「いい加減にさ、観念したらいいんだよ」
そう言って、彼女は綺麗に笑った。タバコを挟んだ細くて長い指が、塵の積もった灰皿へ向かい、リズミカルに揺れてまた塵を増やしていく。
以前、彼女は言っていた。この灰皿は、ボクと会うときにしか使わないと。だからこの灰皿に積もった塵は、その分だけ彼女とボクの時間を表している。山積みの塵。燃え残った灰。ボクにはまだ知りようもない味。
「ボクはあなたを犯罪者にしたくないので」
そのことばは彼女にだけ設え続けた。
「だから諦めてください、ね★」
彼女は、ふーっと長い息を吐いた。苦い煙が部屋を舞って、やがて色をなくした頃、ぐしゃりとタバコを揉み消した。
「そうやって」
でも、彼女はまた綺麗に笑う。
「上手なことばで隠していられるのも今のうちだよ。その星みたいにさ」
ボクは、と、言いかけたけれど、彼女が会話をやめて景色を眺め始めたのでその音は喉の奥に仕舞い込んだ。それから、彼女が掻き消した煙が、部屋に滲んで溶けたはずのそれがかすかに溢れ出してゆくのを感じていた。