あれからわたしは、マロマートのお手伝いを自らかってでた。
お世話になりっぱなしはしゃくだから、自分にできることをしたかったのだ。
偶然にも、トアル村からやってきたマロという少年がお店をひらくというのでそのお手伝いをすることにした。(その歳で店主ってすごいな)
今日は一人で店番。
あんまりお客はこないけど、仕事はしなくちゃ。
わたしは商品を磨いたり、窓を拭いたりしていた。
そのとき、入り口のドアが開いた。お客さんだ。振り返って挨拶をする。
「いらっしゃいまー……ってリンク!」
「や、未登録名前」
そこにいたのは、いつぞやカカリコ村を救ってくれた緑衣の勇者様。
ミドナを連れていないところを見ると、村には休息にきたのだろうか。
わたしとしてはとても迷惑というか……気まずい。
だってあんなことがあれば、誰だってそうなる。
ほぼ初対面の人に、いきなりキスされれば。
「……で、なにか用ですか」
「敬語はやめてくれよ。俺と未登録名前の仲だろ?」
「ここはお店で、わたしは店員。敬語なのは当たり前です」
「でも敬語な未登録名前も可愛い」
「なんでそうなるっ!」
思わずツッコミをいれてしまった。
するとリンクはとぉっても嬉しそうに笑った。
「やっぱり未登録名前は普通がいいな」
ああ、してやられた。
わたしはがっくりとうなだれた。
「……んで、何が欲しいわけ?赤い薬?」
「未登録名前」
ゴッ
「おいおい大丈夫か?」
「誰のせいだ誰の!」
わたしはカウンターにぶつけたおでこをさすりながら、リンクをにらみつけた。
しかしリンクは一切ひるむことはなく、至って真面目だ。
だから困る。
こんなふうに、直情的に思いをぶつけられては、どう返していいか、わからないのだ。
「……何か大きな音がしたが」
そこへ、奥で商品の整理をしていたマロくんが顔を出した。
これはチャンスだ。
「マロくん後お願いします!わたしちょっと出てくる!」
「あ、ああ」
「まっ待てよ!」
リンクの脇をするりと抜けて(腕を掴まれそうになったけどなんとかかわした)、わたしはお店からダッシュで逃げた。
なぜかリンクも追いかけてきてた。
「なんで追うの!」
「未登録名前が逃げるからだろ!」
わたしは必死で走った。
けれど男性の体力に女性がかなう筈もなく、わたしはあっさり腕をつかまれてしまう。
そのままカカリコ村のはずれまで連れて行かれた。
「離して!」
必死にもがく合間に、リンクの寂しそうな声がした。
「……なんで、逃げるんだよ」
あんまりつらそうな声だったので、思わず抵抗をやめてリンクを見た。
眉をひそめて、じっとこちらを見ている。
「俺のこと、本当は嫌いなのか?」
ほんとう。ほんとうのこと。
それは、わたしは。
「俺、未登録名前のことが好きだって。何度も言った。でも未登録名前は答えてくれない」
だって、だってわたし。
「嫌いなら、はっきり言ってくれ」
「……嫌いじゃない」
「じゃあ、どうして」
それを口にするのは、とても辛くて、寂しくて。
けれど伝えなきゃいけない。
ほんとうのこと。
「わたし、は」
ノドが痛くて、声がかすれた。
「この世界の、人間じゃ、ないから。きっと、いつか帰らなきゃいけないから」
確定してるわけじゃないけど、きっとそう。
わたしはなにかの間違いでここにいる。
その間違いは、いずれ正される。
この村がトワイライトから正されたように。
わたしが元の世界に帰る日が、くる。
そうしたら、リンクの気持ちには応えられない。
応えちゃ、いけないんだ。
けれど、彼は。
「そんなこと関係ない」
「え、」
リンクは、そっとわたしを抱きしめた。
壊れ物でも扱うかのように。
「未登録名前がどこの人間でも。俺と未登録名前はここで出会ったし、今もいる。分からない未来のせいで、未登録名前の本当の気持ちを聞けないのは嫌だ」
「リンク」
「明日未登録名前がいなくなっても、俺は未登録名前のことが好きだし、これからもずっと好きだよ」
どうしてあなたはそんなに真っ直ぐなの。
迷ってるわたしが、ばかみたいだ。
未来におびえて本当の気持ちに嘘をついて、今を大切にしてなかった。
リンクのおかげで気づいたよ。
「……ありがとう。そこまでわたしのこと考えてくれて」
だから、ちゃんと答える。
「わたしも、リンクが好き」
リンクの青い瞳を見て、応えた。
彼は優しく微笑んで、
「やっと、未登録名前の気持ちが聞けた」
狼だったときみたいに、わたしの頬にすりよった。