「ぐっもーにん未登録名前ちゃん★」
「ああうん素晴らしい朝だね天気はいいし鳥は囀るし風は爽やかだしね佐々木さえいなければの話だけど」
「一呼吸でそれだけ言えるなんて、未登録名前ちゃんってやっぱりすごーい★」
「嫌味言ってるんだよ私はァ!」
知ってるよ?と返されて、私は更に肩を落とした。
佐々木。佐々木まぐろ。何故だかこいつは私のことを好いているらしい。
学校中の人気者が私のどこを気に入ったのかさっぱりわからないが、とにかくこうして、目ざとく見つけてきては話かけにくるのであった。ああ……朝の素敵な登校時間が、佐々木によってあっという間に奈落の底だ。
そう。私は佐々木が嫌いなのだ。なに考えてるか分からないし、勉強も運動もそつなくこなしてしまうくせに人当たりがいいところもむかつく。
再三それは言ってるはずなのに、佐々木はめげなかった。
「ついてこないでくれる」
早足で歩くも、後ろにぴったりと佐々木がくっついてくる。
「とは言っても、学校はこっちだし★」
「あんただけ別の道通ればいい」
「未登録名前ちゃんと一緒に行きたい★」
「私は一人がいいんだけど」
「つれない、なぁ★」
いらいらする。その話し方すっごいいらいらする。
なんでかって、そんなの。
「佐々木はさ」
私は足を止めて、振り返らずに言う。
「私をからかってそんなに楽しい?」
好きだとかなんだとか、色々言ってるけど。
口調からは本気っていう気持ちが微塵も感じられない。ってことは、ふざけてそういうことしてるんでしょ。
本当に腹が立ってしょうがない。
一番腹が立つのは……そんなおふざけにいちいち反応してしまう自分自身。
「からかってなんか、ない、よ★」
「嘘をつけ嘘を。じゃあ私のどこが好きだっていうの」
すると佐々木は黙り込んだようだった。
ほれみたことか、と私は佐々木を置いて歩き出す。
つもりが、
「どこっていわれると……いっぱいありすぎて、どこから言ったらいい、のかな★」
「はあ!?」
思わず振り返ってしまった。
佐々木はにかっと口角をあげて笑っている。
「まず、普段はそっけないけど本当はとっても優しいところかな?意思が強くて努力家なところも★あと顔、声も好みなんだよね★笑った顔ももちろん好きなんだけど怒ってるときもちょっと可愛いなって思うんだ★ばかにしてるんじゃなくって、いつも一生懸命なカンジがしてね★でもちょっぴり抜けてるところもあるよね?こないだ何もないところで転んでたし、そこもまた可愛いなって★あとは――」
硬直する私に近寄り、顔をのぞきこむような仕草をして。
「そうやって、ボクの言葉に反応してくれるとこ、とかね★」
「……だから嫌いなんだよ、私」
「それだと、ボクか未登録名前ちゃん、どっちの意味にもとれるけど★」
うるさい、もうどっちだっていいよ。好きなように解釈したらいい。
どうせこの真っ赤になった顔で言ったって説得力なんかないんだから。