で舌打ちしながら受け取る。</p>
<p>「……なんでいつもあなたが渡してくるんですか」</p>
<p>　水瀬先輩はテニス部のマネージャーでも跡部さんの部下でも何でもない。それなのに跡部さんは、俺に回すべき書類、些細なものから重要なものまで水瀬先輩づてに渡してくる。あの人が意味不明なのは今に始まったことじゃないが、無関係な人間を巻き込むような意味不明さは心底迷惑だ。おまけに水瀬先輩というイライラの象徴に任せるなんて。<br />
　俺の胸中を知るよしもない水瀬先輩は、こてっと首を傾げる。</p>
<p>「うーん、跡部君と同じクラスだから？」</p>
<p>「じゃああなたじゃなくてもいいでしょう。ひとクラス何人いると思ってるんですか」</p>
<p>「むーそれは跡部君に言ってよー。私頼まれてるだけだし」</p>
<p>「言って、きかないからあなたにも言うんです。断ってください」</p>
<p>「ええー。断ったら日吉君と話せなくなっちゃうからやだな」</p>
<p>「またそんなことを……」</p>
<p>「日吉君と話すの好きだもん」</p>
<p>「俺は嫌いです」</p>
<p>　視線を逸らす。こうやってすぐ先輩は俺の心をかき乱す。だから嫌なんだ。どうせ跡部さんから頼まれる意味だって分かってないだろ。あの人はあなたのことが好きだからわざわざこんな回りくどいことをしてるんだよ。いい加減分かれ。そして俺を巻き込むな。</p>
<p>「……あー、ごめん」</p>
<p>「謝るくらいなら……」</p>
<p>「私、こんなだからさ。日吉君みたいなしっかりしてる子は、喋っててイライラしちゃうよね。でも日吉君と話せるの、やっぱり嬉しくて」</p>
<p>　視線を先輩に向ける。だが先輩は床を見つめていた。</p>
<p>「次からは、ちゃんと断るから。本当にごめんね。……嫌いなのに、付き合わせて」</p>
<p>　嫌い。<br />
　自分で放った言葉を返されただけなのに。</p>
<p>「っ俺は！」</p>
<p>　先輩は返しかけた踵を止めた。その瞳は見たこともないくらい大きく見開かれている。<br />
　跡部さんとかもうどうだっていい。というか、相手が跡部さんならむしろ好都合だったじゃないか。下克上だ。あの人なんかには渡さない。水瀬先輩を、絶対に奪い取ってみせる。</p>
<p>「先輩の、こと……き、嫌いじゃ、ないです」</p>
<p>「そうなの！？」</p>
<p>　やっとの思いで口をついた言葉は、考えてたものとはまるで別物だったが。水瀬先輩がキラキラと目を輝かせていたから、まあ、いいか……。</p>
<div style="height:80px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>（やっとかよ。おせーぞ日吉よ）</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">479</post-id>	</item>
		<item>
		<title>ラブロマンスにしてみよう</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%83%a9%e3%83%96%e3%83%ad%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%81%ab%e3%81%97%e3%81%a6%e3%81%bf%e3%82%88%e3%81%86/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 18 Jan 2023 08:28:44 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=477</guid>

					<description><![CDATA[「あああ～～なんでなの～～～～」 　机に突っ伏して足をばたつかせる私は、先程三回目の失恋を遂げたばかりである。 「しゃあないやん。振られたもんは」 　そんな私を見向きもせず涼しい顔で本を読むのは、クラスメイトで一年からの...  <a class="excerpt-read-more" href="https://swingswing.echo.jp/works/%e3%83%a9%e3%83%96%e3%83%ad%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%81%ab%e3%81%97%e3%81%a6%e3%81%bf%e3%82%88%e3%81%86/" title="続きを読むラブロマンスにしてみよう">続きを読む</a>]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「あああ～～なんでなの～～～～」</p>
<p>　机に突っ伏して足をばたつかせる私は、先程三回目の失恋を遂げたばかりである。</p>
<p>「しゃあないやん。振られたもんは」</p>
<p>　そんな私を見向きもせず涼しい顔で本を読むのは、クラスメイトで一年からの友達である忍足侑士。長い付き合いの友達がこんなに傷ついているのにへーぜんとしてやがるその神経、さすが心を閉ざす男である。</p>
<p>「年一のペースでノロケと愚痴交互に聞かされたら誰でもそうなるで」</p>
<p>「おまけに読心術も心得ているときたもんだ」</p>
<p>「そら青学のほうや」</p>
<p>「あーそんなことはどうでもいいんですぅー傷ついているんだからちょっとくらい話聞いて欲しいんですぅー慰めて欲しいんですぅー」</p>
<p>「ですですうっさいわ。聞いとるやんか」</p>
<p>「聞いてない！！相槌が適当！！心じゃなくて本を閉じろ！！」</p>
<p>「この子ホンマめんどいわー」</p>
<p>　忍足はため息をつきながら渋々本を閉じた。それから片手で頬杖をつき、私を見下ろす。何だか、ものすごく冷たい目に見えて、ぷいと顔を逸らした。</p>
<p>「なんやねん。自分が話聞けー言うたんちゃうん」</p>
<p>「……もーいい」</p>
<p>「勝手なやっちゃな」</p>
<p>「……彼氏の前ではいい子だし」</p>
<p>　わがままだって言わないし、彼氏の意見には従う。苦手な料理だってするし一人の時間も尊重してあげる。自分で言うのもアレだけど、かなり献身的だ。それなのに、別れ話を切り出すのはいつだって向こうから。何が悪いとか、もう考えるのも無駄な気がしてきた。<br />
　きっと私は一生誰にも愛されない、なんて取り留めもない言葉が浮かんで思わず目頭が熱くなった。</p>
<p>「あんなぁ」</p>
<p>　返事はしなかった。声が震えているのが分かっちゃうから。だけど忍足は続ける。</p>
<p>「好きなんは分かるけど、それで自分抑え込んで無理して、結果嫌われるんなら意味ないで」</p>
<p>　さすが好きな本と映画が純愛物で大変おモテになる忍足侑士は言うことが違いますね。ぐっさぐっさ刺さり過ぎて、本当に涙出た。<br />
　出た涙が溢れて、ぽろっと机に落ちた時。</p>
<p>「まあ、見る目なかったんやな。その男も」</p>
<p>　出た涙が引っ込んだ。びっくりして振り向くと、なぜか至近距離に忍足の顔。</p>
<p>「そんなことせんでも、未登録名前はかわええって言わな」</p>
<p>　ゆるゆる頬を撫でる忍足との距離がゼロになるまで、あと3秒。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
		<post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">477</post-id>	</item>
	</channel>
</rss>
