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	<title>刀剣短編 &#8211; 揺れる</title>
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	<title>刀剣短編 &#8211; 揺れる</title>
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		<title>午前6時のシンデレラ</title>
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		<pubDate>Mon, 05 Jan 2026 06:25:20 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[好きなひと夢にみる　／ほのぼの]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　ぶわ、と顔があつくなる。</p>



<p>「、ごめん」</p>



<p>　そう言って私は、目の前でぽかんとしている長曽祢さんに背を向けて、足早にその場を去った。</p>



<p>　秘めておくつもりだった。<br>　誰にも言うつもりもなかった。<br>　ずっとずっと胸の奥底で、大事に仕舞っておくつもりだった。<br>　<br>　どうして言ってしまったんだ。</p>



<p>　夢を見た。恋焦がれているあのひとが、私に向かって『好きだ』と言ってくれた。嬉しくて、嬉しすぎて涙が出てきたのをあのひとは優しく拭ってくれた。長曽祢さん。うちの本丸に顕現してから、初めて見たときから、今でもずっと好きなひと。<br>　幸せな夢だった。だけど同時に、ひどい罪悪感も覚えた。あっちは私のことを主としてしか見ていない。そもそもそんなに接点もない。当たり前だ、部下への恋心なんて迷惑でしかないから自分から遠ざけた。<br>　なのにどうして、ああ、今日に限って。<br>　目が覚めて、幸福を噛み締めて、部屋を出たら長曽祢さんに会って。まだ寝ぼけてたに違いない、「好き、私も」なんて。<br>　彼の顔を見ただろう。いきなりそんなことを言われて、唖然としていた。金色の瞳が見開かれ、真っ直ぐ私を射抜くみたいに。<br>　どうしよう、どうしよう！<br>　がむしゃらに歩き続けた先は廊下の行き止まり。納戸がひとつあるだけだ。いっそここに閉じこもってしまおうか、そんなことさえ考えながら納戸に手を付いて深くため息を吐いた。</p>



<p>「待ってくれ」</p>



<p>　頭上から降ってくるのは。いつも遠くで聞いていたあの声。凛々しくて、でも優しくもあって。やんちゃな弟も血気の多い新選組も、ひと声でおさまってしまうほど、落ち着いた声。</p>



<p>「……まさかと思うが、ここに隠れる気じゃないよな」</p>



<p>　とん、と納戸にかかる手がもう一つ。私の隣に並ぶそれは、一回りも二回りも大きくて、性別の違いをありありと浮き彫りにした。</p>



<p>「あ、あの」</p>



<p>「……違うよな？」</p>



<p>　どうしてだろう。<br>　いつも凛々しい声が。逞しい腕が。<br>　なんだか弱々しく見える。</p>



<p>「か、隠れません」</p>



<p>「そう、か」</p>



<p>　やっとの思いで答えると、彼は本当に安堵したように息を吐いた。</p>



<p>「隠れないなら、聞いてくれるか」</p>



<p>　心臓が跳ねる。断罪される囚人のような心地になり、ぎゅっと目を閉じた。<br>　――そのとき私の手の上から、ひどく熱いものがそうっと重なった。</p>



<p>「好き、というのは。おれが想像しているもので間違いないだろうか」</p>



<p>　ひどく熱くて、それでいて、少し震えていた。<br>　ゆっくりと目を開けて、それから長曽祢さんを見上げた。彼は、まるで迷子の子どものように眉を寄せて、今にも泣き出しそうにも見えた。</p>



<p>「……長曽祢さんが想像してる、って、どういう『好き』ですか」</p>



<p>　ほんの少し。ほんの少しだけ、踏み込んでも許される気がして。</p>



<p>「……あんたは存外、意地が悪いんだな」</p>



<p>　手をついていないほうの手で、長曽祢さんは後ろ頭をがりがりとかく。気まずそうにしている様子が、さっきの私と逆になっていて、なんだかおかしくなる。</p>



<p>「そういう長曽祢さんは、少し子どもっぽいです」</p>



<p>「……こういうおれは、嫌いか」</p>



<p>　私はついに耐えきれず、ふふっと笑ってこう言った。</p>



<p>「好きですよ。ずっと、ずっと前から。私は――」</p>



<p>　夢の続きはもう見ない。ここから先は――</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>計画的昼寝</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e8%a8%88%e7%94%bb%e7%9a%84%e6%98%bc%e5%af%9d/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 18 Jul 2025 11:32:53 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[昼寝は計画的に。 / ほのぼの]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>（……珍しい）</p>



<p>　目の前の光景を見て、そんな独り言が頭に浮かんだ。</p>



<p>　ある日の昼下がりのこと。長曽祢さんに用事があったことを思い出し、ひと伝てに長曽祢さんの居場所を聞くと私室にいるとのことだったので呼びかけたのだが返事がなく、そうっと障子を開けたら、そこには座布団を枕に昼寝をしている長曽祢さんがいたのだった。<br>　私から長曽祢さんへの印象としては。<br>　あまり喋らないけど物事を着実にこなし、常に背筋をぴっと伸ばしている隙のないひと。そんなひとが、無防備に、しかも私が声をかけても起きないほど深く眠っているというのだから、本当に珍しいことがあるものだとついしげしげと眺めてしまう。</p>



<p>（大きいな）</p>



<p>　できるだけ足音を殺して、近づいてみる。立っているときも思うことだが、こうして横になっていてもその体格の良さを実感する。<br>　おもむろに、隣に寝転んでみる。自分などすっぽりと包まれそうな体格差だ。まあ、長曽祢さんを前にしたら大体の人はそうなるだろうけど。</p>



<p>「ううん」</p>



<p>　それまで仰向けになっていた長曽祢さんが、私のほうを向いた。起きたのか、と思ってびっくりしたが瞼は閉じられたままだったことにほっとする。</p>



<p>（……かっこいいなあ）</p>



<p>　正面から見るのは、初めてかもしれない。いつもは見上げてばかりだから。三日月さんや鶴丸さんみたいな美形とはまた違う、偉丈夫とか、凛々しさ、雄々しさといった言葉が似合うひとだと思っている。</p>



<p>　……だから、密かに、憧れている。</p>



<p>　この気持ちは誰にも言っていないし、表に出したこともない、はず。そもそも長曽祢さんとも上司と部下以上の会話をしたことがないし、近侍も任せたことはない。それよりも経歴からして部隊長の方が適任だと思ったのでそのようにして、それをほかの男士に疑問を持たれたこともない。<br>　……もっとも、これは私なりの線引きなのだけれど。<br>　そばにいて、どこかでばれるのが怖いから。<br>　気持ちがばれて、関係が壊れてしまうのが恐ろしいから。<br>　それよりは遠くから眺めて、時々話をするくらいで、私は十分幸せなのだ。</p>



<p>「……、」</p>



<p>　不意に。</p>



<p>「……！！」</p>



<p>　声を出さなかったのは、自分で自分を褒めたいと思った。<br>　長曽祢さんが、私をぎゅっと抱き込んで、そのまま、眠り続けている。<br>　ばくばくと心臓が鳴っている。顔も赤い。誰かに見られたらどうしよう。こんなところ見られたら誤解される。でも振り解いたら起きてしまうかも。そしたらなんて言い訳をすれば。<br>　ぐるぐると頭が混乱し続ける。だけど。</p>



<p>（……あったかい）</p>



<p>　刀剣男士の本質は、刀である。だけど今はひとの体を持っていて、私たちと同じように、ものを考え、手足を動かし、そして体温を持っている。</p>



<p>　そのことが今、どうしようもなく嬉しい。</p>



<p>　少しだけ、頭を長曽祢さんの胸に傾け、目を閉じる。少しだけ。ほんの少しだけでいい。この幸せな時間を自分だけのものにしたかった。</p>



<div style="height:323px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>



<p>「……？」</p>



<p>　ふと気がつくと、自分の部屋だった。自分の部屋というか、執務室にある仮眠用ベッドというか。</p>



<p>（……夢？）</p>



<p>　それは、そうか。</p>



<p>　あんな自分にとって都合の良い時間が、現実な訳がない。そう思った瞬間がくりと肩が落ち、ため息が溢れた。</p>



<p>「主、いるか」</p>



<p>　心臓がはねた。長曽祢さんの声がする。　</p>



<p>「は、はい。すみません寝てまして」</p>



<p>　どうぞと言って中に入ることを促すと、長曽祢さんはいつものように部屋の入り口あたりで話し始める。</p>



<p>「何度か声をかけたんだが、だいぶ深く寝ていたようだな」</p>



<p>「そのようです。お恥ずかしい……」</p>



<p>「いや、構わん。もうすぐ夕餉の時間だからな、呼びに来た」</p>



<p>「分かりました。わざわざありがとうございます」</p>



<p>　遠いな、さっきはあんなに近かったのにな。まぁ、それは夢の中の話だけれど。私と長曽祢さんとの距離は、最初から今までずっとこうだった。</p>



<p>「ああ、それと」</p>



<p>「なんですか？」</p>



<p>　長曽祢さんは、にやりと口角を上げた。</p>



<p>「あのとき実は起きていて、あんたをここに運んだのがおれだ、と言ったらあんたはどうする？」</p>



<p>「えっ」</p>



<p>「先に行っているぞ」</p>



<p>「えっまっ待って！　待ってください！！」</p>



<p>　慌ててベッドから飛び出して、つんのめりそうになりながらもあの広い背中を追いかける。</p>



<p>　ねえ。<br>　もう一度私がこの距離を埋めたら、あなたは振り返ってくれるかな。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<title>適わぬ恋だった</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e9%81%a9%e3%82%8f%e3%81%ac%e6%81%8b%e3%81%a0%e3%81%a3%e3%81%9f/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 05 Jun 2025 15:50:35 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[だけど心なんてもの、とはついぞ彼は言わなかった。　/ 暗い]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　叶わぬ恋だと彼が言う。</p>



<p>　だというのに、私を見下ろす双眸は今にも泣き出しそうに震えている。押し倒されているこちらが可哀想に思うほど、目の前の膝丸は苦悶の表情に満ちていた。</p>



<p>「何故」</p>



<p>　低い声だった。怒り、だけれど縋り付くような低い声。私は膝丸のこんな声を知らない。</p>



<p>「何故、そんなことができる」</p>



<p>「そんなこと、とは」</p>



<p>　私には、膝丸が怒っている理由が分からない。<br>　こんなふうに押し倒される理由も、ましてや膝丸が泣きそうになっている理由すらも。<br>　きっと私は呆けた顔をしていることだと思う。膝丸によく注意される、「よそ見をするな、集中しろ」という顔。だけれど膝丸はそんな私を見て、ぐうと喉を鳴らすだけだった。</p>



<p>「君が、」</p>



<p>　それから、絞り出すような声。</p>



<p>「いや、君は」</p>



<p>　くちびるを噛み締めて、息を吐く。本当に、こんなに『らしくない』膝丸を見るのは初めてだった。</p>



<p>「君は、兄者が君を好いているのを知っていてそんなことをするのか」</p>



<p>　青天の霹靂。<br>　というのは、こういうことを言うんだろうなと思うくらいには余裕があった。</p>



<p>「それなのに、何故、他の審神者と婚約など」</p>



<p>　審神者同士の婚約。それは珍しい話ではない、どころか推奨さえされている。<br>　いつまでも終わらない戦争には次なる世代を次々増やさねばならない。その世代は、霊力がふんだんにあるといい。よって政府が組んだお見合いの席や出会い目的のパーティなど、そういった催しは山程ある。そのうちの一人に私がそうなっただけの話だ。<br>　それなのに、は、こちらのセリフだなとも思った。</p>



<p>「膝丸はさ」</p>



<p>　私が声を出すと、膝丸の肩がびくりと跳ねた。怒られているのはどちらだろう。</p>



<p>「髭切がかわいそうだっていうの」</p>



<p>　だから叶わぬ恋だと私を非難するのだろうか。しかし膝丸は、ついに私から目を逸らして唇を噛む。まるで、非難されているのは己であるかのようだった。</p>



<p>「確かに婚姻は人間だけじゃなく刀剣男士も推奨されているけれど」</p>



<p>「推奨などと！」</p>



<p>　どん、と彼の手が床を叩いた。</p>



<p>「まるで道具同士ではないか……人間は、人同士の婚姻とは、愛情があって成り立つものではないのか！？　君はそれを良しとするのか！」</p>



<p>　どうして膝丸が怒っているのかが、分からない。</p>



<p>「『私たち』は道具と一緒だよ」</p>



<p>　いくらでも代わりがきく、使い捨ての道具となにも変わらない。<br>　そこに感情なんてものを据え付けられた刀剣男士の方がよほど可哀想だと思った。</p>



<p>「それに、髭切は私のことなんとも思ってないよ。私も、話しやすいから話してるだけ」</p>



<p>「まさか、そんな」</p>



<p>「膝丸の勘違いだよ」</p>



<p>「そんなはず、」</p>



<p>「ねえ、膝丸」</p>



<p>　私はそうっと、膝丸の頬に触れた。</p>



<p>「どうして膝丸が泣いているの」</p>



<p>　ぽた。<br>　ついに溢れた涙は私の頬を伝い落ちる。</p>



<p>「……君、が」</p>



<p>　今度は言い直すことはしなかった。</p>



<p>「君が、好きだからだ。他の誰でもない、この俺が……君を……」</p>



<p>　やがて膝丸は私の肩口に額を埋め、なお止まらない嗚咽を漏らす。<br>　私は、もう膝丸に触れようとは思わなかった。思えなかった。</p>



<p>　私は。きっと。<br>　たまたま心を持って生まれただけの道具で、膝丸のように相手を想って泣くことができなかったからだ。</p>



<p></p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>初めましてを始める</title>
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		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Mon, 13 Jan 2025 12:59:28 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[始まりというにはまだ遠い　/ ほのぼの]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　あの背中に恋をした。</p>



<p>　出陣の際、槍を携えてぴんと伸ばした背筋も。朝、眠たげに曲げた猫背も。仲間たちと呑みながら楽しげに揺れる背も。</p>



<p>　気づけば目で追ってしまう。広くて大きくて、頼りになる背中。</p>



<p>「ん？」</p>



<p>「……！！」</p>



<p>　肩越しに振り返りそうになった瞬間、わたしは慌てて目を逸らす。どうか気づかれていませんように、と祈りながら日本号さんに背を向けて歩き出した。背中の主は、今日も追ってはこない。</p>



<p>　もともと不相応な恋だと分かっていた。</p>



<p>　相手は日の本一の槍で、正三位の位持ちで、対するわたしは、偶然この職に就いただけのなんの変哲もないただの女。この想いを告げたとて玉砕するのがオチだ。それならば、遠くからその背中を眺めているだけでいい。わたしが恋した、わたしだけの。</p>



<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>



<p>「……なんで？？」</p>



<p>　夕方、執務室。明日の仕事のまとめに取り掛かろうとしたところで、なんとあの日本号さんがやって来てこう言ったのだ。「俺を近侍にしてくれないか」と。</p>



<p>「なんでって……逆に俺が聞きてえな」</p>



<p>　日本号さんは無精髭を撫でさすり、</p>



<p>「聞けば、蜻蛉切はまだしも御手杵まで近侍をやったことがあるってのに、俺だけいつまで経ってもその座にありつけないってのはどういうことかね」</p>



<p>　ぐ、と言葉に詰まる。完全に私情だったからだ。好きで好きでたまらないから、一緒にいたらこの気持ちがばれてしまいそうだったから、今まで言えなかったのだ。</p>



<p>　ふ、と嫌な予感が過ぎる。</p>



<p>　もしかしたらこの聡明な槍はもうとっくに気づいていて、わたしを真正面から振るためにわざわざ自ら近侍を申し出たのではないか。いや、きっとそうに決まっている。でなくばこの気高い槍が、なんの取り柄もない審神者ごときに、</p>



<p>「あんた、好きなもんはあるか」</p>



<p>「へ」</p>



<p>　ぽろ、と握りしめていたペンが手からこぼれ落ちた。その様子を見て、日本号さんはははっと短く笑い、わたしのそばに座り込んだ。</p>



<p>「俺はあんたを知らなさすぎる」</p>



<p>　落ちたペンを拾って、</p>



<p>「……ああ、あんたこういう色が好きなのか」</p>



<p>　確かに、そのペンは自分で選んだ。数あるカラーバリエーションの中から、これだというものを。</p>



<p>　日本号さんの、鮮やかな瞳のような色。</p>



<p>「俺も好きだぜ。こういう色は」</p>



<p>　かたん、と文机にペンを置いて。</p>



<p>　日本号さんは、聞いたことのない声音で言った。</p>



<p>「なあ。俺にあんたを教えてくれないか」</p>



<p>「な、んで……」</p>



<p>　背中を。追っているだけで良かった。</p>



<p>　密かに想っているだけで良かった。</p>



<p>　なのにどうして。</p>



<p>「なんで、か……なんでだろうな」</p>



<p>　え、と思わず日本号さんを見上げる。</p>



<p>　見上げるなんて、座っていてもこんなに距離があるなんて知らなかった。</p>



<p>　日本号さんは、ゆるく目を細めてこう言った。</p>



<p>「何故だろうな。あんたのことが知りたくてたまらないんだ」</p>



<p>　――戸惑い。その瞳に浮かぶ色を見て、わたしは悟った。</p>



<p>　このひとは。自分の心を、感情を、持て余している。</p>



<p>「分かりました」</p>



<p>　恐れず、まっすぐに。</p>



<p>　わたしは、そこで初めて日本号さんの目をはっきりと見た。</p>



<p>「明日からしばらく近侍を頼みます。知っていきましょう、お互いのこと」</p>



<p>「あ、ああ。いいのか」</p>



<p>「いいも何も、あなたが言ったんですよ」</p>



<p>「てっきり断られるかと思ってな……」</p>



<p>「しませんよ。大切な刀剣からのお願いを」</p>



<p>「そうか」</p>



<p>　気まずそうに頬をかく日本号さんを見て、わたしはまた、知らなかった一面に微笑んだのだった。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>たぬきの遁走</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%9f%e3%81%ac%e3%81%8d%e3%81%ae%e9%81%81%e8%b5%b0/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 05 Dec 2024 12:24:39 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[それはもう見事な勢いで]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　同田貫正国と喧嘩をした。</p>



<p>「……いつまで不貞腐れているんだい」</p>



<p>　初期刀兼近侍である歌仙が、机の上に突っ伏したままの私を一瞥してため息まじりに言った。</p>



<p>「不貞腐れてないし」</p>



<p>　そう、別になんとも思ってないのである。たぬきと喧嘩するのはこれが初めてではないし、なんならしょっちゅうだ。だから、別に、なんてことないのだ。</p>



<p>「なら仕事を進められるね。さ、起きて」</p>



<p>「……まだそのときじゃない」</p>



<p>「君ね……」</p>



<p>　歌仙は呆れ返ったらしく、それ以上何も言わずに自分の仕事に取り掛かった。残された私は一人逡巡する。</p>



<p>　今日のだって、悪いのは私じゃない。たぬきだ。せっかく私が、最近出陣続きだったから休ませてあげようと思って部隊から外したのに、たぬきは「余計なことすんな」って怒り始めたのだ。</p>



<p>　不満を言うだけなら、まだ分かる。たぬきは戦が好きで、戦うことが刀の本分だと思ってるから。でも、「余計なこと」ってなにさ。最近のたぬきはほんとうに出ずっぱりで、出陣だけじゃなく遠征も進んで行くものだから、金属に疲労骨折があるみたいにいつか折れるんじゃないか、って、本気で心配したんだ。それを余計なことって怒って、私の――審神者の、気持ち。全然考えてない。私は誰にも折れてほしくないのに！</p>



<p>「ひとつ言うことがあるとすれば」</p>



<p>　それまで黙っていた歌仙が不意に言葉を投げかける。視線はそのまま、でも口調はずいぶん柔らかいように感じた。</p>



<p>「君が『たぬき』と呼ぶことを、もう少し深く考えてもいいかもしれないね」</p>



<p>「は……？」</p>



<p>　どういう意味、と聞き返そうと思ったそのとき、廊下からどたどたと忙しない足音が聞こえてきた。</p>



<p>「おいっ！」</p>



<p>「……なに」</p>



<p>　顔をあげなくても誰だか分かる。わざとらしく顔を背けると、そいつはすぱんと障子を開けて苛立たしげに私のそばに寄ってきた。</p>



<p>「俺を戦に出せよ」</p>



<p>「……たぬき。何回同じ話すれば気が済むのさ。しばらく休みっつったでしょ」</p>



<p>　仕方がないので顔を上げると、さっき言い争ったときと同じ顰め面がそこにあった。</p>



<p>「こんなに休んでいられっかよ！　今すぐ出陣させろ！」</p>



<p>「休むのも仕事のうちだって言った！　働きすぎて倒れられたらこっちが困るの！」</p>



<p>「こんな程度で俺が倒れっか！　手前ェの武器も信じられねえのかよ！」</p>



<p>「……信じてないわけじゃない！」</p>



<p>　信じてる。</p>



<p>　むしろ、信じすぎて涙が出てくるほどに。</p>



<p>「お、おい――」</p>



<p>「何を、そんなに焦ってるの……？」</p>



<p>　滲んだ涙を乱暴にぬぐい、思わず立ち上がる。</p>



<p>「たぬきに私の気持ちなんかわかんないよ！」</p>



<p>「……ちっ、ああ！　分からねえよ！　俺にゃ女の機微も分からねえし、華々しい見目があるわけでもねえ！　あんたに認めてもらうには、武勲を立てるしかねえんだよ俺には！！」</p>



<p>「…………え？」</p>



<p>「…………あ、」</p>



<p>「ねえ、たぬき今の――って早ぁ！　どこ行くの！！」</p>



<p>「うるせーーしらねーー！！　ああーーーー！！」</p>



<p>「待ってってばあー！！」</p>



<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>



<p>　一振り残された歌仙は主たちの後ろ姿を見送って、小さく笑った。</p>



<p>（『たぬき』ねえ……）</p>



<p>　他の刀にそう呼ばれたときの同田貫正国の反応を言って聞かせたら、主はどんな顔をするのだろうと思うと今から心が踊るのだった。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<title>この後お互い自覚する</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%93%e3%81%ae%e5%be%8c%e3%81%8a%e4%ba%92%e3%81%84%e8%87%aa%e8%a6%9a%e3%81%99%e3%82%8b/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 21 Jun 2024 11:19:08 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[他の誰でもない、あなたが。／ほのぼの]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>　主のことが苦手だった。よく喋り、よく笑い、誰とでも分け隔てなく明るく接するその姿はまるで太陽のようであり、写しという影を背負う俺にとっては焼け付くように眩しかった。<br />
　そんな彼女が、なぜ俺のような刀を初期刀に選んだのかがずっと分からなかった。<br />
　彼女は花が好きだから、風流を愛する歌仙兼定と気が合うだろう。着飾ることも好きだから加州清光とも仲良くなれるだろうし、話好きでよく喋るなら陸奥守吉行とも、美しく輝く太陽ならそれこそ蜂須賀虎徹も。<br />
　考えれば考えるほどに、主が俺を選んだ理由が見当たらない。……尋ねる勇気など、もちろんない。そんな後ろ暗いものを抱えながら、ずるずると月日だけを重ねてきてしまった。</p>
<p>「僕は分かるけどなぁ、兄弟を選んだ理由」</p>
<p>　ぱん、と洗濯物を広げながら堀川国広が言う。兄弟刀の言葉であるのに信じることができず、俺は洗濯籠を抱えたまま動けなくなった。</p>
<p>「……思い違いじゃないのか」</p>
<p>「兄弟が難しく考え過ぎなだけだよ」</p>
<p>　籠を抱えたまま足踏みすらままならない俺とは対照的に、兄弟は手際良く物干しに洗濯物を並べていく。その奥には、やはり手際よく長身を活かして敷布を並べるもう一振りの兄弟が見えた。<br />
　二振りの兄弟は、いつだって前を向いて歩いている。一つの物事に囚われている俺とは、違う。</p>
<p>「あ、主さんだ」</p>
<p>　主、の言葉に身をすくめた。背後からぱたぱたという軽い足音がするが、俺は振り返ることができなかった。</p>
<p>「ふたりともお疲れ様！　まだかかりそう？」</p>
<p>「この籠で終わりですよ。もしかして兄弟に用事ですか？」</p>
<p>「うん！　ちょっとだけいいかな？」</p>
<p>　ひょいと主が顔を覗き込む。反射的に逸らしてしまう自分にまた嫌気がさした。</p>
<p>「……兄弟、あとは頼んでいいか」</p>
<p>「はいはーい！　任せて！」</p>
<p>　兄弟はひょいと籠を受け取ると、さっさとその場を後にしてしまう。いくらなんでも露骨すぎないかと恨めしくもなるが、仕事は仕事だと割り切って、ようやく主に向き合った。</p>
<p>「それで、用事とはなんだ？」</p>
<p>「えっと」</p>
<p>　すると今度は主の視線が下がちになり、なぜか言い淀んでいた。</p>
<p>「どうしたんだ、頼みづらいことか？」</p>
<p>「頼みづらい……と言えば、そうなんだけど」</p>
<p>　これは、おそらく初期刀として長く彼女とともにいるが故に知ったことだ。普段は闊達な主だが、ここぞという時の判断や、誰かに何かを頼むときなどに迷いが出る癖がある。<br />
　俺からすればこの本丸で主の決定に不満を漏らすものなどいないと断じることができるが、彼女にとってはそうではないらしい。そんなときに声をかけられるのは、俺……初期刀だった。</p>
<p>「……この本丸で、あんたに頼まれて困るやつはいない。遠慮せず話せ」</p>
<p>「それは、山姥切も？」</p>
<p>　下がちだった視線が俺に向く。今度は不思議と逸さなかった。</p>
<p>「ああ。あんたの、初期刀だからな」</p>
<p>　写しだとしても。兄弟たちと違っても。初期刀として選ばれた事実は揺るがない。<br />
　その期待を裏切りたくはない。――ああ、そうか。<br />
　俺は彼女が苦手なのではなく、彼女に失望されるのが何よりも恐ろしい。</p>
<p>「……そっか」</p>
<p>　すると彼女はふっと表情を緩め、あのねと切り出した。</p>
<p>「私ね、山姥切のそういうところが好きなんだ」</p>
<p>「……は？」</p>
<p>「ほんとはさ、私、すごい臆病で、人見知りで……でもみんなの主だから、そういうの表に出さないようにしてて。だけど、山姥切はそういうところもひっくるめて見てくれるから、つい緩んじゃうんだ」</p>
<p>　いつもありがとう、と、彼女は笑った。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　この時ようやく、俺は兄弟刀の言葉の意味を理解した。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「……主の背中を押すのは、初期刀の役目だからな。それで？　何か頼みたいことがあるんだろう」</p>
<p>「あ、そだね。えっと……今度の審神者会議で着ていく服を、一緒に買いに行って欲しくて」</p>
<p>「護衛か。分かった」</p>
<p>「それもあるけど、えっと……い、一緒に選んでくれたらいいなって！」</p>
<p>「は！？　お、俺にそんなの期待するな！　女の洒落っ気なんて知るか！」</p>
<p>「でっでも山姥切の好みとか知りたいから」</p>
<p>「は？」</p>
<p>「あ」</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「おお兄弟！　あちらの様子はどうであろうな！」</p>
<p>「当分かかるんじゃない？　兄弟なんて自覚すらしてないもん」</p>
<p>「カッカッカ！　どちらも奥手であるからなぁ！」</p>
<p>「見てるこっちがやきもきしちゃうよね、まったく。……だからこそ、似た者同士なんだろうけど」</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<title>つかまった</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%a4%e3%81%8b%e3%81%be%e3%81%a3%e3%81%9f/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 28 Dec 2023 14:02:57 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[笹貫と二度目の冬の一コマ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「寒いの、もう慣れた？」</p>
<p>　庭の雪かきを終えて執務室に戻ると、おかえりの後にそんなことを言われた。<br />
　そういえば、オレが顕現して二度目の冬になる。初めて冬を迎えたあのときは、人の身を得たばかりということもあって驚きの連続だった。身を刺すような冷たさ、という慣用句があるのは知識として知ってはいたが、実際に体験すると読んで字の如くとはこのことかと思わない日はなかった。その様子を見た主にはずいぶんと笑われ、「笹貫はかわいいね」なーんて言葉を頂戴したものだ。</p>
<p>「慣れたよ、残念ながら」</p>
<p>「そう？　じゃあ火鉢はいらない？」</p>
<p>「……それとこれとは話が違うんじゃない？」</p>
<p>「ふふ、冗談。今火を強くするから」</p>
<p>　あと体が温まるお茶も淹れようね、と主はふたり分の湯呑みを用意してくれた。<br />
　なんか、敵わないんだよなぁ。<br />
　火鉢のそばに寄りつつ、てきぱきとお茶を淹れる主を眺めながらぼんやりと思う。主とはこんな軽口をよく言い合うが、オレが勝った覚えはあまりない。数多くの男士を束ねる一国一城の主ともなれば、こうも肝が座るというのか。<br />
　……惚れた弱み、というなら、もうどうしようもないけどさ。</p>
<p>「はい、笹貫」</p>
<p>「ん、ありがと……あっつ」</p>
<p>「大丈夫？　火傷した？」</p>
<p>「へーき。心配し過ぎだって」</p>
<p>「えーだってさ、顕現したばっかりのとき……」</p>
<p>「もう、その話はいいでしょ」</p>
<p>　去年オレが初めての冬を迎えたとき、冷えた手で湯呑みを持って、その熱さに驚いて湯呑みを落として火傷した事件がある。だって知らなかったんだ、冷えきった手で温かいものを触るとあんなに熱く感じるなんて。<br />
　拗ねるオレとは対照に、主はくすくすと笑った。</p>
<p>「笹貫はかわいいねぇ」</p>
<p>「……何回言うの、それ」</p>
<p>　顕現したての頃から言われ続けているそれに、むっと顔をしかめると主はごめんと言いながらも口元を緩めている。<br />
　オレからしちゃ、可愛いのは主のほうでオレじゃないんだけど。そう伝えたこともあるけど、というか何度も言ってみてはいるけど、主はそんなことないよと言ってマトモに取り合ってくれないのだ。<br />
　長船派に口説かれ慣れているのかも、と思うと胸の奥がずくりと疼く。オレはまだまだ新参者で、主からしたら数ある男士のうちの一振りでしかないのだろう。それでも近侍をやらせてくれるのは、オレがただ強請っただけで。<br />
　いつになったら、オレは意識してもらえるのかな。</p>
<p>「……ね、主」</p>
<p>「ん？」</p>
<p>　主が、オレのことを可愛いなんて言うのなら。</p>
<p>「やっぱ、まだ冷えてるみたいだからさ……あっためて？」</p>
<p>　なんて言いながら、主の手を両手で握る。<br />
　我ながらなんてわざとらしいと思ったが、主が思う『笹貫』がそうであれと思うなら、道具のオレはそのとおりになってやろう。<br />
　焦って飛び込まず、はオレの信条だ。</p>
<p>「……仕方ないなぁ」</p>
<p>　やっぱり、主はなんでもないというふうに握った手に自身のそれを重ねて来た。まるで短刀たちにするようなやり取りだな、と思いながらふと顔を上げると。</p>
<p>「……あるじ？」</p>
<p>「なっなに？」</p>
<p>　驚いた。<br />
　顔が赤くなっている。</p>
<p>「へえ」</p>
<p>　いたずら心が降って湧く。重ねただけの手をほんの少し動かして、するりするりと主の手の甲を撫でさすった。</p>
<p>「な、なにいきなり」</p>
<p>「んー？　主は可愛いなーって？」</p>
<p>「ちがう、私は別に」</p>
<p>「ま、そうしとこっか。……今のところはね」</p>
<p>　指を絡めるように繋いでみせて、小さく上がった悲鳴に自然と口角が上がったのだった。</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>Oar</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/oar/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 19 Oct 2023 12:27:41 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[あなたはなおも、語るでせう]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>　”ポッカリ月が出ましたら、船を浮かべて出掛けませう。”</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「ありがとね、俺のワガママ聞いてくれてっ！」</p>
<p>「滅多にない八丁くんの頼みだもん、聞いてあげなくちゃ」</p>
<p>「やっさしー！　俺、雇い主が雇い主でホント良かったっ」</p>
<p>「私も、八丁くんがうちにきてくれてほんとに良かったよ」</p>
<p>「……うん」</p>
<p>　不意に雲の切れ間から、満月が顔を覗かせる。光は湖面を反射して、ヒタヒタ波打つ音と共に沈黙を埋めた。<br />
　けれども俺は、櫂を漕ぐ手は止めないで、水を跳ね上げ舟を漕ぐ。</p>
<p>「遠くまで来ちゃったね」</p>
<p>　彼女の言葉に、そうだねと笑って返した。大げさすぎるくらいに、笑って、笑って。</p>
<p>「俺、もしかしたら怒られちゃうかもっ」</p>
<p>「えっ、そうなの？　悪いことしちゃった？」</p>
<p>「ぜーんぜん！　だって俺が頼み込んだことだしっ？」</p>
<p>「でも、」</p>
<p>「いーの、いーの！　雇い主はなーんにも気にしないで」</p>
<p>「……ごめんね」</p>
<p>　櫂を漕ぐ手が、止まりそうになる。<br />
　震えている気もした。何が？　――俺自身が。<br />
　だけど、今この手を止めるわけにはいかなかった。</p>
<p>「じゃあ、さ……」</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　”櫂から滴る水の音は、<ruby><rb>昵懇</rb><rp>（</rp><rt>ちか</rt><rp>）</rp></ruby>しいものに聞こえませう。”</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「……なに？」</p>
<p>「ん、やっぱりなんでもないっ」</p>
<p>「そう言われると気になっちゃうよ」</p>
<p>「ごめんごめん。……雇い主はさ、優しいからさぁ」</p>
<p>　月が聞いている気がして、なんだか落ち着かなかった。</p>
<p>「コレ言ったら、多分……戻れなくなっちゃうから」</p>
<p>「……私が？」</p>
<p>「ううん。俺が」</p>
<p>　由無し事。詮無い話。とりとめもない。<br />
　水の飛沫に乗って解けていく。</p>
<p>「もし」</p>
<p>　ぱしゃん、と一際大きな飛沫があがる。</p>
<p>「もし、私が引き止めたら」</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>”――けれど漕ぐ手はやめないで。”</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「ダメだよ、雇い主」</p>
<p>　口許には笑みさえ携えて。</p>
<p>「雇い主は、みんなの雇い主だから。俺だけのものにしちゃいけないのっ！」</p>
<p>「……八丁くん、」</p>
<p>「いいんだよ、これで」</p>
<p>「もっと早く出会っていたなら」</p>
<p>「仕方なーい、仕方なーい」</p>
<p>「八丁くん、私、」</p>
<p>「雇い主」</p>
<p>　ついに漕ぐ手を止めて。<br />
　波の流されるまま、小舟は桟橋へ寄り付いた。</p>
<p>「ここから先は俺は行けないから」</p>
<p>「ごめん、ごめんね」</p>
<p>「あやまんないでよ、俺のワガママ聞いてくれた優しい雇い主っ！」</p>
<p>「ちがう、やさしくなんてないよ、わたしだって八丁くんと」</p>
<p>「拗ねる雇い主もカワイイけどさ、俺やっぱ、笑ってる雇い主のほうが好き、かもっ？」</p>
<p>　なんて。おどけたようにしか出せない言葉が、ひどく俺を突き刺した。</p>
<p>「……ありがとう、八丁くん」</p>
<p>「そーそー！　そうに言われたほうが、だんぜん嬉しいっ！」</p>
<p>「ありがとう……」</p>
<p>　そう言って、彼女はゆっくりと立ち上がった。</p>
<p>「ここまで連れてきてくれて、ありがとう。行くね」</p>
<p>「ん。気をつけて」</p>
<p>「気をつける、こと、あるのかなぁ」</p>
<p>「わかんないっ！　でも、案外楽しいトコロかもよ？」</p>
<p>「……八丁くんがそう言うなら、そうなのかもね」</p>
<p>　だって優しい、私の神様だからね。</p>
<p>　最後に彼女はそう告げて、小舟を降りてその先へと踏み出した。辺りは白い霧が立ち込めていて、俺からはなにも見えない。だけど、彼女にはきっと見えているのだろう。</p>
<p>　彼岸の景色はどんな色をしているんだろう。</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>「おいっ！！　八丁念仏！！　いつまで寝ているつもりだ！！」</p>
<p>　同室の古備前の兄さん――大包平兄さんの怒声で俺は跳ね起きた。</p>
<p>「え、今何時……」</p>
<p>「朝餉の時間はとっくに過ぎている。しかもお前、これから遠征だろう」</p>
<p>　その一言で、さっと顔が青ざめた。</p>
<p>「やばやばじゃんっ！！　え、なんか残ってるかな！？」</p>
<p>「知らん！　とっとと厨に行って聞け！」</p>
<p>「うわーん！　優しくなーーいっ！！」</p>
<p>「拗ねる暇があったらとっとと準備をせんか馬鹿者！！」</p>
<p>　兄さんの声を背中に転がるように布団から出て、身支度を整えると大急ぎで厨まで走っていく。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　今でも思うんだ。彼女を送ったのが俺なんかで良かったのかな、って。<br />
　でも、最後に笑った彼女の顔を思い出すと、やっぱり誰にも譲りたくなかったな。</p>
<p>　本丸は新しい審神者を迎えて、新しい歴史を歩みだす。<br />
　俺はまだまだそっちへは行けそうにないけれど、もし行くことができたなら、そのときは、言えなかったことを今度こそ言おうと思う。</p>
<div style="height:50px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>”われら<ruby><rb>接唇</rb><rp>（</rp><rt>くちづけ</rt><rp>）</rp></ruby>する時に　月は頭上にあるでせう。”</p>
<div style="height:100px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>引用　中原中也／湖上</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>稲葉江と不健全する</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e7%a8%b2%e8%91%89%e6%b1%9f%e3%81%a8%e4%b8%8d%e5%81%a5%e5%85%a8%e3%81%99%e3%82%8b/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Mon, 14 Aug 2023 12:58:05 +0000</pubDate>
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					<description><![CDATA[不健全するといいつつ全年齢です。内容はふつう]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「わたしと不健全をしましょう」</p>
<p>　唐突、としか言いようのないひと言だった。迫る提出期限の書類を必死で纏めているさなか、日没まであとひと息という時間に主が顔を上げたかと思うとそんなことを宣ったので、我は瞠目し言葉を失った。<br />
　しかしその言葉を発した当の主はいかにも真面目くさった面持ちで我に視線を寄越している。眉間に皺、唇は尖り、不健全というよりは不機嫌である。</p>
<p>「……具体的は、何を」</p>
<p>　ため息まじりに反応を伺う。真意が何処にあるか分からぬうちは下手に刺激するものではない。すると主はぱっと表情を変え、ふふふと笑った。</p>
<p>「これから現世に行きます」</p>
<p>「……それで？」</p>
<p>「え」</p>
<p>「現世に行って、何をするのだ」</p>
<p>　その先を促すと、何故か主はあーとかうーとか唸っていた。</p>
<p>「え、っと。稲葉さん、止めないんですか？」</p>
<p>「止めてほしいのなら羽交い締めにしても止めるが」</p>
<p>「そ、そうではなく！　ええっと……近侍なのに、書類放り出して遊びに行こうなんていう主、ふつう止めません？」</p>
<p>　それは尤もな言葉だと言える。<br />
　――しかし。</p>
<p>「別の意図があるのだろう」</p>
<p>　息を呑む音がした。</p>
<p>「『普通』、お前はそんなことを言わない」</p>
<p>　真っ直ぐに。主を見つめる。彼女もまた、真っ直ぐ我を見つめたまま動かなかった。その表情は、まるで迷子の子供のようだった。</p>
<p>「支度しろ」</p>
<p>「え、」</p>
<p>「お前が言い出したのだろう。不健全とやらをするのだと」</p>
<p>　立ち上がって上着を羽織ると、主も慌てて「着替えてきます！」と執務室を出ていった。</p>
<div style="height:200px" aria-hidden="true" class="wp-block-spacer"></div>
<p>　雑踏、喧騒。現世の夜はどこを歩いても人ばかりで、星も見えぬほど煌々と明かりが灯っている。任務で何度か訪れたことがあるとはいえ未だ慣れぬ光景のなかを、主は勝手知ったる様子で人混みをかき分けていた。生まれ育った街なのだ、と以前に聞いたことがある。</p>
<p>「遅くまでやってる喫茶店があるんです。そこに行きましょう」</p>
<p>　そう言って主――いや、彼女は笑っていた。<br />
　大通りを抜けて幾つか角を曲がると、薄暗い路地の中にぼんやりとした照明が見えた。一見するとただの民家に見えなくもないが、ガラス張りの大窓に店名らしき名前と、奥にカウンターとテーブルが幾つか並んでいるのが見えた。先頭を歩く彼女は古めかしいドアに手をかけ、取っ手を引くとベルがからんと鳴った。</p>
<p>「いらっしゃいませ、お二人ですか」</p>
<p>　お好きな席へどうぞ、と店主らしき壮年の男性がカウンター越しに声をかけた。我らのほかに客はない。ちらと彼女に視線を寄越すと、彼女はテーブル席を選んだようだった。</p>
<p>「ここね、好きなお店なんです。現世に戻るとつい寄っちゃうの」</p>
<p>　配られた手拭きを両手で持ちながら彼女は笑う。</p>
<p>「稲葉さん、なにがいいですか？　コーヒーとか飲むっけ。ここのコーヒー美味しいですよ」</p>
<p>「長船派に勧められてからは飲む機会は多い。……が、今飲むと眠れなくなるだろう」</p>
<p>「いいんですよ、不健全なんですから」</p>
<p>「……なるほどな」</p>
<p>「あ、今ちょっと笑いましたね。いいでしょう不健全」</p>
<p>「笑っていない」</p>
<p>「意固地だなあ」</p>
<p>　そんなやり取りを繰り返し、結局彼女の勧められるままブレンドコーヒーと、彼女の気に入りであるというガトーショコラを注文した。ほどなくして品がやってくると、確かにどれも美味かった。</p>
<p>「……美味い」</p>
<p>「でしょう？　ここのガトーショコラ好きなんです。あ、みっちゃんが作ってくれるやつももちろん好きなんだけど、みんなに作る用のものだからまた味わいが違うというか」</p>
<p>「ああ、それは分かるな。こちらの品はコーヒーに合うよう作られていると感じる」</p>
<p>「さすが稲葉さん。それです」</p>
<p>　あははと笑って、彼女もまたコーヒーを飲んでほうとため息をついた。<br />
　――その笑顔の裏にある感情を、ずっと隠したまま。</p>
<p>「いい加減、白状したらどうだ」</p>
<p>　カチャ、とカップがソーサーに触れる。</p>
<p>「……なんで分かるのかなあ」</p>
<p>「お前が分かりやすいからだ」</p>
<p>「そんなことない。だって……」</p>
<p>　視線が下へ下へ、下がっていく。</p>
<p>「分かりづらい、って言われたの」</p>
<p>「誰に」</p>
<p>「昔、付き合ってた、ひと」</p>
<p>　まるで、</p>
<p>「笑ってばっかで全然自分のこと話さないって、何考えてるか分かんないって、それで……」</p>
<p>　コーヒーの、上澄みだけを飲み込んでいるようだった。</p>
<p>「あの書類の中に名前があったか」</p>
<p>　彼女はぎくりと肩を跳ね上げ、それから恐る恐る我を見た。</p>
<p>「な、なんで……」</p>
<p>「見ていたら、分かる」</p>
<p>　執務室での作業は集中してやっていた。期限こそ近かったが、順当にやっていれば明日には終わるだろう進み具合だった。だが、ある一枚の紙を手にしたときから彼女の顔色が変わった。あれは葉書だ。おそらくは――結婚式の案内。積み上がった書類に紛れてしまったのだろう。<br />
　包み隠さず考えを述べると、彼女はそれまで取り繕っていた笑顔をやめ、肘をテーブルについて項垂れた。</p>
<p>「は、はは……そのとおりだよ。すごいね、稲葉さんは……」</p>
<p>　ぽたり、と。テーブルの上に雫が落ちる。</p>
<p>「何年も、前だよ。何年も前のこと。なのに、ああやって、名前見て、こんなぐちゃぐちゃになってるの。ばかみたいだよね。ほんと……」</p>
<p>　雫はいくつもテーブルに落ちていく。</p>
<p>「ごめんね、こんなことに付き合わせちゃって……ほんとにごめ」</p>
<p>「何故謝る」</p>
<p>　我の放った一言は、彼女の顔を上げさせるのに十分だったようだ。彼女は驚いた様子で我を見る。</p>
<p>「気に入らぬなら着いて来てはいない」</p>
<p>「で、も。主命、とか」</p>
<p>「断れぬ主命を押し付けるような主ではないだろう」</p>
<p>「そ、うだけど……っていうか、稲葉さんほんとによくわたしのこと見てるね……」</p>
<p>「当たり前だろう。他ならぬお前のことだ」</p>
<p>「そ、か……そっか。ありがとう……」</p>
<p>　彼女は目元を何度か拭うと、ようやく背筋を伸ばして笑った。</p>
<p>「ありがとう、稲葉さん。ちょっとだけ気が晴れたよ」</p>
<p>　その笑顔は、本丸で見ているものと同じだった。屈託なく、柔らかく、それでいてどこまでも、</p>
<p>「勘違いをしていないか」</p>
<p>「え？」</p>
<p>　コーヒーのカップに口をつける。少し冷めた苦味が口の中に広がり、嚥下すると頭が冴えた。</p>
<p>「他ならぬお前のことだと、我は言ったな」</p>
<p>「うん……それは、」</p>
<p>「主ではなく。お前だからだと。我は言っている」</p>
<p>　一つ一つ。言い聞かせるように。『彼女』に言葉を投げかけてやると大きく瞳を見開いた後に頬を紅潮させた。</p>
<p>「そ、そそ、それ」</p>
<p>「ただの臣下がここまですると思うか？　この稲葉江が？」</p>
<p>「え、と」</p>
<p>「我はあの葉書を切り刻んでやりたい」</p>
<p>「ひ、ひえ……」</p>
<p>「それから、お前の心をかき乱すその男も」</p>
<p>「それは色々とだめだって！」</p>
<p>「ならば覚悟しておけよ」</p>
<p>「なに、を」</p>
<p>　コーヒーの最後の一滴まで飲み込むと、我は彼女の目を見据えた。</p>
<p>「これから我に口説かれることをだ」</p>
]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>うつくしいかたな</title>
		<link>https://swingswing.echo.jp/works/%e3%81%86%e3%81%a4%e3%81%8f%e3%81%97%e3%81%84%e3%81%8b%e3%81%9f%e3%81%aa/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[ngr]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 28 Jul 2023 08:36:31 +0000</pubDate>
				<guid isPermaLink="false">https://swingswing.echo.jp/?post_type=works&#038;p=1547</guid>

					<description><![CDATA[とある本丸の初期刀のお話]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>　重たい足をなんとか引きずり、一つひとつ確かめるように呼吸をする。血を流し過ぎたせいか視界が悪く、頭も酷く痛んでいる。<br />
　初期刀として、この本丸に顕現して。<br />
　第一部隊の隊長を務めて。<br />
　増えていく仲間たちを自然と纏める役になり、近侍もいつからか固定になって、主の信頼も最も厚いと自負できるようになった。</p>
<p>　そう、思っていたのに。</p>
<p>「……はぁ、っく、」</p>
<p>　なんとか自室へたどり着くと、戦装束を脱ぐこともせず畳に両足を投げ出した。ズキズキと痛む腹を抑えながら目を閉じると、浮かんでくるのは先の戦。<br />
　部隊を率いての敗北は、初めてだった。慣れた場所での出陣で、隊員たちも何度も指揮しているものたちばかりだった。検非違使の相手だって初めてじゃない。それなのに、なのに、俺が、たった一撃、槍の刺突を食らい、そこから、確実に指揮が乱れた。<br />
　ぎゅ、と奥歯を噛みしめる。<br />
　俺は虎徹の真作だ。いつだって強く、美しくあらねばならない。それが俺の、虎徹の矜持だ。いついかなるときでもそれを怠ってはならない。今回招いたこの結果は、間違いなく、俺の慢心だ。</p>
<p>「……蜂須賀さん」</p>
<p>　ぎくりと肩が跳ねた。障子戸の向こうから主の声がする。その声はとても心配そうで、悲しそうで、俺は無理やり声を張った。</p>
<p>「主、すまなかった。俺のせいで部隊のみんなを危険にさらして……手入れは、順調に進んでいるかな」</p>
<p>「蜂須賀さん。入ってもいいですか」</p>
<p>　喉の奥が詰まった。<br />
　こんなみっともない姿を主に見せたくはなかった。<br />
　だが主は俺の返事を待たずに戸を開ける。</p>
<p>「……ひどい傷」</p>
<p>　うろたえる俺をよそに、主は眉をひそめて辛そうに、俺の腹の傷に手をやった。</p>
<p>「主、大丈夫だ、手を汚してしまうよ」</p>
<p>　主は静かに首を振った。</p>
<p>「回復したみんなから聞きました。蜂須賀さんが殿を務めてくれたと」</p>
<p>「……撤退戦において、殿は最も戦慣れしているものが担うんだ。俺は当たり前のことをしたまでだよ」</p>
<p>　吐き気がした。そんなものはただの建前だ。自分のせいで招いた結果を、自分で後始末をつけたに過ぎない。責任を取っただけなんだ。</p>
<p>「だけど」</p>
<p>　主の視線が俺に向く。ひそめられていた眉はゆるく弧を描き、口元には笑みを浮かべていた。</p>
<p>「やっぱりあなたは美しい刀だと、改めて思いました」</p>
<p>「は、……」</p>
<p>「みんなを逃してくれて、ぼろぼろになるまで戦ってくれて、……手入れさえ先に譲って、本当に、あなたは美しい刀です」</p>
<p>　主の手が、傷から、俺の手に移る。細い指先が手の甲をなぞり、やがてしかと握り込んだ。</p>
<p>「あなたは、私の誇りです。蜂須賀さん」</p>
<p>　――ああ、そうか。<br />
　なぜ自分がこれほどまでに動揺したのか。<br />
　なぜ、自分の姿を見られたくないと思ったのか。</p>
<p>　主に、『美しくない』と言われるのが怖かった。</p>
<p>「手入れ部屋が空きましたよ。行きましょう。立てますか？」</p>
<p>「……ああ」</p>
<p>　俺は柔らかい手に掴まって、細い肩を借り、主と寄り添いながらゆっくりと歩き出した。</p>
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