キミにおける熱量

じわじわと照りつける日差し。
彩度の高い青空。
アスファルトに発生する逃げ水。
ついに耐えられなくなった私は、電柱に手をついて足を止めてしまう。

「大ッ嫌いだおまえなんか……!」

「えっ」

「え?」

盛大な独り言のはずが後ろから返事があった。驚いた私は手を離して振り返る。

「あれ、まぐろくん」

同じ中学校に通うクラスメイトのまぐろくんがいた。
なぜか居心地悪そうに頬をかいて。

「どうしたの?」

「え、いや……今、大ッ嫌いって声が聞こえて★」

あ、そういうことか。

「ゴメンゴメン。それはこの暑さに対してだよ。まぐろくんのことじゃないよ」

そもそも後ろにいるの気づかなかったし、と付け加えれば、まぐろくんはほっとしたのかいつもの表情に戻った。

「よかった★後姿を見つけたから、一緒に登校しようと思って、声かけようとしたから、さ」

「そうだったんだ。じゃ、一緒に行こうか」

「うん★」

並んで歩き出すと、私はあることに気がついた。

「ねえ。まぐろくんは暑くないの?」

暑くて歩みがのろくなりがちな私と違い、まぐろくんはなんかこう、颯爽としている。いつもそうなんだけど。

「暑いことは暑いけど、そこまで気にならない、かな★未登録名前ちゃんは暑いの嫌い?って、さっき言ってた、ね★」

「そうなんだよ。私暑いの嫌なんだよね。汗でベトベトするし疲れやすくなるし」

それが気にならないっていうんだから、全くうらやましいことだ。

「ねえ、どうしたら気にならなくなるの?修行?」

「修行って★ボクの場合は、そうだなあ……」

「なになに」

まぐろくんは、くるっとこちらを振り向いて。

「好きな人と一緒にいること、かな★」

それって、つまり。

「好きな人と一緒にいるところを想像してれば、気にならなくなるってこと?なるほどなーさすがまぐろくん!」

「え、っと★」

「そうだよね、好きな人と並んでるって想像するだけで、暑さとかどうでもよくなってくるね!そう思ったら急に元気でてきた!ありがとう!」

「あーうん、それなら、いいんだけど★」

「よっし!元気がでてきたところで、そろそろ急ごうまぐろくん!遅刻しちゃうよ!」

「ま、待って未登録名前ちゃん★」

どうやら私は暑さで思考が鈍っていたらしい。確かに他に夢中になることを思い浮かべれば、暑さなんて気にならなくなった。
意気揚々と歩き出した私の後に、まぐろくんがついてくるのをちらっと確認して、また前を向いた。
その、思い浮かべた好きな人が、まぐろくんだって言ったら、どうなっちゃうのかなあ。
普段なら考えないことを考えてしまうのは、やっぱり暑さで思考がおかしくなってしまったからだろうか。

(ところでまぐろくんの好きな人って?)