きっかけは本当に、ただ隣になったからという些細なものだった。
その時ボクは深く考えていなくて、所在なさそうにしていた彼女が気の毒だったから声をかけた。
名前を知っていたのは、クラスメイトの名前は全員覚えるようにしていただけ。
ボクは他人と深く付き合える性格じゃないから、せめて名前は覚えていようと、酷い言い方をするとそうなる。
確かに彼女は目立つ子じゃなかった。活発というふうでもなかったから、声をかけて迷惑そうだったら素直に引き下がろうと思っていた。というより、きっと迷惑だろうなと思った。
ところが彼女は、話をしてみたい、と言ってくれた。
これが本当に意外で、でも、すごく嬉しかった。
今まで他の誰かにそんなふうに言われたことがなかったものだから、『ボクと』話がしたいと言ってくれた彼女のことが、気になるようになった。
多分その時から、もう惹かれてたんだと思う。我ながら単純というか、ちょろいって思うけど。
だけど、彼女の目が特に気になったんだ。最初に声をかけたときから思っていたことなんだけど、時々、彼女は心を見るような目をした。
見透かすような鋭い感じではなくて、なんといえばいいか、表情や言葉から別の何かを拾い上げるような、そんな感じ。
だから、彼女の前で笑うのは気が引けるところがあった。彼女がボクから拾い上げた別の何か、それは一体どういうものだろうって。
それが気になったから、ボクはもっと彼女に近づこうって思った。彼女のことを、もっと知りたいって。
本の話?あれも偶然だった。ボクも図書室を利用したことがなかったから、あの本が入っていることも知らなかったし、ましてや彼女が読書家だってこともその時初めて知った。
本のことで高揚する彼女を見ていたら、ボクも嬉しくなった。知らなかった彼女の一面を見ることができて、少しは近づけたかなって。本は元々好きだったからね。
彼女のことを強く思うようになったのは、いつかの放課後、二人で図書室に行ったとき。
彼女が転びそうになったのを受け止めたことがあった。彼女は気まずそうにあわてて図書室を出て行ってしまったから、あの後ボクがどんな顔をしてたか知らないはず。もし見ていたなら、きっと気づかれた。
当たり前なんだけど、彼女は女の子で、背だってボクより小さいし、それにとても軽い。一度意識してしまうと頭から離れなくなった。
それで、気がついたら彼女のことで頭がいっぱいになってしまった、というわけ。
まさかりんごちゃんとの会話を聞かれているなんて思わなかったけど、結果オーライ、かな?でも勘違いさせて傷つけちゃったことは、今でも悔やんでる。
彼女が泣いてるところなんて、あと一度だって見たくないよ。まあ、泣いたってことは、彼女のほうにもその気があったってことだから、思い切って言ってしまえたんだけどね。
それがなかったら?そうだなぁ、もう少し先延ばしにしていたかも。だって彼女、全然そんなそぶりなかったから。きっとボクが一方的に思ってるだけだって、そう思ってた。話し始めたのが最近っていうのもあったから、もう少し機を待ってからでもいいかな、って。泣いてる彼女を見たらそんなの全部吹っ飛んでったんだけどね。何度も言うけど、彼女の涙なんてもう見たくない。笑っててほしい。彼女のあの目が細められて笑ったところ、ボク、本当に好きなんだ。
……え?りんごちゃん、なんで笑って――え、未登録名前ちゃん!?いつからそこに?最初から?なんで教えてくれなかったのりんごちゃん!すごい恥ずかし――ってこのタイミングで出て行くの?そんなのずるいよ!
……えっと、うん。まあ、そういうこと、なんだよ。そ、そんなにおかしい?いやまあ、確かに未登録名前ちゃんの笑った顔が好き、って言ったのボクだけどさ。
おかしいんじゃなくて?嬉しいの?そ、そっか。うん、ボクも。
キミと出会えて、嬉しい、よ。