朝から未登録名前の姿を見なかった。
いつもなら雑貨屋を手伝ったり畑をいじったりしているのに。
聞くと、村の人たちも未登録名前を見ていないという。
もしかして、やっぱりどこか怪我をしていて、後になって響いてきたんだろうか。
心配になって、仕事を終えてから未登録名前の家を訪ねた。
ノックをしてから、未登録名前を呼ぶ。
「未登録名前、どうしたんだ?今日は外に出てないみたいだけど」
しかし、返事はなかった。
家を空けているのだろうか。でも村の誰も未登録名前の姿を見ていないというから、それはないだろう。
まさか、またいなくなったんじゃ。
恐ろしくなったころ、未登録名前の弱弱しい声が聞こえてきた。
「……ごめん。今日は、かえって」
「未登録名前?」
「会いたくないの……」
それは、どうして。
昨日は俺に会いたいって、言ってたのに。
少し、いやかなりショックだった。
未登録名前から拒絶されるのが初めてだからというのもあった。
一体未登録名前になにがあったんだ。
その理由を聞くまでは、帰れない。
「教えてくれ。どうして会いたくないんだ?」
ややあって、
「わたし、ひどい女なの」
何を言ってるんだ。
未登録名前ほどいい子は他にはいない。そりゃ多少贔屓目もあるけど、未登録名前は優しくて、よく気がつく子で、村のみんなが慕っているのに。
「リンクに、ひどいことをしたの」
「俺に?」
思い当たる節はない。俺からなにかすることはあったとしても(そんなこと絶対しないけど)、未登録名前からひどいことをされるなんてありえない。
「思いつかないよ。未登録名前が俺になにかしたなんて」
「……リンクは、気づかないかもしれない。だって、これはわたしのエゴだから」
要領を得ない会話。
俺はどうしたらいいか分からない。
「はっきり言ってくれ。でないと怒ることも許すこともできないよ」
返ってきた言葉は、
「わたし、ハヤトさんのことが、好きなのに。まだ好きなのに。リンクのことも、好きになってしまったの」
俺を絶句させた。
「ひどいよね。ハヤトさんにもリンクにもひどいことしてる。分かってるの、けど気持ちがとまらなくて」
一度口にしてしまったら、関を切ったように言葉があふれる。
俺の胸につきささるような言葉が。
「どっちかなんて選べなくて、どうしたらいいか分からなくて、こんなぐちゃぐちゃな気持ちのまま、リンクに会えない。会えないんだよ……」
未登録名前が俺のことを好きになってくれた。
それはとても嬉しいことのはずなのに。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
どうして未登録名前は泣いてるんだろう。
泣いてるところは見たくないのに。
「お願い、今日は帰って……」
どうすることもできない俺は、その場を立ち去るしか、なかった。