エンドレス・ラヴァー

エンドレス
ラヴァー

 白い閃光の中、私は誰かに抱きかかえられていた。いつの間にか風も止み、辺りは静かになっている。恐る恐る目を開けると、私を抱き上げていたのは金色のハリネズミ。私には誰だかすぐに分かった。この眼差しや雰囲気は間違いなく彼のもの。

「シャドウ」

 シャドウは私を見ると、ふ、と笑った。初めて見る表情だ。

「まさか、こんなところまで追いかけてくるとはな」

「覚えてたんだ」

「当たり前だ。……こんなことに巻き込みたくはなかった」

 その時、私は女の子の言葉を思い出した。あの子が一体誰なのか、そもそも夢なのかも分からないけれど、あの子が語っていたのは間違いなく彼のことなのだ。

「シャドウ、私。あなたに言いたいことがあってここまで来たんだ」

「奇遇だな、僕も同じだ」

「じゃあ、先に言わせて」

「ああ」

 私は深呼吸してから、もう一度シャドウを見上げ、

「病院代払えやコノヤロォォォォ!!!!」

 渾身の右ストレートがシャドウの顔に命中した。

「シャドウってさ。私のどこが良かったの?」

 昼下がりのカフェにて、ランチのパスタを食べながらふと思ったことを口にしてみた。シャドウは紅茶のカップを置いてしばらく逡巡した様子を見せると、

「僕にもよく分からん」

「なんだそれ」

「気が付いたら、頭から離れなくなっていた。君も同じなんだろう?」

 ふ、と柔らかく微笑まれ、気恥ずかしくなった私は視線を逸らす。あのとき初めて見た表情は時折見せてくれるのだが、なかなかどうして慣れないのだ。

「……そうだけど」

「素直じゃないな」

「うっさい」

 文句言うとか病院代とか、何だかんだと適当な理由を付けていただけで、根本的な思いはシャドウとずっと同じだった。まあ、シャドウが私をってのは全然気付かなかった……っていうか未だになんで私なんかをっていう思いすらあるんだけど、彼に言わせれば「お互い気持ちに嘘はないのだから気にするだけ無駄」らしい。それもそうだと思いつつ、意外に感覚で動くところもあるんだなと新たな発見。

「僕は君のほうが意外だったがな。全くそんな素振りもないどころか、顔に一発もらっている」

「ああーーそれはなんというか勢いあまってっていうか照れ隠しっていうかね!本当すいませんでした!!」

「君は頭が回る割にバカだ」

「褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれ……」

「安心しろ。愛情表現だ」

「ますます分かんないわ!」

「何でもいいから早くしろ。映画の時間が迫っている」

「うっそ早く言ってよまだ食べ終わってすらないんだけど」

「残せばいいだろう」

「シャドウに払ってもらってんだからそれは嫌」

「……ハァ」

 なんでため息ついたんだ私変なこと言ったか?とツッコミを入れたくなったがパスタを咀嚼するのに忙しかったのでじっとシャドウを見ていた。シャドウは呆れた顔をしていたが、ほんの少し口角が上がっているのに多分気づいていないのだろう。

(どうやら最悪と最高は紙一重らしい)