スペース・ロスト

スペース
ロスト

 私は今宇宙にいる。いや比喩でもなんでもなく、宇宙船に乗って宇宙からあの青い星を眺めているのだ。平々凡々に生きていた私がこんな一大スペクタクルに巻き込まれるだなんて……人生って何が起こるか分からないもんだなあ……。

「しっかし未登録名前、根性あるよな。シャドウを追いかけてあんなところまで来るなんてさ」

 隣にいた青いほうのハリネズミ、ソニックがからからと笑った。

「まあ……今考えるとちょっと無謀すぎたなーとは思うけどね」

「行動力はあって損はないぜ?」

「あはは、ソニックが言うとすごい説得力」

 深く頷くと、彼は「だろ?」と言って不敵に笑った。さすが世界の英雄ソニック・ザ・ヘッジホッグ。そういや遺跡じゃ慌てて気づかなかったけど、私超有名人と知り合ってしまったんだなあ……人生何が以下省略。
 遺跡でシャドウを取り逃がした後、ソニックは「一緒に来るか?」と遊びに誘うような気安さで宇宙船に乗せてくれた。なんでも、黒いヤツらの本拠地がブラック彗星にあるらしく、そこのボスが奇跡を呼ぶ石カオスエメラルドを地球から持ち去った。シャドウはカオスエメラルドを集めているから、彗星に行けば必ずシャドウに会える、とのことだった。
 私みたいな戦えない一般市民がそんなところに着いて行って大丈夫なのかと流石に不安になったが、宇宙船の持ち主であるテイルス君は「車が運転できるなら宇宙船も動かせるし、人手が増えるのはいいことだよ」などとアッサリ言ったし、ソニックのガールフレンドだというエミーも(ソニックは否定しまくってたけど)、女の子が増えるのは嬉しいと言うし、ナックルズには警戒されたけど、ソニックたちに押し切られる形ながらも認めてくれた。みんなそんなノリでいいんだろうか……私が言うことじゃない気もするけど。

「そういえば、テイルス君どっかで見たと思ったけど、あの子テレビ出てたよね。有名人の知り合いはやっぱり有名人?」

「やりたいことをしてたらいつの間にかそうなってたってだけさ。未登録名前もオレも、何も変わらないと思うぜ?」

「ひゃーっ!かっこいいなぁ、普通そんなセリフでないよ」

「そうかぁ?ま、かっこいいって言われて悪い気はしないけどな」

 うーん何という大物の余裕。シャドウもソニックぐらい寛容になってほしいもんだなあ。
 なんて一人で感心していると、突然機体が大きく揺れた。

「敵襲だ!ブラックアームズだよ!」

 艦内放送に響き渡るテイルス君の声。ついに戦闘が始まったらしい。ソニックは私にモニタールームにいるエミーと行動しろと指示して、すごい速さでコックピットへ駆け出した。
 言われた通りにモニタールームへ行こうとしたが、突然、体が動かなくなった。まるで石になったみたいに。

(え。なん、で)

 声を上げることさえままならない。冷や汗だけは出たらしく、生暖かい雫が頬を伝った。
 どうしよう。なんで。どうして。だれか――

 やがて、私の意識はすうと遠のいていった。