「またね」
「え、もういないって……」
宿屋に行くと、リンクくんがもう町を出て行ったことを知った。
おかみさんも困った顔をしてため息をついている。
「夜は危険だからって、言ったんだけどねえ。どうしても行かなきゃいけない理由ができたんだって、なんだか思いつめていたみたいだよ」
「そんな……」
多分、わたしのせいだ。
わたしがリンクくんに好きって言ったから。
「あ、ちょっと!」
おかみさんの声も聞かずに、わたしは町の門まで行って、門を超えて、外に出た。
「リンクくん!」
リンクくんは、町から少し離れたところにいた。
馬に乗っていたというから慌てたけど、そんなに遠くに行ってなくてよかった。
「未登録名前、どうして……!」
リンクくんはとても驚いていた。
そして馬から下りて、わたしの前に立つ。
「危ないじゃないか!早く町に戻るんだ」
今までにない、厳しい言葉。だけど、わたしはおびえない。
きっぱりと首を振る。
「やだよ。リンクくんから、ほんとうのことを聞いてないから」
そう言うと、リンクくんは視線をそらした。
やっぱり、あれは嘘なんだ。
「ねえ、どうして好きじゃないって言ったの?」
「……僕は」
視線は合わせないまま、リンクくんは言う。
「僕は、君と同じ時間に生きられないから。生きていないから」
え?
どういうこと?
「君の気持ちは、嬉しかった。……ほんというと、僕も同じ気持ちだよ」
「なら!」
「でもダメなんだ。僕は誰かと一緒には、いちゃいけないんだ……」
そこに、リンクくんの寂しいと思う気持ちが詰まっているんだ。
話の半分も、わたしには理解できないけれど……でも、ひとつだけ分かることがある。
リンクくんは、一緒にいたいんだ。
いちゃいけない、なんて言ってるけど、それはただの言葉だ。
ほんとうのことの裏返し。
自分にそう言い聞かせているだけなんだ。
「わたし、リンクくんの過去に何があったかとか、全然知らないけど」
一歩、リンクくんに歩み寄る。
「今。わたしはリンクくんのことが好き。リンクくんも同じ気持ち」
また一歩。
「未来のことは分からないから、今が大事なんじゃないのかなあ」
難しいことは分からないけど、うまいことも言えないけど。
お母さんが教えてくれた通り、わたしも今を大事にしたい。
リンクくんと過ごした日々は嘘なんかじゃないから。
「……ありがとう」
見ると、リンクくんは、真っ直ぐわたしを見ていた。
寂しそうな顔じゃなくて、本当に、嬉しそうな顔で。
「僕、難しく考えすぎてたみたいだ」
リンクくんが一歩、前にでる。
わたしとの距離は目と鼻の先。今にもぶつかりそう。
リンクくんはわたしの頬をゆるゆると撫でた。
「僕も、君のことが好きだよ。未登録名前」
「……嬉しい」
体がカアッと熱くなって、胸がやっぱりどきどきして。
リンクくんが触れている部分から熱が伝わってきて、まるで夢でも見ているみたいだった。
やがてリンクくんが少し離れて、
「僕は、まだ旅を続けなきゃいけない。でも絶対にここに戻ってくるから。それまで……待っててくれる?」
「もちろんだよ!」
「ありがとう、未登録名前」
もうリンクくんの顔は、寂しそうなんかじゃなかった。
子供みたいににかっと笑って、
「またね!未登録名前!」
「うん!」
それは寂しい別れなんかじゃなくて。
未来を信じる、希望に満ちた「今」の挨拶。