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彼はヒーロー

 わたしには、好きなひとがいます。「こんにちは。ビッグ君、かえる君」 ミスティックルーインの端っこ、ビッグ君のおうちを訪ねれば、彼とそのおともだちはいつものように川べりで釣り糸を垂らしていた。ビッグ君はわたしの声にかたほうだけ耳を立てて、大…

寂しがりの応酬

 暇だ。暇すぎる。暇が売れたら大儲けできるくらい暇だ。「シャドウー。ねーシャドウー」「うるさい、気が散る」 さっきから何度も呼びかけているが、シャドウはローテーブルの上に広げたノートパソコンから目を離さずに同じ返事しかしてくれない。観念した…

桜の下に死体を埋める

 虚空に手を伸ばし、強く握り込むと目の前の巨木は紙クズのようにひしゃげて折れた。舞い上がる土煙と火の粉の中、俺は真っ直ぐ標的に向かって歩き出す。 一瞬、土煙が揺らいだ。 俺は胸のファントムルビーに触れ、走り寄る標的の空間を歪める。相手は足を…

かえりみち

 買い物を終えて駐輪場に向かうと、意外な姿を見かけて荷物を落としそうになった。「ソニック……!?」「よっ」 私の自転車の荷台に座って、青いハリネズミがご機嫌に片手を上げた。 夕暮れの下を自転車で走る。雲が出てきて少し風もあり、スピードを出せ…

イージー・ゴーイング

「しまったなあ」 の家に遊びに来ていて、そろそろ帰ろうかと思っていたところにの呟きが溢れる。セリフの割に緊迫感のない口調だったので大したことではなさそうだが、一応尋ねてみた。「どうしたんだよ?」「牛乳切らしてたの忘れてた」 些細も些細だった…

遠い雷

 今日は午後から雨が降るとかで、街の人影はまばらだった。オレも濡れるのは嫌いだけど、街中を思い切り走るには今しかない。そう思い、いつも人でいっぱいのエメラルドコーストに向かって駆け出した。 案の定、灰色の雲を抱える空の下で海岸を散歩している…

レジスタンスとクリスマス

「輪つなぎ出来たぜー!」「お疲れシルバー!ソレそのままそっちの壁に!」「あっぼくがやるよー!とべるし!」「テイルス!エミーたちどうだった?」「料理はあとちょっとかかるって!」「了解!じゃあシルバー手伝ってあげて!テイルスはモミの木の飾り準備…

ソニックのバースデー

「うわああー終わったああぁぁ……」力なく叫ぶなり、ノートパソコンを閉じた彼女は机の上に倒れこむ。「おいおい、頑張りすぎだって。そんなに期日ギリギリな作業だったのか?」数日前から机にかじりついて、今だって終わったのは日付が変わる直前だ。そんな…

雨、夜、音

 さらさら……と窓の外で音がした。カーテンを開ければそれは、ついに降り出した雨だと気付く。昼過ぎから雲行きが怪しいとは思っていたが夕方になっても降る気配がなかったので、家に帰る頃にはすっかり忘れてしまっていた。 徐々に雨脚が強くなっていく。…

夢のさざめき

 溜まっていた家事を片付け終えると、私はソファに倒れこんだ。ここのところずっと忙しかったけれど、今日はようやく舞い込んだお休み。何もしないで家でゆっくりすると決めていた。 こんないいお天気の日にただぼうっとしているのも、ちょっともったいない…

淡いと恋とそのあいだ

「お腹へったなあ」「それ、人の家に来て言うセリフ?」 ボクは呆れながら肩越しに振り返って、後ろに座っているに言う。は悪びれる様子もなく、「だってテイルスはそんなことじゃ怒らないでしょ」とあっけらかんと笑ってみせた。いやま、そうなんだけど………

桜に嵐

 夕闇を幾らか通り過ぎた時間だった。家路についていた私は、足早に道を歩いていた。気が急いていて、だから、すぐに気づかなかったんだと思う。 ひゅうっと強い風が吹き抜けたので、思わず足を止め目をぎゅっと閉じた。再び目を開けた時、なにかが目の前を…