「 」
「私、待ってたのかもしれないなあ」お姉さんに、新刊が出版されたから、と呼ばれて部屋に行くと、そんなことを言われた。「待ってた、って、何をです?」「いやさ、私が参ってたとき。鍵開けっ放しだったでしょ」「そういえばそうですね★」「誰かが来るの、…
白色絵本
伝える想い
「締め切り間に合った~!」という、お姉さんの元気のいい声を聞いてから、どのくらい経っただろうか。そろそろ出版したって話が出てきてもいいと思うんだけど、お姉さんから一向にその話が聞けない。それどころか、お姉さんは段々と元気をなくしていった。声…
白色絵本
僅かな一歩
今日は回り道をして帰ることにした。昨日のことをまだ引きずっているなんて情けないことだけど、こんなモヤモヤを抱えたまま、お姉さんに会えない。こういうところが、まだ子供なんだろうな。あの男の人とお姉さんとは、何も無いって分かっているのに。お姉さ…
白色絵本
名前と距離
お姉さんが、締め切りが近くてご飯を食べる暇も無い、と言っていたので、ボクは夕飯を多めに作って、差し入れに行くことにした。ちょうど鯖が安く仕入れられたので、味噌煮にして鍋ごと持っていく。確かお姉さんは、魚料理では煮魚が好きって言っていたから、…
白色絵本
憧れの向こう
すずらん商店街のわき道を通り、一つ目の角を曲がったところ。そこには古いアパートがあって、小さいころから仲良くしてもらってる、お姉さんが住んでいる。年は5つほど上で、名前はさん。今は児童書の作家をしている。ぜ~んぜん売れないけど、というのは本…
白色絵本
魅惑の視線
恋をするって空から魔法が降ってくるようだ、と誰かが言ってたけれど。「本当にその通りなんだなあ……」誰もいない教室で、窓の外を頬杖ついて眺めながら独りごちた。外は夕方に差し掛かるころ、男子サッカー部が活動している。もうすぐ終わるのだろう、グラ…
ぷよぷよ短編まぐろ
堂々巡り
プリサイス博物館の図書室で、泣いている女が一人いる。 声はあげず、時々鼻をすする音だけが、室内に響いている。外は天気が悪いからか、利用者は女の他に誰もいない。「どうして私じゃないんだろうねえ」その言葉は私に向けられたものではない。「あいつ…
ぷよぷよ短編※,あやしいクルーク
雨がくれた距離
私はカーテンの裾を握りしめながら、無慈悲に振りしきる雨を睨みつけていた。二階の窓から見える景色は、灰色に濁った雲と勢いよく地面を打つ雨で、陰鬱な気分をさらに落としこんでいく。 今日この日をどれほど待ちわびたと思っているのか。昨日は早起きす…
ぷよぷよ短編まぐろ
冬の陽
薄赤い太陽が、その姿を街並み際に寄せて沈みつつある冬空。 私は白い息をつきながら、コンビニに向かっていた。特に何か理由があったわけじゃないが、下校中、このまま家に帰るのはなんとなく勿体無い気がしたので、思いつきでただ寄ってみた。横断歩道を…
ぷよぷよ短編まぐろ
ルナティック
赤い月が昇る。蝙蝠が飛び回る。風で木が揺れ、ざわざわと葉音を立てる。その中を、ボクは一心不乱に走っていた。運動することなんか大嫌いだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。一刻も早くここから離れなければならない。水を飲む暇も汗を拭う暇も…
ぷよぷよ短編※,あやしいクルーク,クルーク
記憶の夢
「くっそーまた負けた!」「勝っちゃった★」「一体いつになったら、私はまぐろくんに勝てるようになるんだろ……」「いやいや、ちゃんどんどん強くなってるから、ボクも必死、なんだよ★」「嘘だぁ全然勝てないのに」「そ?んなことないよ★さっきだって、反…
ぷよぷよ短編※,まぐろ
傷
「いてっ」その声で振り返ると、指先を見つめて顔をしかめるちゃん。ボクには彼女がなにをしているのかがすぐ分かった。「ダメだよ、ささくれ引っ張っちゃ★」とがめるように、ボクはちゃんの手を取った。親指の爪の付け根が、血で痛々しいことになっている。…
ぷよぷよ短編※,まぐろ