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一枚目 忘失

 初めは単なる好奇心だった、と言ったら、あんたは怒るかな。それとも笑うか。今となっちゃ、確かめる意味はないんだが。それでも俺はあんたの横顔を見た時からずっと気になっていたんだよ。張見世の格子窓、そこから悩ましげな視線を送る女たちの中にあんた…

心因性の神聖

*百合っぽい姫様は、もうずいぶん見たことのない笑顔で編み物をなさっていた。薄く開けた窓から吹き抜ける穏やかな風が、時折編み終えた糸を揺らすので、そのつど姫様は子どもを寝かしつけるみたいな優雅な手つきで糸をなだめる。ただそれだけの仕草が、姫様…

共時性共有度

共時性共有度「全く、とんだ茶番だな」後ろからかかった声。クルークのようでクルークでない、魔物のほうの声だった。あざけるような口調の魔物に、クルークはそちらを見ずに言う。「……何か文句でもあるのかい」「いや?貴様もよくやるものだと思ってな」そ…

親和性進行度

親和性進行度クルークの機嫌がさらに悪化していた。「……」「……クルーク」「……」いくら呼びかけても、クルークは本から顔をあげようとしない。その表情は険しく眉間にはシワがくっきり刻まれたままである。これまでもクルークの機嫌が悪くなることは何度…

類似性不一致

類似性不一致なぜクルークはあんなに怒ったのか。思い返してみても、何も怒らせるようなことはしていない気がする。そもそも部屋に入ってきたときから不機嫌だった。部屋に来る前に何かあって、それで私に八つ当たったのかも。そう思った私は、とりあえず最初…

反対性類似色

反対性類似色あいつを召喚してからというもの、私は忙しい日々を送っていた。なにせ、あいつのチカラを引き出すためには私がもっと強くならなきゃいけない。そのためにはたくさん勝負をしていかなければ。それまで使い切ることがなかったやる気も魔力もすぐ底…

因果性還元度

因果性還元度拝啓、母君様。私はいま絶体の危機に瀕しています。「……ぬるい」私が淹れた紅茶を一口飲んで、そいつは眉をひそめた。「……すいません」「正しくは『すみません』だ」「…………スミマセン」召喚したのは私。召喚されたのはこいつ。だけどいつ…

後輩の脅威

「先輩!今帰りっすか?」 昇降口で靴を取ろうとしたとき、横から声がかかった。振り向けば、ジャージでラケットバッグを担いだ赤也が立っている。「うん。赤也はこれから部活?」「そっす。その前に、先輩が見えたんで声かけちゃいました」 にっと笑う赤也…