彼の横顔が好きだ。
戦に赴く前の真剣な横顔も、手合わせ中不敵に笑う横顔も、相棒や古い顔馴染みたちと談笑する横顔も。
今、近侍として事務作業と向き合う横顔も、好きだ。
「……んだよ、じっと見て」
和泉守は視線に気づくと、端末の操作を止めて不機嫌そうに私を見た。
「んーん。和泉守ってかっこいいなーって思って」
「へーへー、そりゃどーも。いいからさっさと終わらすぞ」
そう言うと、和泉守は再び端末の操作に戻り、慣れた手つきで仕事をさばく。近侍になってから覚えたはずの操作は今やすっかりお手のものだ。意外なことだが和泉守は勉強家であるらしい。
そういうところがかっこいい、と、思うのだけど。
和泉守は、かっこいいと言われることに何やら不満があるらしい。うちの本丸の和泉守兼定だけかと思ったが、つい先日他の刀剣たちからかっこいいと言われて誇らしげにしているのを見かけてしまった。すると思い至るのが、『私から』かっこいいという言葉を聞くのが嫌、ということだった。
でもなあ。和泉守ってかっこいいしなあ。それを言っちゃいけないなんて、こちらのフラストレーションが溜まってしまう。
「ねえ」
「んだよ」
「かっこいい、って言われるの、嫌?」
ついに言ってしまった。
和泉守は端末を操作する手を止めた。浅葱の瞳が、射抜くみたいに私を見つめる。
「……あんたは、誰にでも言うだろ」
「へっ」
「国広にも、短刀だろうと、誰にでも言うだろ。オレは、あんたから聞く『かっこいい』は特別じゃなきゃいけねえんだ」
そう言って、和泉守はまた端末と向き合う。
「じゃなきゃ、こんなしち面倒くせー機械を学んだ意味がねぇ」
私が言うかっこいいが、特別じゃなきゃいけないって。
そのためにわざわざ学んだ、って。
それってつまり。
私は、今度は別の理由で和泉守兼定から目が離せなくなったのだった。