クリア

「あのさ、****」

「なんだ」

「どこかの国の、昔話を思い出したんだ」

「……」

「その国ではね、死んだら魂が――」

「どうでもいい」

「よくないんだよ。ちゃんと聞いて。……魂がね、生まれ変わるんだって」

「馬鹿な」

「そうかもしれない。でも、信じたいよね」

「お前が生まれ変わると。そう、言うのか?」

「そうしたら、全部やり直したいんだ」

「……なにを」

「キミとの関係。いっかい全部、消してしまって。それからまた、出会いたい。だって私は――」

「……」

珍しいこともあるものだ。
いつもの通りアヤさんを訪ねに博物館に来て見れば、机の上で片腕を枕に居眠りをしているアヤさん。
起こさないようにそっと隣に座って、私はアヤさんの顔をまじまじと眺める。
顔は乗っ取っている級友の顔立ちほぼそのままなのだが、やはり魂が違うとなると雰囲気も厳しいものに変わるようだ。それでも眠っている顔は、どこか穏やかだった。
そういえばこんなふうにアヤさんを見ることって今までなかった。自分の弱味は絶対に見せない人だから――

その時アヤさんの、閉じられた瞳から一筋、透明なものが流れていった。

「――っ!」

声をかけようとして、口を開きかけたが、ややあって閉じた。
透明な、涙を流すほど悲しい夢なら起こさないといけないと思ったが、表情は相変わらず穏やかで、かすかに笑っているようにさえ見えた。
こんなアヤさんを、私は一度も見たことが無い。私の知らないアヤさんが、そこにいる。

無性に寂しくなった私は、アヤさんから顔を背けて目を閉じた。

もし私が魔物だったら、アヤさんももっと気を許してくれたかな。
いっかい全部消してしまって、アヤさんとの出会いをやり直したら、そうしたら。

(でもきっと、****は同じように接するよね)

苦笑して、私はイスから立ち上がってアヤさんが起きるまでの本を取りに行った。
何を読もうかと本棚を見ていて、ふと思い出す。
私。さっきなんていう言葉を思った?