いちにちめ

久々にトアル村に顔を出したらとんでもないことを言われた。

「この間から未登録名前が行方不明なんだ」

モイさんが暗い顔をしていたのでどうしたのかと思っていたが、まさかそんなことが起きてるなんて思いもよらなかった。
全身から冷や汗が出るのを感じた。
俺は、未登録名前のことが好きだから。旅に出ることになっても、結局思いは伝えなかったけれど、旅が終わったら絶対に言おうと思っていた。
優しくて、どこかふわふわした雰囲気を持つ彼女の隣にいると、とてもしあわせなきもちになって、笑顔を見ると、どんなことでもできそうな気分になってくる。旅の途中何度も思い出して、俺を勇気付けてくれた。
未登録名前はきっと、俺の気持ちなんて知らないだろうけど。

「あの、未登録名前はいつからいないんですか」

「一週間前に、一人でフィローネの森に行くと言ったきりだ。村のみんなも随分探したんだが……」

城下町やハイラル平原まで出て行って探したが、見つからないのだという。
誘拐、ということも考えたが、未登録名前は一人だしそもそも身代金の要求もない。
他に思い当たる場所がないので、みんなも困り果てている。

「なら、俺が探してきます!もしかしたら魔物に連れ去られたのかもしれない」

イリアたちのことを思い出す。
突然現れた影の魔物に、なすすべなく連れて行かれたときのこと。
自分は無力だと思い知らされて、涙が出そうなほどくやしかった。
でも今は、違う。
大切な人を守るための力が、俺にはある。

「それはありがたいが、今日はもう遅い。明日一緒に森に行こう」

「でも……」

「夜は魔物が活発だから危険だ」

お前までいなくなってしまったら、どうするんだ。
モイさんに諭され、俺はしぶしぶ承諾した。
とりあえず今日は自分の家で休んで、明日手がかりを探しにフィローネの森に行くことにした。
もしかしたら、精霊フィローネがなにか見ているかもしれない。聞いてみよう。

家に着くと、それまで黙っていたミドナが姿を現した。

「オマエ、こんなとこで道草くってる場合かよ?」

「しょうがないだろ。村の一大事だし」

「はーん。オマエ、ソイツのことが好きなんだな?」

「なあっ!」

ミドナはクックッと笑って、

「やっぱりな。オマエ分かりやすいからなあ!」

「悪かったな」

「ふてくされるなよ」

それでもミドナはニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべたままだ。
まったく。

「ま、どうしてもっていうなら一週間だけ大目に見てやるよ」

「……ありがとな」

急ぐ旅の途中なのに、無理をいって立ち止まってるのは事実だ。
俺は素直にお礼を言った。

「でもワタシは協力する気はないからな」

「そう言うだろうと思ったよ」

「どっかで暇つぶしてくる。一週間後の夕方戻ってくるから、それまでになんとかするんだぞ!」

そう言うと、ミドナは虚空に姿を消した。

未登録名前、君は一体どこへ行ってしまったんだ。
そもそも一人で出かけるなんて、危険なのに。
もし何者かに連れ去られでもしたら……。
いや、悪い想像なんてしないほうがいい。
きっと無事だ。迷子になっているだけだ。
早く見つけてあげないと。きっと寂しがってる。
気丈にしてるけど、本当は寂しがりだから。彼女を見てきた俺はよく知ってる。
見つけたら、ぎゅって抱きしめてあげよう。びっくりするかな。でもきっと笑ってくれる。ハルなら。

けれどやっぱり落ち着かなくて、俺は眠れないまま夜を明かした。