お金じゃ俺は買えないぜ?
「って、どう考えてもゴスフェには合わないと思うのよ」
「メタいぞお前」
珍しくラブロマンス系の映画を観た後、ゴスフェが「俺もあんなセリフ言ってみてぇなー」とか言うので、鼻で笑ってしまった。てかメタいってなんだ。
「分かんねえじゃん。案外似合うかもしれないぜ?いつも以上にカッコいい俺とか見たくない?」
「え、別に……いつもカッコよくないし……」
「お前ほんっとうにムカつくよなぁ!?」
んなこと言っても事実だし、と言いかけたところでぐっと飲み込んだ私えらい。
隣で地団駄踏み続けるゴスフェはこれでも凶悪な殺人鬼のはずだが、私の前では一寸足りともそれを感じさせずにふざけたマスクで喚いている。そんなんだから迫力ないのになぁ。
「珍しくラブロマンス見ようとかいうから、なにか企んでんのかと思って身構えちゃったよ。損した」
「ええっ金払って借りてきたの俺なんですけど?熱心に見てたと思うんですけど??」
「いや内容はよかったよ。普段見ないから新鮮だったし」
「だろ?やっぱ俺の目に狂いはないね」
急にドヤったので鬱陶しく思いながら、ふわぁとあくびをこぼした。確かにゴスフェが持ってくる映画は面白いのだが、訪問が毎回夜更けなのでさすがに眠い。あとはグラス等片付けて布団に入るだけなのに、今日はひどく眠かった。
「眠いのか?」
「うーん……そうだねぇ」
また一つあくびをすると、ゴスフェがぐいと肩を押した。突然のことにあっけなく倒され、私はソファに沈む。その上にゴスフェが覆い被さり、ニヤニヤと見下ろしていた。(顔が見えなくても雰囲気で分かる!)
「な、に」
「うーん……潤んだ目が可愛かったから、かな?」
「なんで疑問形なんださっさとどけ!」
「それはできないなぁ」
「っあ、」
ゴスフェはさっと私の手首を掴み、股ぐらに膝を差し込む。まるで筋書きがあったみたいな手際に息を呑む。……まさか、狙ってた?私が寝不足気味になるのを狙って、わざと夜に来ていた?ゴスフェに限ってそんな。しかしこいつは仮にも殺人鬼。ひとの心理を読むことは、上手だったのかもしれない。
「あんた隙がないからこうでもしねえとなぁ……もういいだろ?」
鎖骨から、首筋を、ゆっくり撫でていく。手袋越しに伝わる体温に背筋がぞくりとし、思わず顔を背けるとくぐもった笑い声がした。くそうゴスフェのくせに。
「よくない。全然よくない。お金積まれてもやだ」
「うん?『お金じゃ俺は買えないぜ?』」
しまった、と思ったころにはもう遅い。私の視界は真っ黒に覆われて、口内は熱い息でいっぱいになってしまった。
診断メーカーより:「お金じゃ俺は買えないぜ?」