未登録名前は見つかったが、ミドナが戻らないので、俺は言われた一週間、残り3日を村で過ごすことにした。
未登録名前にあんな顔させる誰かが憎い。
俺の知らない未登録名前を知ってる誰かが憎い。
顔も知らない誰かが憎いなんて初めてのことで、俺は気持ちをもてあましていた。
誰かに相談する気にもなれなかった。
自分の醜い感情を吐き出すことが怖かった。
今日は早々に仕事を切り上げて、村から少し離れた川で釣りを始めた。
ほかの事に集中していれば考えなくて済むだろうと思ったが、仕事をしていてもぼんやりしていたのに釣りで気が晴れることはなかった。
おまけに、俺をあざけるように魚は釣れない。
(ダメダメだな、俺)
自分が嫌になった。
「……リンク?」
「え、あ」
そこへ、ひょっこり現れたのは、未登録名前。
「昨日、様子がへんだったから。気になって……」
「いや、」
今は、出来れば会いたくなかった。
こんなきたない感情にとらわれている俺を見られたくなかった。
でも、会いたかった。
未登録名前と話していると、やっぱり嬉しかった。
未登録名前は俺の隣に座って、浮きを見つめている。
そういえば。
「もう、起き上がって大丈夫なのか?」
「うん。もともと、どこも怪我してないしね」
そうか、ならよかった。
頭を打ったんじゃないかと心配したから。
「釣れる?」
「全然」
未登録名前はくすくすと笑った。
つられて、俺も笑った。
さっきまでの、自己嫌悪がうそのようだ。
未登録名前が笑顔を見せてくれるだけで、こんなに晴れやかな気持ちになれる。
「リンクでも釣れないことあるんだねー」
「そりゃあな。魚だって必死なんだよ」
「必死さで負けちゃったわけだ」
「まだ負けと決まってないからな」
「負けず嫌いだね」
「まあな」
「ふふっ。そういえばハヤトさんも――」
未登録名前はしまったという顔をした。そしてすぐに、申し訳なさそうな顔で俺を見た。
「ごめん。向こうの世界の話……リンクは嫌いなんだよね」
「……うん」
話というよりは、その「ハヤトさん」が嫌いなんだけどな。
でもそんなこと言えばどうしてって聞かれるから、黙っていた。
また、俺の中できたない感情が渦巻き始めた。
多分顔にも出てるんだろう。未登録名前が、すごく悲しそうな顔をしてる。
俺は、最低だ。
自分の独りよがりで、彼女を悲しませている。
本当は笑顔になってほしいのに。俺じゃ、俺なんかじゃ、だめなのか?
俺は「ハヤト」に勝てないのか?
「ほんとに、ごめん。わたしっ、帰るから……」
行って欲しくなかった。けど、このままじゃ彼女を傷つけるだけだ。
俺は黙っていた。
未登録名前はもう一度「ごめん」と言って立ち上がった。
「っきゃ、」
勢いよく立ち上がったからか、未登録名前がバランスを崩して倒れそうになった。
すかさず俺は立って未登録名前の体を受け止める。
「大丈夫、か?」
すんでのところで、未登録名前は川に落ちずに済んだ。
「う、ん。ありがとう……」
未登録名前は姿勢を正すと、なぜかその場から動こうとはしなかった。
俺もなんとなく動けなくて、視線を泳がせていた。
なんだ、この空気は。
ちらっと未登録名前を見ると、うつむいたまま胸を押さえている。一体どうしたんだろう。
さすがにいたたまれなくなって、何か言おうとした。
「あのさ、」
「わっわたし帰るね!ありがと!」
未登録名前は弾かれたように、走り去ってしまった。
本当、どうしたっていうんだ。
俺、なにか……したなあ……。
未登録名前の悲しげな顔を思い出して、また自己嫌悪。
でも、
去り際に、未登録名前の顔が赤かったのはなんでだろう。