「最近、佐々木君とよく話してるよね」
お昼、お弁当を食べていたとき。
一緒にいた友達にそう言われ、わたしは箸を落としそうになった。
「え、そ、そうかな」
「そうだよ!なになに、ようやく未登録名前もその気になったわけ?」
友達はわたしの反応を楽しんでいるようで、にやにやと笑っている。
わたしといえば、別になにもやましい気持ちはないはずなのに、視線を合わせられなかった。
「もしかして、もう告白したとか?」
「しし、してないよ!」
あれ、どうしてわたし、こんなに焦っているんだろう。
以前同じようなことを聞かれたときは、全然なんてことなかったのに。
友達の追求が怖いので、話をそらすことにした。
「わたしのことより、そっちのほうが気になるよ。好きな人と近い席になれたんでしょ?」
「あーそうそう!こないだようやく一緒に遊ぶ約束できて!まあ大勢でなんだけどー」
よかった、上手くいったようだ。
でも、嬉しそうに、時折照れくさそうに好きな人の話をする友達を見て、ほんの少し、羨ましさも覚えていた。
好き、かぁ。
わたしは、佐々木くんのこと、ほんとはどう思っているんだろう。
放課後になり、用事を済ませて職員室から出ると、わたしはお昼に言われたことを思い返していた。
確かに以前より佐々木くんと会話することは増えたし、物理部の活動がある日は毎回お邪魔している。いっそ、帰宅部から物理部になろうかと思うほどに。
けれど、佐々木くんにあまり興味がないわたしの友達でさえ、わたしと佐々木くんが仲良く見えるということは問題だ。
今まで気にも留めなかったが、わたしみたいな地味なのと一緒にいて、佐々木くんに悪い噂が立っていないだろうか。
今日も物理部の活動日。わたしはあれからずっと行こうか否か迷っていた。一緒に行こうという佐々木くんに、用事があるから先に行ってて、とわざわざ用事を作ってしまうほど迷った。
それでも気づけば、わたしの足は部室に向かっているのだった。
(一度、りんごちゃんかりすくま先輩に相談したほうがいいかなぁ)
とりあえず、今日は行こう。先に行ってて、と言った手前もある。
わたしは部室のドアを開けようと――
「それで、未登録名前ちゃんの――」
して、手を止めた。
佐々木くんの声がする。だけじゃなくて、わたしの話をしている。
「――紹介の仕方がすっごく丁寧で分かりやすいから、最近ゲームより読書が多いんだ★」
「なるほど、それでか」
聞いているのは、りんごちゃん一人のようだった。
立ち聞きはよくないから、なにも聞かなかったふりをして入ろう。
でも、ちょっと恥ずかしいから、わたしの話題が終わってからでもいいよね。
「ところでまぐろくん」
「なんだい?」
「最近未登録名前の話ばかりだよね」
「そう、かな★」
「そんなに好き?」
息が詰まる気がした。
さっと顔が赤くなり、一人だというのに気恥ずかしさを覚え、その場から立ち去ろうかとも思った。
けれど、続きを、聞きたくないような聞きたいような、ごちゃまぜな気持ちになって。
後悔した。
「いや、そうじゃない、かな」
夕日で真っ赤になった教室には、もう誰も残っていなかった。
いたとしても、今のわたしはお構いなしだったと思う。
ふらふらと自分の席に向かい、座ろうとして、隣の席に座った。
佐々木くんの席。そこから見る景色は、ひとつ席が違うだけだというのに、目新しいもののように感じた。
窓側を向けばわたしの席がある。佐々木くんはこんなふうにわたしを見ていたんだと思うと、ずきりと胸が痛んだ。
同時に流れる一筋の涙が、雫になって机に落ちる。
その瞬間にわたしは、ようやく、気がつくことができた。
わたし、こんなに、佐々木くんのこと、好きになってたんだって。
だけど、それはもう叶うことはない。
佐々木くんの「そうじゃない」という声が脳裏に蘇り、耐えられなくなったわたしは机に伏して、さんざん、泣いた。