黒板に机と同じ数のマス目がかかれ、その中へランダムに数字を入れる。
その数字と、ひとりずつ引いたくじの番号と同じところが新しい席、ということになっていた。
わたしのクラスは男女の割合がほぼ半々なので、先生の「お前ら青春しろよ!」という妙な計らいで男女が隣り合う席順になっている。
そのおかげで大変なことになってしまった。
わたしはちらっと隣を見る。
佐々木くん。
わたしは佐々木くんの隣になってしまったのだ。
場所でいえば、わたしが窓側の前から三番目、佐々木くんがその隣。
他の子たちが、親しい仲同士、あるいは意中の相手と近くになれたことで喜び合っているなか、わたしはとても気まずい思いをしていた。
しかも先生が「残りの時間で親睦を深めろ」などとこれまた珍妙な計らいをするものだから、近くに特別親しい友達がいないわたしは、殊更どうしていいのか分からなかった。
佐々木くんのことが嫌いなわけじゃない。ただ、そういった特異な出来事が関わっているせいで、どう声をかけていいのか見当が付かない。佐々木くんから話しかけられることもなかったし。
いっそ本でも読んで、完全無視を決め込んでしまおうか。いや、でも、これからしばらくの間隣同士なのにそれは失礼というか、感じが悪いだろう。
かといってなにか話題を持っているわけでもないし、
「ねえ★」
おそらくわたしの肩はぎくっと跳ね上がっただろう。
ゆっくり隣を見ると、佐々木くんがにかっと笑っていた。
「未登録名前ちゃん、っていうんだよね?」
「え、う、うん」
いきなり下の名前を呼ばれたことにも驚いたけど、佐々木くんがわたしの名前を知っていることにも驚いた。
「これからよろしくね、未登録名前ちゃん★」
語尾を不思議に跳ね上げて、佐々木くんは言った。
そういえば、佐々木くんの声をちゃんと聞くのは初めてだった。
話しているのを見てはいるけど、声までは休み時間の喧騒にまぎれてこちらまで届かない。
「うん、よろしくね。佐々木くん」
楽しそうな喋り方をする佐々木くんに、わたしは少し気を緩めることができた。
「もしかして、周りに親しい人、いないのかな★」
さっきまで緊張した顔してたよ、と指摘され、わたしは言葉を詰まらせた。
それもあるけれど、一番の理由が佐々木くんの隣になったから、とは口が裂けても言えない。
わたしは二番目の理由を口にする。
「うん、実はそうなんだ。だからどうしようかなって思ってて」
「そっかあ★」
すると佐々木くんはこんなことを言い出した。
「じゃあ、これからはボクが話しかけにいくから、ヨロシク★」
「えっ」
戸惑いが声に出てしまった。
すぐに改めようとしたが、佐々木くんは特に気分を害されたというふうでもなく、手を広げてまた笑った。
「まあ、今まで話したことってないしね★」
その時、わたしはまた、佐々木くんが見えなくなった。
目の前にいるはずなのに。
「ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって。でも、わたしも佐々木くんと話をしてみたいよ」
彼を前にして、こんなにすらすらと言葉が出てくる自分に驚くよりも。
佐々木くんが見えなくなるのを、なんとかしたかった。
初めて強く思った。
「じゃあ改めて、これからヨロシクね★未登録名前ちゃん★」
「うん。こちらこそ」
自然と、わたしは微笑んでいた。