にちじょう

「やっほーダーク……あれ」

いつもの丘にいくと、ダークは眠っていた。
起こすのもかわいそうなので、起きるのを待つことにした。
魔物でも眠ることがあるのか、と感心しながら隣に座る。
改めて見ても、かっこいいなぁ。
これで人間だったら、きっともてただろうな。
あ、でもそうしたらわたし以外の人にも知られることになるのか。それは困る。

「……ん」

一瞬起きたのかと思ったけど、寝返りをうっただけだった。
体をわたしのほうに向けて、腕をまくらにしている。
こうしていると、初めて会ったときのことを思い出す。
あの時もこうして、ダークは木の下にいた。

森で山菜を採った帰り、急に雨に降られたわたしは、丘にある木の下で雨宿りしようと駆け込んだ。
そこに、誰かが倒れているのに気がついた。
傷だらけで、仰向けに寝ていて、浅い呼吸を繰り返している。瀕死だということはすぐに分かった。
どうしよう、とうろたえていると、かっと彼の目が開いた。

「何見てんだ……殺すぞ」

その迫力にたじろぐも、彼のうめき声で我に帰った。
この人は、死にそうなんだ。すぐ助けないと。
わたしは雨の中急いで走って、家からありったけの薬と包帯を持って丘に戻った。

「バカ野郎、何で戻ってきた」
「あなたを助けたいから」

彼が睨んできても、構わず手当てを始めた。触るな、とか放っておけ、とか色々叫んでいたけど、わたしは助けたい一心だったので気にならなかった。
あらかたの治療、応急手当を終えるころには、彼もおとなしくなっていて、包帯が巻かれた腕や足を見つめていた。

「これだけじゃ、すぐ傷がひらいちゃう。医者を呼んでこないと」
「いらねえよ、そんなもん」
「でも……」

彼は鼻で笑い、

「気がつかなかったのか?俺は魔物なんだぜ。肌の色が違うだろ」

言われて、初めてそこで気がついた。

「ついでに言うと、こんな傷明日になりゃ治る」

だから手当ての意味がない、と彼は言いたかったんだろうけど。
わたしはそれよりも、彼が死なないということに安堵していた。

「よかった」

というと、彼は目を見張り、

「お前のしたことは無駄だったって言ってんだぞ」
「でもあなたが助かるなら、いいよ」

笑顔で言うと、彼は呆れたように肩をすくめた。

「魔物に向かって、助かってよかった、なんて、初めて聞いたぜ。なぁ、なんで俺を助けたんだ?」
「なんでって……そりゃあ、誰かが怪我してたら、助けるのが当たり前だし」
「俺は魔物だっつってんだろ」
「変わらないよ。生きてることには」
「……変なヤツ」

はぁ、と彼は大きな溜め息をついた。
そんなに可笑しなことを言ったつもりはなかった。
確かに魔物は怖いし、へたをしたら殺されてしまっていたかもしれない。
でも彼はわたしを殺そうとはしなかった。
理由なんて、それで十分じゃないかな。

「ねえ、名前はなんていうの?わたしは未登録名前っていうの」

ややあって、

「ダーク」

ぽつりと呟くように彼は答えた。

それからわたしは、毎日決まった時間にダークのもとへ足を運ぶことにした。
最初はあまり会話らしい会話はなかったけど、あしげく通ううちに話を聞いてくれるくらいにはなった。
自分の話は、しないけど。

「……う、ん……?」
「あ、ダーク起きた?」

顔を覗き込むと、ダークはがばっと跳ね起きて、

「ななな、なんでお前がここにいるんだよ!?」
「なんでって……今更だよ、それ」

起きたばかりで動揺してるのかな。

「来てるなら起こせよ!」
「だってよく寝てたから。起こすのよくないと思って」
「は、恥ずかしいだろうが……!」
「なにが?」

ダークはもごもごと言いにくそうにして。

「……寝顔、見られるのが」
「……っぷ、」

あまりにかわいい答えだったので、思わず吹き出していた。
ダークは顔を真っ赤にして怒った。

「笑うな!」
「だって……くく」
「あーくそ、最悪だ!」

わたしは珍しいものが見られて嬉しいけどね!

「まあいいじゃない。寝顔かわいかったよ」
「言うな恥ずかしい!」
「はいはい」

初めて会った時より、ずいぶん雰囲気が柔らかくなったな、とわたしは思った。
それって、わたしに心開いてるってことなのかな?
そう思ったら、少し嬉しくなって、ダークににこりと笑いかけた。

「なんだよ、急に」
「なんでもないよ」