その日、わたしは緊張していた。
なぜかと言うと、初めてダークにお弁当を作ってきたからだ。
いつも話相手になってくれるから、そのお礼のつもりで。
魔物とはいえ食事くらいするだろうと思ったんだけど……よく考えたらダークが食べてるとこ見たことない。
大丈夫かな、でもせっかく早起きして作ってきたんだし、食べてもらいたい。
どきどきしながら、丘の上にのぼった。
「や、やっほーダーク」
「お前か……なんだそれ」
早速ダークがわたしの手の中にあるバスケットに目を向ける。
「えっと、お弁当作ってきたの!よかったら一緒に……」
「いらねえ。俺はモノは食わない」
きっぱりとダークは言った。
ずうん、と言葉が重くのしかかった。
そっか。食べないのか。じゃあ、仕方が無いよね。
「ごめん、余計なことして……今日はもう、帰るね」
正直、ちょっと泣きそうだった。
断られた。ただそれだけなのに、鼻の奥がツンとする。
そんなみっともない姿を見られるのが嫌で、わたしは踵を返した。
「ま、待て!」
「っきゃ」
ダークに肩を掴まれた。
無理やり振り向かされて、転びそうになる。
「……食ってやる」
「え、でも、」
「食ってやるって言ってんだ」
ひったくるようにバスケットを奪われる。
中身はチキンサンドと卵焼き、手製ドレッシングのサラダ。
ダークはチキンサンドを手に取るとばくっとかぶりついた。
「……うまい」
「味わかるんだ!」
「驚くとこそこかよ!」
いやだって、食べないっていうからてっきり味も分からないものかと。
そう言うと、ダークはふんと鼻を鳴らした。
「生きるのに不要なだけだ。良し悪しくらいは分かる」
「そ、そうなんだ」
ダークはひとつめのサンドを食べ終えると二つめに手を出した。
よかった、断られたときはどうしようかと思ったけど。
わたしは自然と笑みがこぼれた。
「ダークに喜んでもらえて嬉しいよ」
「……」
ダークは何も言わずに食べ続けている。
まあ、否定はしないってことで、いいように解釈していいのかな?
おっと、はやくしないとわたしの分がなくなる。
四つ持ってきたからね。一人二個。
ダークの隣に座って、サンドを食べる。
「青空の下で食べるとおいしーねー」
「……俺は」
「うん?」
「俺は、青色は嫌いだ」
「え、そうなんだ。なんで?」
「なんでもいいだろ」
ダークが少し不機嫌になるので、わたしはそれ以上なにも言わなかった。
どうして青色がきらいなのかな。赤色のほうが好きだから?(目とピアスが赤いし)
「あ、お茶も持ってきたんだけどいる?」
「……ん」
片手だけをこちらに差し出す。
もう、子供みたいなんだから。苦笑して、水筒にいれてきた温かいお茶を一緒に持ってきたカップに注いで、ダークに渡す。
ダークはぐいと飲み干して、また食べる。
「卵焼きは甘いのとしょっぱいのがあるんだけど、どっちがいい?」
「甘いほう」
「ほお、ダークさんは甘いのがすきですかー」
「なんだよ悪いか」
「んーん。かわいいなあと思って」
「だからかわいいって言うな」
「はいはい。甘いのはこっち側だからねー」
「……あやすように言うなバカ」
「だーかーらー、未登録名前って呼んでよって言ってるじゃん」
「お前なんかバカで十分だ、バカ」
「ほんとうにひどいなーダークは」
ま、そんなことで怒ったりなんかしないけどね。
しばらくすると、バスケットはすっかり空になってしまった。
食べないといいつつ、ほとんどはダークが食べてしまった。変なの。
でも嬉しくて、わたしはニコニコ笑顔をダークに向けた。
「ダークと一緒にご飯食べるの、夢だったんだー」
「……そうかよ」
「えー淡白。女の子が一生懸命お弁当作ってきたんだよ、なにか感じるところはないの?」
「自分でソレを言うのはどうなんだ」
「やっぱり?我ながらちょっと恥ずかしかった」
「なら言うなよ……」
「だってさー」
その先を言ったら、きっとダークはあきれると思うから。
わたしは黙ってしまった。
ダークのことが好きだから、なんて、言えるわけがないんだ。
「…………また、作ってこい」
「え?」
「二度はいわねえ」
ダーク、また作ってこいって言った?
ほんとうに?
「ありがとう!また作るね!」
「……ああ」
ダークが少しだけ笑った気がした。