買い物を終えて駐輪場に向かうと、意外な姿を見かけて荷物を落としそうになった。
「ソニック……!?」
「よっ」
私の自転車の荷台に座って、青いハリネズミがご機嫌に片手を上げた。
夕暮れの下を自転車で走る。雲が出てきて少し風もあり、スピードを出せば涼しい空気が肌を撫でた。
「まさかソニックが迎えに来てるとはねー」
自転車を漕ぎながら、背後で荷台に立つソニックに言う。ソニックは私の肩に掴まって器用にバランスを保っていた。
「会えてラッキーだろ?」
「へーへー僥倖でございますー」
「お前な……」
なんて、嬉しいに決まってる。気まぐれなソニックと会えるなんて中々ないから、それこそ気まぐれに私を探しに来てくれたことが、嬉しくないはずがない。
自転車でよかった。隣に立っていたら、顔色できっと分かってしまうから。
ビル街を抜けて住宅の多い路地に入ると、何かを売ってるワゴンのそばを通った。
「お、アイス売ってた」
「買わないぞ、通り過ぎたし」
「そこまで言ってないだろ、期待はしてたけど」
「してんじゃないの!」
瞬間、遠くのほうでゴロゴロ……という音が聞こえた。見上げれば黒い雲が徐々に迫ってきている。
「Shoot(ちぇっ), 通り雨か」
「うわーまずい。洗濯物出しっぱだよ」
「急げ急げ?」
「いやソニックは走りなよ」
「分かってないねぇ、未登録名前といたいんだって」
「はーそうですかー」
「棒読みかー」
本当は、心臓が止まるかと思った。いつもの軽口なのに、ソニックにその気があるわけないのに、自分にどれだけ言い聞かせても喉の奥がヒリヒリするし胸が詰まって息ができない。
肩に触れる体温が、重みが、一つひとつ染み込んでいくみたいに私の体にふりかかる。
この時間が、ずっと、続けばいいのに。
そんな突拍子もないことを考えているうちに、私の家まで着いてしまう。仕方ないけれど、ソニックとはここでお別れだ。
「ソニック、着いたよ」
しかし、なぜか後ろから降りようとしない。ソニックが乗ったままでは私も降りられず、両足を地につけたまま振り返ろうとしたが、頭に片手が添えられて動けなくなる。
「なーんか……」
「え、なに?」
触れられたせいで高鳴る胸を抑えながら、ソニックの言葉を待った。だが彼は押し黙ったまま、私の髪を梳くように撫でている。何度か往復したのち、ふと手の動きが止まって、指ですくってのち離れた。
「……ソニック?」
荷台から降りたソニックを振り返るが、彼はいつもと同じような表情をしてうんと伸びをしている。
「なんでも!雨振りそうだしついでに夕飯ご馳走になるかなー」
「別にいいけどついでにってのが釈然としない!」
「細かいことは気にすんな!」
本当に自由なんだから……と呆れつつも、この笑顔に弱い私はいつも通りソニックと付き合うのだった。
でも、さっき。
指にしちゃすごく柔らかかったような気がするけど、多分気のせいだろう。