ブラック・インシデント

ブラック
インシデント

 ……どこだここ。
 気がついたら檻の中にいた。檻っていうか、なんていったらいいのか……とにかくめちゃくちゃ気持ち悪い場所だった。床から天井から生暖かくぶよぶよとしていて、時折生き物のようにうごめいている。試しに格子に触れてみるとドクドクという感触がした。気持ち悪さをぐっと抑えて押したり引いたりしてみるが、格子と檻の繋ぎ目が一切ないせいかビクともしない。この檻が一つの生き物のようだ。格子の間から外を覗き込むと……薄暗いせいでよく見えないが、外ではなく広いドーム型の屋内で、そこもまたこの檻と同じような材質で出来ているようだった。出入り口が一つしかないところを見ると、ここが最奥なんだろう。
 なんでこんなことに、というのは、心当たりはある。っていうかソレしか考えられない。だからあまり混乱もせず冷静でいられたんだと思った。

「目覚めたようだな」

 地の底から湧き上がるような低い声。格子から離れると、ヒトデのような黒い物体がすうと現れた。中央にある黄色い一つ目が笑うように歪む。

「……私をダシにする気?」

 あのタイミングでこの状況、どうせコイツはブラックドゥームの一味で、私を人質にしたってところなんだろう。ソニックたちの中で一番戦えないから。

「ほう、飲み込みが早い。ならば分かるだろう。貴様はカオスエメラルドと引き換えだ。大人しくしていれば手荒なことはしない」

 まあ、そう言うからにはソニックたちが来るまでは殺されないんだろう。五体満足かどうか聞きたいところだけどコワイからあえて黙っとく。他にも聞きたいことあるし。

「ねえ……あの宇宙船に入り込めたんなら、わざわざこんな回りくどいことする必要あったの?」

 ブラックアームズの狙いはカオスエメラルドだと聞いた。それならわざわざ私をさらってこなくても、あの宇宙船からエメラルドだけ抜き取るなんて楽勝だと思うんだけど。
 すると目玉は、

「何を言っている」

「へ?」

「あの船に用はない。用があるのは貴様だ」

「……へ?」

「なにか勘違いしているようだな。青いハリネズミどもはエメラルドを持っていない。今所持しているのは、我々と、シャドウだけだ」

 ……いや、ちょっと待てよ。ますますワケ分かんなくなってきたんだけど。ちょっと整理しようそれがいい。そういえばソニックたちはエメラルドを持ってるって話はしてなかったな。それは分かった。で、ブラックアームズはシャドウが持ってるエメラルドが欲しいんだよね、うん。だから、私がさらわれて……って、

「まるで意味が分からないんですけど!?」

 ひょっとしたら私がシャドウの知り合いだからかもしれないけど、シャドウと私の接点なんか無いに等しい。おまけにあの性格の持ち主が人質ごときでエメラルドを渡すとは到底思えない。この目玉のほうがシャドウと因縁ありそうなのに(何せ人質とってゆすろうとしてるくらいだし)、それが分からないはずがないだろう。

「……成る程な、そういうことか」

 目玉は喉の奥でくつくつ笑い(そういやどうやって声出してんだ)、また意味不明なことを言い出した。

「貴様はシャドウをよく知らんのだな?」

「そうだけど」

「ならば、ますます貴様には利用価値がある」

「どーーしてそうなる!?」

 檻にしがみついて叫ぶと、一筋の風が吹き抜けた――かと思うと、

「ブラックドゥーム!!」

 一つの影が私の前に躍り出た。