西の月。暗い夜。冷たいベッド。見上げる瞳。
紅い魔物にまたがって見下ろすわたし。
「知っているぞ」
魔物が三日の月より細く笑った。
「お前のいた世界では、お前の年齢でこういった行為に及ぶのは犯罪だと」
するする、と剥き出しの太ももを撫でる。
「なぜ私なんだ?」
淫靡で野蛮な手つきで短いスカートをたくし上げる。ぞわぞわと背筋を何かが走り抜けていき、行き場のない感情が喉から溢れた。
「あなた、が、一番後腐れしなさそうだったから」
返答はなかった。でも、手を止めることはしなかった。その往復は、知り合いの友人と瓜二つの容姿を持ちながらも知り得た手筈は全く別物なのだと思い知らされる。情も何もかも感じさせない、乾いた手のひらだった。
そういうところが好きだった。ひとつになりたいと思った。何もかも手に入れて、手に入れられたいと願った。
だけど。
あなたの瞳にわたしは入らなかった。
「ねえ。買ってよわたしのこと」
腰をかがめて覗き込む。彼の髪とわたしの髪が複雑に絡み合って、全く別の色を成しているように見えた。きっと今しかこの色は見えない。離れれば、もう二度と。
「いいだろう」
手のひらがさらに上を目指してゆく。
「被害者になるつもりはないが、共犯者にはなってやろう」
その指先が溶けていくのを、混じり合った奥底で感じていた。
BGM:売春/女王蜂