いつものように丘に登ると、そこにダークの姿はなかった。
どこかに出かけているんだろうか。珍しいな、とわたしは思った。
お弁当、作ってきたんだけどな。今日はお弁当箱におかずをいっぱいつめて、自家製のパンをつけて。卵焼きも甘くして、張り切った。
でもいないなら仕方ない。待っていればそのうちくるだろうと、いつもはダークが座っているところに座った。
しかし、待てど暮らせどダークがやってくる気配はない。
日はだいぶ傾き、夕方にさしかかろうとしている。
おかしい。こんなに待ってもこないなんて。ダークが他に行くところなんて……。
まさか。
本当は、ダークにもちゃんと帰るところがあるのかもしれない。わたしが毎日ここにくるから、仕方なくつきあってくれたのかもしれない。わたしにあわせるのに疲れて、帰るべき場所に帰ってしまったのかもしれない。もうここには戻ってこないのかもしれない……
考え出したらとまらない。不安が波になって襲ってきた。足をぎゅっと抱え込む。目頭が熱くなった。泣いたって、ダークが戻ってくるわけじゃない。のは、わかっているけれど。
「……お前?」
その時、聞きなれた声がした。
弾かれたように顔をあげると、そこには。
「ダーク……!」
「おい、お前なに泣いて」
「う、うあああん!」
ダーク。ダークが戻ってきた。わたしは思わず、ダークに抱きついていた。泣きながら、彼の胸に飛び込む。
「お、おい!」
「よかっ、た……ダーク、もう、戻ってこないかと、思って……」
わんわん泣き続けるわたし。ダークはため息をつきながらも、わたしの背中に腕をまわしてくれた。
「俺はここにいる。もう泣くな」
「う、ん……」
戻ってきてくれて、本当によかった。その安心感が胸のうちに広がっていく。涙は、もう止まっていた。
「ねえ、どこに行ってたの?」
聞けなかったことを聞いた。ダークがどこかに出かけているなんて珍しいことだから。
しかし、ダークはなぜか言いにくそうにしている。
「どうしたの?」
「あー……その、な」
ダークはわたしから離れると、右手を差し出した。
その手には、淡いピンク色の花が握られていた。
「どうしたのこれ?」
「……お前に、やる」
「え?」
ダークは視線をあわさずに、
「ここんとこ、俺に、弁当作ってくるだろ……だから、その。あーつまり代わりだ!受け取れよ!」
なぜか怒りながらずいと差し出される花。わたしは目をぱちくりさせた後、にっこり笑って、両手で受け取った。
「ありがとう、ダーク。嬉しいよ!」
「そ、そおか」
相変わらず視線を合わせようとしないけど、少し頬に赤みが増している。
まさかダークから贈り物をされるとは思わず、わたしは本当に嬉しかった。そうか、お礼をしたかったから、花を探してくれたんだ。魔物であるダークが人間の好みを知ってるのには驚きだけど、こんな時間まで一生懸命探してくれたんだと思うと、頬が緩んだ。
「なにニヤニヤしてやがる」
「やっぱりダークって優しいね!」
「な、違う!俺は、やられっぱなしが嫌だっただけだ!」
「はいはい」
「本当だからな!」
そういうの、優しいっていうんだよダーク。