ふと気がつくと、教室内は薄暗くなっていた。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。起き上がって、ぼんやりする視界を正すために目をこすった。
そして目を疑う。
わたしの席に、佐々木くんが座っている。
「起きた?」
驚きで声が出せなかった。
と同時に、肩に慣れない感触があるのに気づいた。見てみると、男子制服の上着がかけられている。
佐々木くんがかけてくれたんだとすぐ分かった。
「今日、部活にこなかったから、どうしたのかと思ったよ★」
ということは部活が終わってからか、その前からか、佐々木くんはわたしが起きるのを待っていてくれたんだ。自分の上着をかけて。
彼は、本当に優しい。
優しすぎて、また、涙が出てきた。
「未登録名前ちゃん?」
佐々木くんの声に、動揺が混じっている。
それは、そうだろう。いきなり目の前で泣かれたら、誰だって。
「わたしに、やさしく、しないで」
肩にかけられた、佐々木くんの制服をつかんで、わたしは言った。
顔なんて見られるわけがないから、床を見つめて。
「やさしくされると、わたし、苦しくなるから。勘違いしちゃうから」
好きじゃないなら、いっそ放っておいてほしかったとさえ思ってしまう。
話をしてみたい、そう言ったのはわたしなのに。
自分勝手さに腹が立って、余計に苦しくなった。
気づかなければよかったのに。
隣になんてならなければよかったのに。
後悔したってもう遅い。わたしは気づいてしまったし、佐々木くんは変わらず隣にいる。
「……もしかして、部室で話してたこと、聞いた?」
少し迷ったけど、いきなりこんな態度をとってしまったことへの罪悪感から、わたしは正直に頷いた。
佐々木くんは、そっかぁ、と、なぜか先ほどより少し明るい調子で言った。
「本当のことを教えよう★」
「え……」
思わず顔を上げる。
佐々木くんは、笑っている。かすむことなくちゃんと見える。
「りんごちゃんは、友達として好きか、という意味で言ったんだよね★だから、ボクはそうじゃないって言った。ボクにとって、未登録名前ちゃんは友達じゃなくって――」
佐々木くんが、制服をにぎりしめるわたしの手に、そっと触れた。
「一人の女の子として、好き、だよ」
いつの間にか涙は止まっていて。
わたしの目は佐々木くんに釘づけになっていて。
佐々木くんの手が、わたしの背中に回って。
その時、わたしたちの距離がゼロになった。
あれからどういうわけか、わたしと佐々木くんの仲はあっという間に広まったけれど、佐々木くんを好きな女子からいじめられるわけでもなく、平穏に、時々囃されたりしながら、楽しい日々を送っている。
佐々木くんがかすんで見えることもなくなって、あれは一体どういうことだったんだろうと時々思い返すけれど、やっぱり分からないので、不思議なこともあったな、で片をつけることにした。
でもちゃんと見えるようになった佐々木くんは、
「今日、うちにこない?一緒にゲームしようよ★」
「うん、いいよ」
「今日親いないから」
「え!?」
「じょーだん★」
時々、ついていけません。