文章

よく分からなくて、

すずらん中学校に通う佐々木まぐろくんなる男子は、まっことよく分からない性格をしている。 まず、何を考えているのか分からない。というのは、彼は前髪で目を覆っているから表情が読みにくいってのと、常におどけたような、語尾に「★」がつきそうな喋り…

きみとふたりで

きっかけは本当に、ただ隣になったからという些細なものだった。その時ボクは深く考えていなくて、所在なさそうにしていた彼女が気の毒だったから声をかけた。名前を知っていたのは、クラスメイトの名前は全員覚えるようにしていただけ。ボクは他人と深く付き…

あなたのとなり

ふと気がつくと、教室内は薄暗くなっていた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。起き上がって、ぼんやりする視界を正すために目をこすった。そして目を疑う。わたしの席に、佐々木くんが座っている。「起きた?」驚きで声が出せなかった。と同時に、肩に…

あなたへの思い

「最近、佐々木君とよく話してるよね」お昼、お弁当を食べていたとき。一緒にいた友達にそう言われ、わたしは箸を落としそうになった。「え、そ、そうかな」「そうだよ!なになに、ようやくもその気になったわけ?」友達はわたしの反応を楽しんでいるようで、…

あなたと友達

次の日の学校は、とても緊張した。佐々木くんはそういうことを気にする人じゃない、というのはこれまでの会話から分かっていることだけど、わたし自身がどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。あの後逃げるように立ち去ったことも災いしている。気にし…

あなたとの違い

学校に向かうのが楽しみになっていることに気づいた。それまで楽しくなかったわけでないけど、今にして思うと、どこかなんとなくで過ごしていたような気がする。佐々木くんと話すようになって、そのなんとなく過ごしていた日常が色づき始めた。――相変わらず…

あなたと本

朝、学校について自分の席に向かうと、すでに佐々木くんがいて、さっそくおはようと声をかけてくれた。まだ緊張はするけど、わたしもおはようと返事をした。「そうそう、一時間目は自習だって★だから朝礼もナシ」「そうなんだ。教えてくれてありがとう」「い…

あなたのとなり

黒板に机と同じ数のマス目がかかれ、その中へランダムに数字を入れる。その数字と、ひとりずつ引いたくじの番号と同じところが新しい席、ということになっていた。わたしのクラスは男女の割合がほぼ半々なので、先生の「お前ら青春しろよ!」という妙な計らい…

あなたが見えない

最初は、不思議なことがあるな、としか、思わなかった。個性的な生徒が集まるこのすずらん中学校のなかで、わたしはあまり目立たないほうだった。別に目立ちたいとも思わないし、友人にも恵まれているので、さほど気にしてはいなかった。それよりも気になるこ…

白色絵本

あるところに、とても仲のいい女の子と男の子がいました。二人はいつも一緒で、遊ぶときも一緒でした。ずっと、二人は一緒にいると思っていました。けれどある日、女の子が引っ越すことになってしまいました。男の子はたくさん泣いていました。女の子は、一生…

「 」

「私、待ってたのかもしれないなあ」お姉さんに、新刊が出版されたから、と呼ばれて部屋に行くと、そんなことを言われた。「待ってた、って、何をです?」「いやさ、私が参ってたとき。鍵開けっ放しだったでしょ」「そういえばそうですね★」「誰かが来るの、…

伝える想い

「締め切り間に合った~!」という、お姉さんの元気のいい声を聞いてから、どのくらい経っただろうか。そろそろ出版したって話が出てきてもいいと思うんだけど、お姉さんから一向にその話が聞けない。それどころか、お姉さんは段々と元気をなくしていった。声…