仕事を終えると、ファドから「未登録名前が会いたがってたぞ」と聞いて、俺は未登録名前のいる場所に飛んでいった。
どうやらまた一人でフィローネの森に行ったらしい。さすがにちょっと怒りたくなった。
でも、
「リンク!待ってたよ!」
なんて嬉しそうに言われたら、そんなのどこかへいってしまったよ。
「未登録名前、俺に会いたいって……」
すごく嬉しいけど、実際口にすると恥ずかしい。
未登録名前もちょっと照れたように笑って、
「うん。リンクと話がしたかったの」
未登録名前がいなくなる前も、二人で話すことはあった。
でもそれは村の中で立ち話をする程度で、こんなふうにわざわざ待ち合わせて会うなんて初めてのことだ。
俺は少したじろいでから、未登録名前の隣に座った。
泉のほとりは少し風が吹いていて、気持ちよかった。
……正直、昨日のことがあって会いづらかったけど、未登録名前が気にしていないようなら俺も気にしないことにしよう。
「でも、どうして俺に?」
「なんでかなあ、自分でも分からないや。リンクは、嫌だった……?」
「そんなことない!」
ちょっとドキっとしてしまったけど、別に会いたくなかったわけじゃない。
慌てて否定すると、未登録名前は安心したように「よかった」と笑った。
ふわふわした、未登録名前の笑顔。やっぱり見てると落ち着くなあ。
それから、未登録名前の提案で森の中を二人で散歩することにした。
いつも見ていた景色だけど、未登録名前と一緒に見ることでなんだか違うものに見えてきた。
旅をしていて、きれいな景色はいくつも見てきたけれど、なぜだろう、俺には今のフィローネの森が一番輝いて見える。
葉の緑も、鳥のさえずりも。どれも特別なものに感じるんだ。
しばらく歩いていると、未登録名前がはたと足を止めた。
「あ、草笛がある」
鷹を呼ぶときの草が足元に生えていた。
「リンクって草笛吹けるんだよね。ちょっと吹いてみて」
「いいけど、これを吹いたら鷹がきちゃうな」
俺はそばにあった背の低い木から、葉をひとつとった。
楕円形のやわらかい葉だ。
両端を持って、横に曲げるようにして軽く咥える。あとは頬の内側に空気が入らないようにして吹く。
ピィーッ
「わあすごい!」
未登録名前が手を叩いて喜んだ。
照れくさかったけど嬉しくて、いくつか簡単な曲を吹いた。
未登録名前はいっそう喜んでくれて、終わるごとに拍手をくれた。
「すごいなあリンクは」
「そ、そうでもないよ。練習すれば未登録名前だって吹ける」
「ほんと?じゃあ、ちょっと貸して?」
え、と俺は硬直してしまった。だって、それって……!
断ろうと返事をする前に、未登録名前が俺の手から葉っぱをとっていってしまった。
そしてそれを唇に。
「ふーっふーっ……うーん吹けないなあ。なにかコツがあるの?」
聞かれても困る。
俺が答えないのを不思議そうに見ていたが、やがて、ぼっと顔を赤くさせた。
「ご、ごごごめん!わたしってば……」
「……」
「そっそういうつもりじゃなかったの!その……」
「……」
「えっと……」
「……」
「……」
「…………そろそろ、帰るか」
「…………うん」
その日の帰り道は、少しだけ未登録名前が遠く並んだ。