なのかめ

次の日も、未登録名前は出てこなかった。
家を訪ねる気にはなれず、悶々としたまま仕事をして、そのまま家に帰った。
今日は、七日目。明日の朝には村を発たなければならない。
そのために、普段の服から勇者の服へ着替えて、しまっていた剣もだした。
けれど。
このままでいいわけがない。けれど、俺は彼女に何をしてやれる?

「なーに辛気臭い顔してるんだよ」

「……ミドナ」

窓から、ミドナが入ってきた。もう約束した夕方か。

「見つからなかったのか?」

「いや、見つかったよ。でも……」

「でも、なんだよ」

「……言いたくない」

「その割りには言いたいって顔してるぞ」

吐き出して楽になっちまえ、というミドナの言葉におされて、俺はこの一週間であったことを話した。
ミドナは特に相槌も打たずに聞いていたが、未登録名前の話になると、大げさにため息をついてみせた。

「めんどくさい女だな。世界が違うんだからもう諦めろよな」

「そう簡単に割り切れないから、こうして悩んでるんだろ」

未登録名前を悪いふうに言われて、俺は少しムッとした。
ミドナはそれに気づいたようだが特に言い改めることはしなかった。それ以上けなすこともなかったが。

「それで?どうすんだよ」

「どう、って……俺にはどうしようもないよ」

ミドナはまたため息をついた。

「オマエはどうしたいかって聞いてるんだ」

「俺が?」

「誰かが引っ張ってやらなきゃ、ソイツはずっとそのままだぞ」

「!」

ミドナはこう言ってる。
「オマエが彼女を引き上げてやれ」と。

俺は決心して、玄関に向かった。
後ろからミドナが、

「約束は夕方までだからな。日が沈むまでになんとかしろよ!ククッ」

頷いて、走り出した。
まっすぐ、未登録名前の家へ。
村の人にどうしたんだと声をかけられたけど、申し訳ないが話している余裕はない。
一刻も早く、彼女のもとへ。

未登録名前の家につくと、未登録名前は丁度玄関の扉を開けて出かけようとしていた。
しかし俺の姿を見ると、驚いてきびすを返した。

「待ってくれ!」

俺は閉まりかけの扉に体をねじこむ。
さすがに誰かに見られるのはまずい。
未登録名前は視線を合わせようとはせず、うつむいたままだった。

「どうして……会いたくないって昨日」

今にも泣きそうだった。
もう、君にそんな顔はさせたくない。させない。
俺は未登録名前の体をぎゅっと抱きしめた。

「り、リンク?」

「聞いてくれ、未登録名前」

迷っていたけど。ずっと迷っていたけど。
今なら言える。
大切なことを。

「俺、ずっと未登録名前のことが好きだったんだ」

「え……」

「だから、未登録名前が俺のこと好きになってくれて、すごく嬉しかったんだ」

「でも、わたしは」

「そんなの関係ない。俺は未登録名前が好きだ」

悩んでるってことは、それだけ俺のことを思ってくれてるってことだから。
それだけで十分……とはいえないけど。
素直に、喜ぶべきことだ。

「すぐに返事はくれなくっていい。気持ちに整理がつけられたら……その頃には、俺の旅も終わってるだろうから。そうしたら、また言うよ」

気持ちを伝えるのは、楽なことじゃない。
大変な勇気が、魔物と戦うときよりも大きな勇気がいる。
でも伝えたいんだ。
だって誰よりも何よりも、君のことが大事だから。
未登録名前のことが好きだから。

未登録名前は、俺の服をぎゅっと掴んだ。

「その姿、初めてちゃんと見るね」

「そう、だったか?」

「うん。すごく、かっこいい」

「……ありがとう」

「あのね、リンク」

「うん」

「過去は、捨てきれないけど……でも、わたし待ってる。リンクがもう一度好きって言ってくれるまで」

未登録名前は顔を上げて、

「それまでリンクの気持ち、預かっててもいい?」

俺に微笑みかけた。
返事は、決まってる。

「うん。俺の気持ち、未登録名前に預けるよ」

きみが恋するまで一週間  なのかめ

(思い出したことがあるの)
(なにを?)
(わたしが消える間際、ハヤトさんが最後に言った言葉)

(きみはきっと、元の世界で恋をする)
(そのとき俺の気持ちが邪魔になったら)
(一週間だけでいい、俺のこと思い出して)
(そしたら、忘れてしまってかまわないから)